43話 大晦日と初日の出 【中編】
天ノ宮に向かう準備を終え、5人が玄関に集まる。
「じゃあ行こっか。」
「そうですね。」
ゆっくり玄関を開け、外に出る。サクサクと雪を踏みしめ歩くその一歩一歩が重たく感じる。戻ってきた日常をまたどこかに置いて行ってしまう感じがする。だけど、いずれは訪れてしまう別れをどうやって迎えるか、それに価値があるのだ。幸せに別れを迎えさせることが僕たちが3人にできる最大の感謝、そして愛情の伝え方だと思う。数分程度歩いて、馬車乗り場に着く。5人分の乗車券を買い、5人で馬車に乗り込む。出発すると冬の寒風が体を撫でる。移り行く景色のすべてが銀色で彩られている。そんな銀の世界を駆け巡るのは今まで感じたことのない爽快さを感じさせる。吐く息は白くその場に留まり、冷気となって消えてゆく。馬の走るリズムは心地よく、眠気を誘う揺れを伴っているので、それに合わせて目を瞑る。
次に目を覚ましたのは、丁度天ノ宮に到着したころだった。寝起きの目を擦りながら馬車を降り、3人の学校の元へゆっくりと歩き出す。相変わらず都会に来た時に辺りをキョロキョロ見渡してしまう癖はなおっておらず、せわしなく左右に首を動かす。そんな僕が面白かったのか茶眩がぷっと笑い出す。それにつられ僕も、繭も、みんなが笑い出しそれまでの静かな雰囲気は消え去り、ほのぼのとする、いつもの様な雰囲気が戻ってきた。少なかった会話も徐々に増え、笑顔で街を歩く。そしてついに天ノ宮教育学校に着いてしまった。ついに別れが訪れてしまった。3人は学校を背に僕たちに向き合う。少し俯いているので3人の表情は見えないけれど、その纏う雰囲気からどんな気持ちでどんな顔をしているかは容易に想像ができた。その中で一人、緋莉は顔を上げ、言葉をゆっくりと紡いでいった。
「おにぃ、おねぇ、ありがとう。久しぶりに昔みたいに過ごせてほんとに楽しかったし…嬉しかったの。誕生日も祝ってもらえたし、花火もみれた。あの花火、みんなでキャンプいった時のと同じやつでしょ?私思い出し泣きしそうになっちゃったもん。ほんとに…あり、がとう。」
言葉を言い終えると、緋莉は泣き出す。こらえていたものを全て出しているかの様に。繭はそれを抱きしめた。
「私たちもっ、本当に楽しかった。久しぶりに家族に会って沢山話して、一緒の時間を過ごしてっ。忘れられない、かけがえのない思い出を貰った。ありがとう…私たちの家族になってくれてありがとう…!!」
泣きながら抱き合う二人。そんな姿を見ているとこちらまで涙が出てくる。チラリと茶眩を見てみると、僕と同じように涙を浮かべて笑っていた。僕の視線に気付いたのか大きく手を振る。振り返して繭と緋莉に視線を戻すと、まだ抱き合っていた。それから数十秒後、2人は体を離す。そして繭が優しく頭を撫でた。それを緋莉は気持ち良さそうな顔で受け入れる。それが終わり繭は僕の横に、緋莉は茶眩の元に戻る。
「またいつか会いに来るから!待っててね!」
「はい!私達もいつか会いに行きます!待っててください!」
「うん!待ってるよ!」
そう言葉を交わし、3人は振り返り歩き出す。そして天ノ宮教育学校の敷地に入った所で門が閉じてしまい、3人の姿はその先へと消えてしまった。
「…行っちゃったね。」
「そうだね…。」
「また、寂しくなっちゃうね。」
「うん…。」
言葉が途切れ無言の時間が訪れ気まずい空気が漂う。どうしようかな…なんて考えていると隣にいる繭が手を握ってきた。とてもとても優しく、そして勇気をくれるように力強く。だけどその手は小刻みに震えていて不安を表している。そして、こちらを真っすぐ真面目な顔で向く。深く深呼吸をして、ゆっくりと口を開く。
「私と…デートしよ?」
「……はぁ?」
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