12話 パンプキンパーティー前夜祭

「…らい、起きて!早くー!」

そんなふうに言って僕の肩を揺さぶるのは幼馴染の冬夜 繭。朝からテンションが高いのは今日がパンプキンパーティーというお祭りの前夜祭だからだ。

眠たい目を擦り、ゆっくりと体を起こす。

「早くカボチャくり抜こ!」

子どものようにはしゃいでいて可愛らしい。

「朝ごはん食べてからね。」

と言ってリビングへ向かう。テーブルにはまだ湯気の出ているご飯があった。

「準備しといた。」

と繭。そんなに楽しみなのか…。

とりあえず箸を持ってご飯を頂く。

美味しい。箸が凄い勢いで進む、これも計算かもしれないが、あんまり頭の良くない繭にはそんな事を考える事は出来ないだろう。

ほんの数分でご飯を食べ終わる。繭に急かされながら歯磨きなどを終わらせ、カボチャをくり抜く準備が出来た。

「じゃあやりますかぁ〜」

繭がそう言って右手にナイフを装着する。そして大きく振り上げ、

ザクッ

とカボチャの底面に刺した。そのまま円を書くようにナイフを動かし、底面を切り取る。すると中身が見えるようになる。人間の頭みたいでちょっと怖い。

ここからは地味な作業だ。あけた穴からカボチャの中身を全部取り出していく。

「飽きてきたかも。」

1つ目を半分程度やってから繭がそう言う。あと3つ半もあるのに飽きるの早すぎるのではないかと思う。

「なんで?楽しみにしてたじゃん。」

楽しみにしてたならこんなに早く飽きるはずがないと僕が聞く、すると

「思ったより単純でつまらなかった。」

と返される。本当に子どもだ。

「なら僕が一人でやってるよ。」

そう言って黙々と作業を続ける。

時間を忘れて作業をしていたようで2つ目が終わった時点で太陽は真上にあった。

「そろそろ休憩するか…。」

そう1人で呟き手を止めると、丁度繭が部屋にやってきた。お盆に何かを乗せて持ってきている。

「はい、お昼ご飯。」

そう言ってお盆の上のもの、おにぎりを渡してきた。

「ありがとう。」

そう言っておにぎりを頬張る。具は無しの塩おにぎり。それでも疲れてた僕の体にはとても染み渡るような感じのした食べ物だった。

パパっとおにぎりを食べ終え、残り半分のカボチャの中身を出そうとすると、

コンコンコン

と玄関を叩く音が聞こえた。

「なんだろう、私が出るよ。」

と言って繭が玄関へ向かう。その後ろを僕はついて行った。

玄関にはカボチャの被り物をした男の子と女の子が居た。2人とも被り物の他に仮装をしているようだった。

男の子は背中に真っ黒のマントをつけている。おそらく吸血鬼の類だろう。この世界にいるか分からないけど。女の子は包帯を体全体に巻いている。ミイラ女だ。時々隙間から見える肌が何とも言えない感じがする。特に胸元や股の辺り、下着は履いているだろうけど、全裸に包帯だけだと脳が錯覚している。

