狐火の照る山

オルカ

第1話 プロローグ―大稲荷山の伝説

 ここは日本の片田舎。田畑が広がるのどかな場所で、現在は大稲荷町おおいなりまちという名前の町となっている。この町を見守るようにそびえる大稲荷山おおいなりやまという緑豊かな山には、多くの野生動物が生息している。この町の人々は、昔から大稲荷山が育む山の恵みをいただきながら、豊かに、そして平和に暮らしていた。しかし、人々は、大稲荷山の恵みに感謝すると同時に、この山を恐れてもいた。


 昔から、この山には多くの狐が住んでおり、その狐たちを束ねるイナリ様という神様がいると信じられてきた。山には毎晩、狐火が灯り、イナリ様を中心として狐たちの宴が繰り広げられるといわれている。また、町の人々が木を伐りすぎたり山菜を採りすぎたりしたとき、山の長であるイナリ様は怒り、手下の狐たちを使って人々を化かしていた。例えば、大稲荷山の木で作った家が一夜のうちに跡形もなく消え、辺りに灰が散らばっていたり、採ってきたはずの山菜がすべて毒のある野草に変わっていたりしたことがあったそうだ。しかし、人々は狐を恨むことなく、イナリ様を怒らせないよう山の恵みを大切にして暮らすようにしていた。やがて狐たちによる悪さはなくなり、人々は平和に暮らすようになった。


 そしてあるとき、町の人口が増え、田畑を整備するために大稲荷山を切り崩し始めた時代があったそうだ。狐の悪さがめっきりなくなったことから、人々は「狐の悪さなぞ昔ばなしだ」、「イナリ様なぞ馬鹿馬鹿しい伝説だ」と大稲荷山の伝説を信じなくなっていった。どんどん山が切り崩されていき、そこに住む動物たちの住処を奪っていった。そんなある日、町人の一人である男が狐に憑かれ、急に言動や行動がおかしくなり、家族に見放された挙句、川に飛び込んで死んだことがあった。この男は山の開拓を指揮していた人物で、この事件から町の人々は大稲荷山の開拓をやめ、山に近づくことさえ恐れるようになった。大稲荷山とその長であるイナリ様を恐れた人々は、イナリ様を祀る大きな稲荷神社を大稲荷山のふもとに建て、イナリ様と山の狐たちを神として崇め、山のふもとに安置することにしたのである。

 それからというもの、狐憑きなどの恐ろしい事件はなくなり、狐による悪さはぴたりと止んだのである。そして、時は流れ、現代にいたる。


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