第13話 グダグダグループワーク

 どうやら3泊4日の沖縄旅行。ホテル2泊と、民泊。ホテルは超豪華らしいし、民泊は女子も一緒だしとてもワクワクムラムラする。


「みんな揃ったみたいだね」

「えっと、井出晴樹くん……だったよね」

「うん、よろしくね心桜。あと晴樹でいいよ」

「うん。分かった」


 もう呼び捨て!? くぅーー!! 馴れ馴れしすぎだろこのやろ! なんで初対面でもうこんなに打ち解けた感じになってんだよこのやろ。


「男子は山田と聖也、女子は夏音と心桜か。とても楽しそうな修学旅行になりそうだね」

「間違いない! 晴樹がいればどこに行っても楽しくなっちゃうよ!」

「ほんとに夏音は元気だなぁ」

「えへへ」


 茶色いショートヘアーを揺らして目を細める夏音と、微笑を浮かべる晴樹。


 何このお似合いカップル。聖也には悪いけどもう付き合ってどっか遠い所に消えて欲しい。


 上機嫌の夏音。晴樹を妬む聖也。気まずい俺と心桜。まさかこのフォーメーションで修学旅行を過ごすのかよ。絶対楽しいの晴樹と夏音だけじゃん。


「それじゃ、先生に言われた通りグループワークをするよ」

「はーい!」

「僕たちの班は沖縄の文化について調べるから、とりあえずパソコン室からノートパソコン持って来るから待ってて」

「あっ! いいよ晴樹! うちが持って来るよ」

「本当に? 悪いね」

「なんのこれしきっ」


 そうして夏音が教室を出て行ったことによって引き起こされた沈黙。


 え? なにこれ俺達どーすればいいの? 聖也も心桜もずっと黙ってる。心桜に関しては愛想笑いをしているようだけど。


 すると啖呵を切ったのか聖也が、


「おい山田俺らも行くぞ」

「え、行くってどこに」

「図書館だ。資料を集める」

「あ、そうか。おけ」


 まぁ図書館に行くと言うのが口実であることはよく分かった。


「山田も聖也も協力的で嬉しいな」


 そして俺らは席を立ち、その場を後にした。俺としては心桜との気まずさから解放されて、聖也は晴樹への妬みから解放されたと言ったところか。


 まぁ一時的なものに過ぎないが。





「あったまくるなぁ! なにが『とても楽しそうな修学旅行になりそうだね』だ! お前のせいで地獄の修学旅行になりそうなんだよ!」

「うるさい聖也。いま他のクラス授業中だから」


 廊下での聖也の愚痴はやけに響く。


「あー、もう授業終わるまで図書館でサボってやろ」


 まぁそれに関しては賛成だ。俺もあの気まずい空気の中でやってける自信がない。


 

 図書館では既に別の班の人達が何人かいて、露骨にサボることはできず、とりあえず沖縄の歴史の本を机に広げて聖也と座った。


「はぁー、あいつ旅行前日で事故って休まねーかなー」


 すんごい嫌ってるみたいだ。


 それから数十分くらい聖也の愚痴と、後はお色気話などで盛り上がっていた時だった。


「おい、そこの変態と変態の友達、サボってるんだったら早く戻って手伝って」


 気づいたら机の脇に夏音が佇んでいた。この「変態」という名称は俺に向けられている事は言うまでもない。当然ながら俺は夏音と話した事はないが、変態に社交辞令はいらないらしい。


「はーい」




 とはいえなぜ夏音が迎えに来たのだろうか。俺の推測はこうだ。


『ノートパソコン持ってきてくれてありがとね』

『なんのこれしき!』

『そういえば山田と聖也遅いね。ちょっと見に行って来るよ』

『あ! いいようちが行く!』

『ほんと? 悪いね』

 

 ほぼこれで間違いないだろう。ってか夏音上手いように使われてね?


 そんなどうでもいい事を考えながら教室に入った時に、目を見張った。




 晴樹と心桜が楽しそうに話しているのだ。




 全く考えていなかった。心桜だって乙女だ、イケメンを目の前にしたら嬉しくないはずがない。


 くっそ、二人きりになっているこの場面を、なぜ俺は想定できなかったんだ! イケメンくたばれ。


「いやー、晴樹ごめんね遅くなっちゃって」

「ううん、全然大丈夫だよ。何か収穫は得たのかな?」


 自分から晴樹に声をかけるのは癪だが、一刻も晴樹と心桜を離したかったため、本能的に行動に移していた。


 しかしなんださっきの心桜の笑顔。ここ数ヶ月ぶりに見た気がするぞ。


「あー、うん、それなりに得てきたよ」

「それじゃあ教えてくれるかな」


 え? 何も調べてないけど。え、何か言わなきゃ、そうだ。


「あ、えーと、10年前に首々里城が全勝しちゃった事があるんだって」

「ちょっと! 全然調べでないじゃん! そんな事みんな知ってるよ!?」


 横槍を入れてきた夏音。本当にちゃんと調べておけばよかった。


「もうしっかりしてよね。これだから変態と変態の友達は」


 え、聖也までとばっちり食らったけど。


「おいおい誤解だ、俺は悪くないぜ、山田が勝手にサボろうぜって言ってきたんだ」


 こいつ、裏切りやがって。そこまで夏音には嫌われたくないのかよ。


「嘘つき! どーせ2人ともサボるつもりだったに違いないねぇーだ」


 何も言えねぇ。


「カッチーン。僕ちゃんあったま来ちゃったー」

「何? そんなんで頭きちゃうの? 短気!」

「ふん…俺が本気を出したらどれだけ仕事が早く終わるか知らないくせに」

「短期のくせに仕事が出来るわけないでしょーだ」

「なんだとこのクソビッチ!」

「ひぇっ!? な、なんですってぇ!?」


 小学生かな?


「こらこら、戯れてないで早く仕事やろうよ」

「「戯れてない!」」


 晴樹のその言葉で夏音と聖也の喧嘩はピークになる前に抑えられたが、なんだこいつら意気ぴったりだな。相変わらず心桜はずっと苦笑いだけど。もうこいつらカップルになれよ。


「「誰がこいつと!」」


あ。

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