2 リリース、サンセットスカイラクーン!

 2 リリース、サンセットスカイラクーン!

「ありがとう! おいしい!」

「そう。ならよかった!」

 お母さんとお店で買ったたい焼きを食べながら、ショッピングモールの通路を歩く。

 たい焼きはやっぱりあんことチーズのミックスだよね。

「このあとはどこか寄るの?」

「うーん、他に買うものはなかったと思うから、直陽が特にほしいものなければ帰るよ」

「んー……多分大丈夫!」

「そう言って、新学期あれがないこれがないっていうのはやめてよ?」

「はーい」

 お母さんの注意に、適当に返事をする。

 だってめんどくさいんだもん。

「じゃ、もうこのまま――」

 そう言いかけたときだった。

「うわあああ!!」

 大きな叫び声がモールにこだまする。えっ、と驚いてると、続けてガラスが割れる音がした。

 ガシャーン!!

 いままで聞いたこともない、とびっきりの音。すぐにやばいということがわかる。音がしたほうに目をやると。

「ガ、ガ、ガ」

「……え」

 そこにいたのは、ブリコラージュが作りだした怪人、アサンブラージュだった。

 元は多分、洗濯機。けど今それは何倍にも大きくなって、見たことない、手のついたアームをいっぱいのばしてる。こっちに。

「えっ、えええ!?」

「みんな、逃げろー!!」

「アサンブラージュだ!」

 ボクが棒立ちになってると、周りの人たちが叫びながら出口へ向かう。でも。

「ガガガガガ!」

 気持ち悪い声をあげながら、アサンブラージュは扉の前の通路に向かってアームを勢いよく飛ばす。通路がそれを避けられる訳なく。

 ドガーン!!

 通路には大きな穴が空いてしまった。これじゃ、ここから出られない!

「非常口は!?」

「あっちからはどうだ!」

 みんな他の出口を探すけど、そんなみんなをばかにするみたいに、アサンブラージュが周りの通路や階段をどんどん壊してく。

 ボクは動けないまま、飛んでくる破片から自分を守ろうと両手を頭にあてていた。

「お母さん! ···お母さん!?」

 あれ、お母さんは!?

 気づいたらお母さんは近くにいなかった。

 はぐれちゃったんだ! どうしよう……?

「す、スマホ、連絡とらなきゃ」

 こんなときに出てくれると思わないけど、お店の中のカウンターの下に隠れて、スマホをかばんから取りだす。

 手の震えが止まらなくて、なかなかロック解除ができない。

「ああ、もう! はやく、早く早く、早く!」

 なんとか指を動かしてたときだった。

「え!?」

 急にスマホ画面にノイズが走る。ザーザーと砂嵐みたいなものが画面全部を包んだ。

 なんでこんなときに!? もしかしてこれもアサンブラージュになっちゃうとか!?

 そう思って手を離そうとすると。

『認証コード、クリア。セキュリティパス、クリア。……全項目クリアを報告します』

 変な声がどこかから聞こえた。声なのに、生きてる感じがしない。

 たとえるなら、電話をかけて相手が出なかったときにする『現在出ることができません』の音声。

 どこから、と思って周りを見る。と、手の中のスマホの中のノイズがやむ。

 かわりに、青く光りだした。

「えええっ、なに、なに!?」

『判別コード、012……通称『レイニー』起動します。』

 その言葉のあと、ぱっ、とさらに強くスマホが光る。思わず目をつむった。

 けど、攻撃とか、そういうものはなにも起こらない。

 おそるおそる、目を開けてみる。

『こんにちは、空閑直陽サマ』

 スマホの画面の中にいたのは、ひとりの女の子だった。

 ボクと違ってショートカットの髪型に、ぴったりしたボディスーツ。その上からサイバーな雰囲気のかっこいい服を着ている。アニメやゲームのキャラクターみたいな子。

 その子はじっとボクを見た。

「なに、なに……」

『ワタシはバージョン8.4バランサーサポートタイプアーティフィシャルインテリジェンスおよび超干渉可能アサンブラージュ制圧人工知能。略称BSAI。判別コード012。デフォルトネームはレイニーであると報告します。よろしくお願いいたします』

