3章

18話 お隣さんが越してきた

家族旅行が終わった次の日、私はそれを思い出していた。特に2日目の夜みんなでお風呂に入った事を。

「もう少し2人でいたい。」

と、その言葉が脳内にずっと再生される。そしてその度に胸がバクバクと高速で打ち、体が熱くなるのを感じた。

そして...私の胸を全て見られてしまった事に対しては、

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!」

と声にならない叫び声をあげる。それが1時間程度続いていた。私の頭はどうにかなってしまったのだろうか...。


#

朝から繭の様子が変だった。1人で何かを考えるような素振りをしてるかと思えばいきなり顔を真っ赤にして何かを叫んでいたのだ。しかもそれをリビングでやっているから酷い。繭が1時間程度その調子だから僕らはリビングに行く事が出来なかった。

すると、

コンコンコン

と玄関を叩く音が聞こえた。

「はーい」

と返事をし、ドアを開けるとそこには知らない男女が2人立っていた。

「初めまして、隣に越してきた東雲しののめ 音羽おとはです。」

と玄関に立つ男性が言う。パッと見年齢は20代前半と言ったところだろう。

「初めまして、私は東雲 詩歌しいか。お隣さんとしてよろしくね。」

そう言って隣に立つ女性が言う。年齢は音羽さんと同じくらいだろう。

「僕は秋雨うとき らいです。これからよろしくお願いします。」

そう言って頭を下げると、

「敬語なんて使わなくていいよ、雷くん。」

と優しい声で詩歌さんが言う。そして

「分かりました。それと、良ければ珈琲飲んでいきませんか?」

と僕が誘うと、

「ありがとう、有難くいただくね!」

と満面の笑みで言った。そして靴を脱いで僕達の家に入った。


リビングに行くと、未だに繭が頭を抱えて何かを叫んでいた。

「繭。」

と声をかけると、

「ふぇっ?」

と声をあげ、こちらを見た。その顔は真っ赤で焦った顔をしていたが、僕の横に2人見知らぬ人物がいることに気付いたのか、冷静な顔に戻り、

「えっと...その2人は?」

と聞いてくる。その声が2人に聞こえたのか詩歌さんが口を開いた。

「初めまして、お隣に引っ越してきた東雲 詩歌です。もう1人は私の結婚相手の音羽、これからもよろしくね。」

そう言って2人は頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

と繭も頭を下げる。その間に淹れた珈琲を2人に渡し、椅子に座ってもらう。そして、改めて4人の紹介をした。


自己紹介を終わらせると、音羽さんが質問をしてきた。

「全員でシェアハウスしてるの?」

と、それに対し僕は

「家族です。血が繋がってなくても僕達は家族なんです。」

と言う、

「そうなんだ。」

と返されたが、2人の顔には疑問が残っているようだった。


珈琲を飲み終わった2人は、

「夜ご飯、家で食べない?」

と言い残し自宅へ帰って行った。

2人が帰ったあと繭はまた1人で何かを悩み始めていた。そろそろ辞めて欲しいな。

僕は音羽さんと詩歌さん、優しそうな人だな。と考えながらリビングを出ていった。


#

「あの子達、良い子だね。」

家に帰った私は音羽にそういう。

「そうだね、あと此処も良い場所だね。」

音羽にそう言われ私は頷く。元々は私達は南の都市の住居区に住んでいた、けれど音羽との結婚を機に暮らしやすいと噂の北の都市のこの村に引っ越してきたのだ。のんびりと暮らせるこの街は来たばかりだけどとても気に入った。それに隣人さんもいい人達だったからね。


