第29話 1週間の終わり 前編

「はぁ……………負けたよ………。[覚醒]まで使ってさ。……………悔しい………かな」


「おう。お前はよく戦ったよ。笹森。ただ、俺達の策がお前を上回っただけだ」


地面に仰向けでいる笹森は話を続ける。彼の心臓はもう破裂しかかっているだろう。それでも彼は話すのだ。


「策…………ねぇ。いつから考えて…いた?ゴホッ…………」


「お前に襲われた日からだ。こっちには小賢しい作戦を考えたりするのが得意なやつがいるもんだからな」


「仲間ってやつ……………か…………。大切にしてあげてよ?………僕が手に入れられなかったものをさ」


1つ、ここまで笹森と関わって思ったことがある。


「お前のその透明能力は…………」


返ってきたのはあらかた予想のついていた答えで――――――


「僕は他の人と関わろうとしなかったからね。…………いや、関わってほしいなというより、まず自分に関わる気がなかった。だからかな………?教室の空気と化してしまったのは……ハァ…………。そんな僕が手に入れた異能力が………透明化だなんて………皮肉な……ことだよ…」


「………………そうか」


「ガハッ…………ハァ………ハァ……そろそろかな。もう目の前が真っ白なんだ。あ……これを僕が消える前に受け取ってくれないかな?」


彼が渡してきたのは給料の入った袋。


「これで彼女と焼肉にでも行ったらどうかな?………最後に…………この1週間……楽しかったかい?………こんな形で終わる……のは……少々…悲しいんだけど……ね。そういうゲームだから………ハァ………割り切るしか……ないんだよ……。ん、僕は……楽しかったよ…」


最後の力を振り絞るようにして彼は思いを伝えてくる。この1週間、俺はどう感じたのだろうか。もう答えはでている。俺はそれに答えなければならない。少しの沈黙を得て、口を開く。


「俺は………………………楽し―――――」


俺が答える時にはもう、彼は動かなかった。微かな笑みを浮かべながらこの世界から消えていく。…………………………。


「…………………最後まで言わせろよ……」


戦いはここで幕を閉じた。そして実感する。やはりこれは生き残りをかけたサバイバルゲームなのだと。犠牲無くして勝利は得られないのだと。心の奥に刻んで、俺は笹森のいた場所へ背を向けて歩き始めるのだった。




〖〗

「俺達、帰還」


「おお、よく生き残った!これで4人揃って焼肉へ行けるぞ!」


「まともな食べ物を食べるのって久しぶりだね~」


「約1週間は果実だったのよ?よくわたしたちこれで生活出来たわね」


「ああ、[幻想の書]に何度も助けてもらったからな。だが」


「本当にすまないね。これに関しては改めて謝罪するよ。ごめんね」


あの俺達を何度も救ってくれた[幻想の書]は慎士が戦いの中で[覚醒]させてしまい、カードは失われた。よって、もうこの異能力は使えないというわけだ。つまり、家は無くなり、制服もボロボロに戻ったってことよ。


実際、俺は今シャツのみ。慎士も同じく。優梨の方はバイト先で貰ったエプロンを着ている。制服エプロンって………。ま、他のやつらよりは少しの期間だったけど裕福だったとは思うぜ。


「もういいよ。そもそもわたしたちがバイトを始めたのって[幻想の書]に頼らないようにするためじゃなかったの?」


「そうだな。ただ序盤にハンデを貰ってただけだ。ここからが普通なんだよ」


「だからそのへっぴり腰をやめなさいよ。なんか可哀想になってくるわ」


みんなが慎士へ優しく語りかける。いいやつらだな。


「みんな………………。よし!俺達はここからがスタートだ!今日は焼肉食って明日から頑張ろう!」


「おう」


「うん」


「ええ」


みんなの団結力が上がったようだ。こいつらとならどんなところでも問題はない。そんな気がしてくる。


「で、焼肉に行くのにこんな格好でみんな行くの?」


「「「あ………………」」」


俺の初給料は服に費やされることとなった。




〖〗

名古屋・Fには店が多くある。食事場所、公園、お土産売り場などが主になっている。当然、服屋というものも存在するわけで、とりあえず目に最初に入ったところに入店。入店時、店員から奇怪な目で見られた気がする。まあ、こんなボロボロだからだろうけど。内装は綺麗で、黄色がよく目立つ。今までユニ○ロしか行ったことがない俺からすれば高級感が感じられる。他のやつらはどうか知らんが。


