第21話 働く俺達 2

「3班~。集合してくれ~」


班長が1、2班を引き連れてグラウンドを離れている間、3班は列を崩してそれぞれのメンツで話していた。俺も沢木と話して時間を潰していた。話の中でこのゲームについての話題が出たりしたが沢木自身のカードについてや同級生のことについては分からなかった。ただ、分かったことがあるとするならば彼のこのゲームに対しての思いだ。


「沢木は今後このゲームをする上でどうしたい?」


うーん、と考える沢木。少しの間をあけ、答える。


「とりあえずこのゲームをやれるだけ楽しんでやるさ。いつもはつまらない現実に囚われていたがここは違う。なんでも自分で好きなように生きていけるんだ。自分の意志で生きていく。こんな楽しいことはもう一生かけてあるか分からないんだからな!」


―――――やれるだけ楽しむ


(楽しむ……………か)


俺はこいつ以外に楽しみ、楽しませるやつを知っている。俺は沢木を疑いすぎたのかもしれない。敵には変わらないが、彼もあいつと同じでただゲームを楽しみたいだけだ。


(それにくらべて俺はどうだろうな………。心の底からを楽しんでいるのだろうか。いや、そんなことはいいか)


考えを捨てる。そんなものは不要だ。迷いは判断を鈍らせてしまうからな。


その後も適当な会話をして過ごした。そして今にいたる。


「よし、集まったな。君達がやるべき事は土運びだ。まずは現場へ行くぞ」


班長が街の方向へと歩き出す。それに俺達は後ろにつき、ついていく。


街へ入り、しばらく歩くとまだ家が建っていない土地があった。整備が行き届いておらず、雑草が多く生えており、地面はでこぼこに歪んでいる。


「ここが俺達が今度建設する家の場所だ。まずはこの荒れた土地からなんとかするぞ。今日は土運びというより土地を整える作業と言った方がいいだろう」


そうだろう。こんな土地では建設をするに出来ないと思う。


「最初は雑草抜きだ。手当り次第に雑草をぶっこ抜いていけ!抜いたやつは袋がそこに置いてあるだろ?そこに入れてくれ。あと、ゴミ拾いも頼む。雑草が終わったら次はそこのトンボでこのでこぼこの土地を整えるんだ。分かったら作業開始!」


「「「おっす!!」」」


何故か返事のほとんどが


――――おっす!!


だったんだが。この全く関わったことのないメンツがシンクロするという現象。


この班長には親方の雰囲気が滲み出ているからかな。なんとなく言ってみたいという気はしないこともない。そういえば学校で体育の先生への返事が主に2つに分かれていた。


『おっす!』派か『うっす!』派だ。正直どうでもいいが委員長の自分としては気になっていた。それぞれの派閥の人に少し聞いてみた。


『おっす!』派の意見は元気が良いイメージがある。『うっす!』はなんか適当な感じがする。との事だ。


対して『うっす!』派は何も喋らなかった。我々の『うっす!』化計画に支障が出るかもしてない………。とか言ってやがった。

なんだよ『うっす!』化計画って……。そんなことをして本当に意味があるのかが分からない。うん。マジでどうでもいいことだった。てか『はい!』はないのかよ!普通はそれなんだよなぁ。


みんながバラバラになり、各自雑草を抜き始める。俺と沢木も作業を開始。雑草を抜く作業なんてものは中学生時代の体育大会以来だろうか。グラウンドに生えた雑草を炎天下の中抜いてたっけな。あれは本当にキツかった。高校生になってからやることになるとはね。


あ、ライター落ちてた。引火は洒落にならん。これは俺が預かっておこう。火もまだつくし。魚を焼いて食べるんだ。てかライターがなかったら木を擦るという原始的な方法で火をおこすしかなかった。ラッキーだ。


単純作業は苦手だがハマったときはどんどん楽しくなってくるものだ。分かる人いないかな?有名所で例えるならポケ○ンの育成やモン○ンの素材集めとか。ひたすらスティックを回したり、攻撃ボタンを連打しては狩りをしていたっけな。高校生になった今でもたまにやりたくなるんだよな。相手はあまりいないけど。高校生になった途端にゲームやめるやつが多いの本当に悲しいよ。




〖〗

抜き始めて大体1時間たっただろうか。腕時計を確認してみる。短針は10を指していた。


(作業開始が確か8時だったから………もう2時間経ったのか。なんか早く感じるな)


ざっとあたりを見渡してみた。周りにはほとんど雑草が残っておらず、小さいのがちらほら見えるくらいだ。あの伸びきった雑草だらけの場所が今は土の方がよく確認できる。


「んじゃ、みんな一旦休憩だ!水分補給はしっかりしろよ!倒れることはないようにな」


休憩の時間だ。みんなが一斉にペットボトルを握り、飲み始める。俺も飲むかな、と思ったが残念ながら飲み物は忘れてしまった。


ちくしょう!と俺は心で叫び、置いてある丸太の上に座る。しばらく俺が黄昏ていると、沢木が話しかけてくる。


「なあ、まさか飲み物を持ってきていないのかい?さすがにこんな作業をやってて水分補給無しはダメでしょ」


「仕方ないだろ。水はいくらでも手に入れられるが水筒というものがないんだ。残念だ」


そう。水はいくらでもあるのだ。

まず土を掘り、いい感じの穴を作ります。次に俺産のおけで川の水を汲みます。その水を穴の中に入れ、俺産のコップも穴の真ん中ぐらいに置きます。あとは穴の上を俺産のサランラップで塞ぎ、小さい石を真ん中に置く。最後に龍の炎で熱する。そうするとコップの中に水が溜まっているのだ。


簡単な説明をすると、土の中の水を炎で熱された川の水。熱により蒸発させられた水は穴の外で出ようとするがサランラップにより行き場を防がれる。あとは水滴と化した川の水が新鮮でキレイな水に変わった物がコップに溜まるのを待つだけでOKだ。まあ、化学変化を利用したものだな。


「しょうがないなぁ。目をつぶりながら上を向いて口を開けてくれ」


沢木が言った通りにしてみる。何故わざわざこんなことをするのだろうか。疑問に思っていた瞬間、喉にとてつもなく冷たい感覚が流し込まれるように襲ってきた。急に来たため少しむせてしまった。


「ゲホッ!ゲホッ!…………ハァ。これは…水か?」


「正解。水だよ。美味おいしいかい?」


「ああ。美味いに決まっているさ。だが沢木はこんな水を何処で手に入た?今流し込まれた水は凄く冷えてた。今日は暑いんだ。そんなものはすぐぬるくなってしまう。氷入りなんてのはありえないからな」


「秘密」


秘密か……。なんかやつのカードによる異能力な気がするなぁ。水に関係したものか?

冷水をいつでも生み出せるとか?


うーん…………。


考えても仕方ないか。現時点ではまだ知らなくてもいい。今はバイトをやり抜かねばならない。


俺は感謝の気持ちを彼に伝える。


「まあ、ありがとうな」


「おーい、そろそろ作業再開するぞー。次はトンボだからな」


さて、作業の続きをやるとしますかな。今度は俺達はトンボを持って整地作業を行うのであった。

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