#

夕食の時間、僕達は東雲さんの家の前に立っていた。

ピンポーン

とチャイムを押す。チャイムがある家は珍しいので、茶眩と緋莉はそれに興味津々だった。

「はーい」

と玄関が開き、中から詩歌さんが出てきた。

「よく来たね!ささ、入って。」

と僕たちに家に入る事を勧める。それに応えるよう玄関で靴を揃えて脱ぎ、家の中に入った。いい匂いがする。

中ではエプロン姿の音羽さんが料理を作っていた。

「いらっしゃい。」

と言われ、僕達は軽く会釈をする。

ここに座ってと詩歌さんに言われ、リビングに置かれたテーブルの近くの椅子に座った。すると、テーブルの上に音羽さんが持ってきた豪華な料理が並ぶ。ステーキにドリア、ピザなんかはこっちの世界に来てから始めてみる。懐かしいその食べ物に少し感動した。

この家の主2人も椅子に座り、テーブルを6人で囲っている。音羽さんが

「それじゃあ、引越し記念パーティー始めますか。いただきます!」

と言った。どうやらこれは引越し記念パーティーらしい。そしてみんなで元気よく

「いただきまーす」

と言って豪華な料理を食べ始めた。


#

「ありがとうございました」

そう言って東雲さんの家を出る。結局ご飯を頂いたあと珈琲をご馳走になりながら北の都市の話をしたのだ。特に2人は湖に行ってみたいと言っていた。いつか誘ってみんなで行きたいと思う。

「楽しかったですね〜」

と茶眩が言う。茶眩は詩歌さんと特に仲良くなっていた。横に座った緋莉が頬を少し膨らませているのには気付いていないようだった。

そのまま家に帰り、僕達は各々寝る準備をし一日を終えた。


#

次の日、僕と茶眩が仕事に行こうと家を出たと同時に、横の家からも人が出てきた。隣人の東雲 音羽さんだ。

「こんにちは」

と挨拶をし、僕達は仕事へ向かおうとする。すると音羽さんに呼び止められた。

「僕も君たちの仕事を手伝わせてくれないかな?」

笑顔でそう言う音羽さん。ありがたい話だけれど、はじめての人には多分キツイ仕事だ。どうしようか迷っていると、

「勿論です。着いてきてください」

と茶眩が言った。そして茶眩は僕の耳元で、

「音羽さん、体力凄いあるらしいから大丈夫」

と言ってきた。それなら心配無いだろう。

それから僕達は無言で仕事場へ向かった。


仕事場に着くと、茶眩が音羽さんに仕事を教えると言って2人で仕事を始めてしまった。茶眩も前みたいな人見知りもほとんど無くなっていて、頼れる人になっていた。

1時間程度して、仕事を教え終わったのか茶眩がこちらへ戻ってきた。そして

「やっぱり音羽さん凄いです。僕が教えたことすぐ理解してくれて、しかも疲れも見せないんです。」

と言った。それに、

「すぐ理解してくれたのは茶眩が教えるのが上手かったからだよ」

と返し、笑う。それにつられて茶眩も少し恥ずかしそうに笑った。


午後になる頃には音羽さんは1人でしっかり仕事ができるようになっていた。僕はもうそろそろお昼休憩なので、それを伝えようと音羽さんの所へ向かう。

「お疲れ様です。お昼ご飯食べましょ、着いてきてください。」

と言って、タオルを渡した。音羽さんは、

「ありがとう」

と言って僕の後ろを歩いて着いてきた。

休憩所につき、先に来てもらっていた茶眩と合流してご飯を食べる。音羽さんもお弁当を持ってきていた。

「自分で作ったんですか?」

と聞くと、

「そうだよ。詩歌は料理が苦手だからね」

と返される。そこで昨日キッチンでエプロンを着ていた音羽さんを思い出した。

そのまま色々な話をして、ご飯を食べ終え午後の仕事を始めた。音羽さんはもう僕達と同じぐらいの仕事をしていて、さすがだなと思った。しかも僕達よりも効率が良いのが羨ましい。たまに僕たちの仕事を手伝だってくれたレベルだ。


仕事を終わらせ家に帰った僕は、日本にいた頃を思い出していた。懐かしい両親の顔が思い浮かぶ。それを音羽さんと詩歌さんに重ねた。これからはあの2人とも仲良くワイワイやっていきたいと思う。両親のように沢山甘え、色んなことをしたいと思った。




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