「うーん。どれにしようか。やはり格好いい服がいいだろう」


「あ?んなもんより動きやすいほうがいいに決まってンだろ」


慎士が近くにあったジャンバーを取る。


「これ、龍に似合うと思うんだけど……」


『天龍飛翔』


「おいテメェ。完全にヤクザが着てるようなやつだろうが。俺が似合うって完全にそっち側じゃねェか。……あ、俺そういうやつだったわ」


さすがにそんなものを堂々と着て街中をうろつくわけにもいかないのでハンガーにかけて戻しておいた。うーん、デザインは悪くないんだがな……。いや、買わないからな。その場から移り、別のコーナーへ行く。再び慎士が手に持ったものを見せてくる。2枚のロングコートだ。


「得に目立った装飾は無いが普段着る分には全然いいと思う。その下には適当な白シャツでも着ておけばいい」


「ふーん。ちょっと貸してくれ」


コートは軽く、変な要素は無い。シンプルなロングコートだ。戦闘中はどうなるかは分からないが少し気になる程度だと思う。でも制服のときよりは締まっていないから今までよりは動けると思う。あと普通に格好いい。


「んで、2つ持ってきた理由は?」


「そりゃ、2人揃えた方が統一感あっていいだろう?龍はどちらの色がいい?黒か白。好きな方を選んでくれ」


「なら黒だ。俺が白ってのはなんか合わないだろ」


「じゃあ、俺が白か。ズボンは歩きやすければなんでもいいかな。これから遠くまで歩いたりすることを考えて」


あ、そうだわ。いつまでも名古屋・Fにとどまっていても仕方がないよな。やはり他のやつを潰すには別の場へ進出せざるをえない。この世界は日本を縮小したものっぽいから今は中部地方にいる。手当り次第に通った県にいるやつらを探して潰す。そしてまた隣の県へ行き、同じことをする。そんな感じだろうな。


「おう。決まったならレジ行くか」


レジへ向かう途中で慎士が夜用の服欲しくない?とか言い、適当な無地の薄いシャツを2枚持ってくる。おそらく俺用のもあるんだろうな。ま、四六時中ロングコートを着ているってのは変だし、清潔感が無い。だからこれには賛成だ。


「はい」


慎士がカゴにいれた服をレジに出す。店員さんは手際が良く、すぐに会計が終わる。


「1万4000円です」


「い…1万…………」


た、たけぇ。2人分が含まれているとはいえ、上下だけでこんなにも値段がはるとは。いかに俺がちんけなやつかってのが分かるな。今の所持金は2人合わせて6万20円(この20円は道に落ちてたのを拾った)。今後のためにもあまり金を消費はしたくないんだが…。


「はい」


「お買い上げありがとうございました」


あ、買ったか。袋デカイな。確か現実だと袋代がかかるようになっているだったか。こっちの世界だと大丈夫のようだ。


「「またの御来店をお待ちしております」」


慎士と共に店を出る。


「とりあえず着替えるか」


「そうだな。こんなボロボロなモンはおさらばだ」


近くの路地裏へ行き、制服を脱ぎ捨てて先程買ったシャツと黒のロングコートを着る。全身が黒のフル装備だ。前のボタンは開けてある。閉まっていると落ち着かないんでね。カラーが少し暗いイメージが湧くがもともと俺はそういうやつなのでいいだろう。少し気になった部分があるとすれば、袖が腕時計をつけているところまでないということだ。こりゃ、製作者がプレイヤーだということを隠せないようにするためだろ。腕時計外せないし(防水なので風呂は行ける)。他の服も見た感じ袖が短かったし。


そんなことはいいか。ちょっとその場で軽くジャンプしてみた。うん。サイズもちょうどいいし動きづらさも感じない。これでOKだ。慎士も着替え終わり、全身は白のフル装備。コートが路地裏に流れる風によりたなびく。こっちは俺と違って高貴なイメージだな。でも戦いになったらすぐ汚れが目立ちそうだ。


どうでもいいけど服はこんなところで着替えずに店で先に着ておけばよかったと思った。人がいないとはいえ、外で着替えるというのは少し気がひける。今更だがな。


「なかなかいいじゃないか。多分髪型がオールバックじゃなかったらそのコート似合ってたぞ」


「オールバックにコートは似合わないってか?うるせぇ!オールバックにはなんとなく思い入れがあるんだよ」


「小学生のころからオールバックだもんな。やはりオールバックなら『天龍飛翔』にするべきだったか?」


「いや、それはガチのやつ。絶対買わないからな」


「ふん、まあいい。そんなことより重要なのは女子達がどんな服にするのかだろう?まだ選んでいるようだ。待ちきれないよ」


「女子は別の店行ってんだろ?俺達は一足先に〔スタミナ三郎〕に行くぞ。席は取っておくんだ」


「うん、なら行こうか」


新品の服で街の中を堂々と歩き、店へと向かうのだった。やはり普通の服なら人目気にしなくていいから楽だな。うん。






























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