何とか視線を逸らし2人に話しかける。

「どうしたの?」

すると2人は、

「今日はパンプキンパーティーの前夜祭だから仮装してきたの!」

と言っている。確かお金を渡すんだったよな、と思い出し2人に持ってきた紙幣を握らせる。日本円で1000円分の価値がある物だ。

「ありがとう!」

紙幣を握って元気よく感謝を述べる。その様子が可愛くて、2人の頭をぽんぽんと撫で、

「また何時でも来ていいからね。」

と言う。2人は元気に頷き、手を振りながら去っていった。

2人が去ったあと、

「可愛い!早く私もやりたい!」

と繭が言ってきた。

「じゃあ手伝って」

そういうと、繭はうん、と頷く。またやる気を出してくれて何よりだ。

残り2つのカボチャは、人手が2倍になったことで、2倍以上の速度で終わった。

「お疲れ様。」

僕が2人分の珈琲をいれる。

「ありがと」

と繭は受け取り、1口啜る。その様子を見ながら僕も1口珈琲を飲む。

「そういや繭は何の仮装をするの?」

さっきの様子を見て仮装をするのは明らかだったので、先に聞いておく。すると、

「ちょっと待ってて」

と言って繭がどっかへ言ってしまった。

数分後、小走りで戻ってきた、変な格好をして。

頭にはおっきい帽子を被り物、謎のローブ?みたいなものを来ている。魔女みたいな見た目だ。

「見てこれ!魔女の仮装!」

見た目通り魔女の仮装だった。でもこれにカボチャの被り物をすると考えると面白い。横で作業を見ていた茶眩と緋莉も

「似合ってますよ。」

と言っている。ちなみに2人はずっと作業を見てるだけで手伝ってはくれなかった。

「ほらっ、緋莉ちゃんも着替えるよ。」

僕の目の前では抵抗する緋莉を繭が無理矢理引っ張って、違う部屋に連れてこうとしている。結局緋莉の抵抗虚しく別の部屋に連れてかれた。

またまた数分後、2人が部屋から出てくる。

「なっ…?」

出てきた2人、特に緋莉を見て、僕達はそんな声をあげた。何故なら、緋莉の格好があまりにも衝撃的だったからだ。おそらくゾンビの仮装なのだろう、ただでさえ露出の多い服が更に破けていたりしていて目のやり場に困る。

しかし問題はそこでは無い。1番の問題は緋莉の左の胸辺りの破けた場所からその白い肌が見えている事だ。そこから膨らみ始めてるのが分かる。つまり、今緋莉は上半身に下着を付けてないという事だ。

僕たちがそれに気付いたことに気付いたのか、緋莉は胸を手で隠すようにした、その顔は真っ赤である。

その後、繭の指示で緋莉が後ろを向く。まだ恥ずかしいのか急いでくるっと半回転をする。しかしそれが間違いだった。遠心力によってただでさえ短いスカートが持ち上げられたのだ。緋莉がそれに気付き急いでスカートを押さえるがもう遅い。僕の目にはしっかりと焼き付いてしまっていた。持ち上げられたスカートの中身、弾力があって柔らかそうな2つの山を。

「もしかして…」

僕がそう呟く。それだけで伝わったのか、

「うん、履かせてない。」

と隠さずに言う繭。それを聞き、緋莉は顔を真っ赤にして繭を叩いている。目には涙を浮かべていて可哀想だ。

「流石に可哀想だから下ぐらいは履かせてあげて。」

そう僕が言うと、渋々といった感じで、

「わかった」

と言って、また別室へ向かって言った。

2人が部屋を出ていったので、僕達も準備を始める。仮装はしないが、一応カボチャはかぶる。これは楽しみだからじゃなくて、そう言う行事だって聞いたからだ。うん。

僕達が準備を終えると同時に、部屋を出ていった緋莉と繭が戻って来た。

さっきまで真っ赤だった緋莉の顔は冷静さを取り戻している。だけど、上の下着は付けていないようだった。敗れた服の隙間から膨らみかけの胸の始まりが見えているのがその証拠だ。

「それじゃあ行きますか!」

そんな事は気にしないように繭が勢いよく玄関のドアを開け、外に出る。それに続いて僕達も家から出た。太陽は既に少し傾いている。準備に時間がかかり過ぎたと反省した。

「とりあえず、どこ行く?」

すると突然繭がそんな事を聞いてくる。決めてなかったのか。

「とりあえず…村長の家だな。」

僕がそう答えて歩き出す。

何分か歩き、村長の家の前についた。

コンコン

玄関のドアを叩くと、中身から村長のヤマトさんが出てくる。僕達を見て一瞬戸惑った様な表情になったが、すぐに表情を戻し家の奥の方へ行く。少したって戻ってきたヤマトさんは、

「遠いのによく来てくれました。」

と言って僕達にお金をくれる。更にちょっとしたお菓子もくれた。

「明日の本祭も楽しみにして下さいね」

とも言っていた。どうやら、そのお祭りをする会場に屋台も出るらしい。

「ありがとうございます」

と言って村長の家を出る。

「これからは…どうしよっか?」

と聞いてくる繭。村長以外に知ってる人は居ないからどうする事も出来ない。しかも緋莉はまた恥ずかしくなってきたのか、顔を赤くしている。

「とりあえず…帰ろ」

そう言って、家に向かって歩き出す。その途中に面白半分で僕達にお金をくれる人もいた。申し訳ないが、そう言うお祭りならしょうが無いだろう。

結局楽しみにしていたパンプキンパーティー前夜祭はこれだけで終わってしまった。しかし、1番楽しみにしていた繭本人は、

「明日屋台出るって!絶対行こ!」

と楽しみの標的を既に変えていた。

そんなかんなで初めてのパンプキンパーティー前夜祭は終わってしまった。少し寂しい気もするが、お金も貰えたので良かった。今日は疲れたので(特にカボチャのくり抜き作業に)早く寝て、明日の本祭に向けて体力を回復させておこう。



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