「……へ?」

 なんて言ったんだ、この子。すごく長い文章を言ったってことだけわかったけど···。

「だ、誰? なに? なんでスマホに? キミもアサンブラージュなの?」

『いえ、先ほども申しあげたとおり、ワタシは空閑サマのサポートをさせていただくAIです』

「サポー……ト?」

『空閑サマには、これからあのアサンブラージュと戦っていただきます』

「え」

『本来ならばもっと早くに適性を報告して、説明および動作テスト等をこなしてから実践なのですが、こんな状況ですので、いかんせん余裕がありません。早くリリースしてください』

「は? は? は?」

 なにを言ってるんだこの子。

 そんな言い方、まるでボクはバランサーみたいじゃないか。

 ありえない。そんなこと。

「な、なにそれ……」

『説明はあとでいたします。今はとりあえず変身リリースして、時間を稼いでください。その間にワタシがあのアサンブラージュをハックして、ウイルスへのワクチンを作ります』

 頭がからっぽになる。なにも考えられない。

 つまり選ばれたってこと? ボクが、バランサーに?

「急に、そんなこと言われても――」

 ドゴン!!

 ボクの言葉をさえぎるように、うしろで大きな音がする。どこかの壁が壊れたんだろう。

 みんなの叫び声もいっぱい聞こえる。このままじゃみんなが危ないってことは、すぐにわかった。

 ここでもだもだしてたら、ボクだってお母さんだって、ひどいケガをするかもしれない。

 もしかしたら、死んじゃうかも。

「~~~っ、わかった! リリースの方法教えて!!」

 立ちあがってカウンターから出る。

 レイニー、と名乗った少女はにこりともせず、説明をはじめた。

『では、マニュアルにのっとり、チュートリアル・変身編をはじめます。まず、かけ声をして、認識に入ってください。かけ声は『BSAI、リリーススタート』。復唱してください』

「び、BSAI! リリーススタート!」

 そう言うと、ブンと音がして、ボクの周りを大量の青いホログラムが包む。

 なんか、難しい英語や訳わからない数字がたくさん並んでる。

『認識クリア。これよりリリースに入ります。よろしいですか?』

「は、はいっ!」

『――解放リリース

 レイニーがそう言った瞬間、視界が青く染まる。それだけじゃない、体も光りだした。周りからは、ガシャガシャと機械的な音がした。

 ホログラムが変形して、リリーススーツの一部になっていく。それがボクを包むように配置され、ガシャン! とボクの体にどんどんついていく。

「わ、わ」

 腕、足、体。ずっしりとした重みが、緊張をふくらませた。

 いまだに夢なんじゃないかと疑う自分がいる。

 でも、顔をすっぽり隠すマスクが被せられた瞬間、これが現実ということがひしひしとわかった。

『『サンセットスカイラクーン』、解放完了』

 バシュン! バシュン! とスーツの上を光が走って、マスクの上でバイザーみたいになる。

 スーツの中からだと自分の姿はよくわからないけど、近くのまだ割れてない鏡が、今のボクの姿をはっきりと見せた。

 きらりと光る、オレンジがかった赤い色のボディ。

 スリムだけど少し特徴的なデザインのヘルメット。

 なぜかスーツのうしろ、腰あたりには、大きなしっぽのようなものがついていた。

「え、えーっと……サンセットスカイ……ラクーン? ここに見参!」

 とりあえず、決めゼリフっぽいのを言ってみた。

 けどレイニーの反応は冷たい。

『では戦闘に移行してください』

「せっ、せんとっ」

『はい。戦ってください』

 ……まだ心の準備、できてないのに!!

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