第15話 計画通り(にやり)


「マヨイ君、俺らでミライを説得するから少し時間をくれないか。……そうだな、10分あれば足りるはずだ」

「分かりました『それと今回の決闘を配信させてください。そうしたら今朝の動画の件は水に流します』」

『うっ……わかった。配信してくれて構わない』


 動画を配信するなんて何年振りだろうか。

 少なくとも去年は1度も配信していないから2年振り近くになるかもしれない。

 今のうちに準備しておこう。


『藍香、聞こえる?』


 次に僕は藍香に進捗を報告することにした。

 報告と連絡と相談は大事だって言うからね。


『聞こえてるわよ。どうしたの?』

『ミライのリアル、知ってたの?』

『似てるなとは思ってたわよ。で、本人?』

『十中八九、英田未來本人だね。口調までソックリだ』


 まさかMMOで高校のクラスメイトと遭遇することになるとは思ってもみなかった。

 まだ気がついた様子がないので今のうちにプライバシー設定で顔を……いや、配信するのだからバレたところで遅いか早いかの問題だろう。


「待たせたね」

「いえ、大丈夫です」

「ねぇ、ほんとに勝てる気でいんのぉ?」


 あー、やっぱ英田未來だ。

 この礼儀を知らない人を舐め腐った態度、これがロールプレイでなく素なんだもんな。たぶん、学校と同じように目上の人にはそこそこ丁寧に接しているんだろう。


「初めましてマヨイといいます。いえ、勝負にならないと思ってますよ」

「で、契約書っていうのはどれですか~」

「これですよ、これに触れて承認と言って貰えればゲームのシステム的に認められた約束という扱いになります」



────ビリビリビリッ



 ミライは僕から受け取った契約書を破いた。

 ここまでのクズだと逆に清々しいな。


「ミ、ミライ!?」

「きゃははははっ! ばっかじゃないの! こんな意味分からない賭けなんて誰がするのよ」

「ま、マヨイ君、すまない」

「いえ、いいんですよ。こうなると思って予備の契約書を用意して来ましたから、これです」


 僕はメニューから1枚目と同じ内容の契約書を取り出してミライに差し出した。



────ビリビリビリッ



「バカじゃないの?」

「ありがとうございます。では訓練所に移動しましょうか」

「はぁっ!? こいつ何言ってんの?」

「ミライさん、契約書の内容はしっかり確認した方がいいですよ。2枚目の契約書には『この契約書が破られた場合、破いた当人が契約内容を承認したものとして扱う』という文章が追加されていたんです」


 ほんと用意した契約書が無駄にならなくて良かった。

 父さんが生まれた頃のアニメのネタらしいけど一度はやってみたかったんだ。


『マジで?』

『ミライの性格的にやりそうだったんで。説明した追加項目以外にもミライ陣営で敗者になった場合はレッドになると書いてありました。不意打ちみたいで申し訳ありませんが、これは1枚目を破いたペナルティだとでも思ってください』

『いや、すごいね、すごいよ、うん』


 ノウアングラウスさんの語彙が死んだ。

 ちなみにレッドとは犯罪者プレイヤーのことだ。

 犯罪者プレイヤーになった場合、そのプレイヤーは街に入ることはできるが店や施設の利用を断られることがあるなどのペナルティがある。一応のメリットは犯罪者プレイヤー専用の組合やクエスト、犯罪者プレイヤーであることが条件になっている装備やスキルもあるらしいことだ(アイペディアより引用)


「ミライさん、決闘の場所や日時も全て貴女が破いた契約書に書いてあったので、しっかりと確認しておいてくださいね」

『ノウアングラウスさん、僕としてはミライのリスナーも消したいので教えてやってください』


 僕は組合の窓口で訓練所を30分貸し切るため3000Rを支払った。出費としては少し痛いけれど背に腹は変えられないというやつだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 10分後、組合の訓練所には僕とミライの他に現時点で376人のプレイヤーが集まっていた。どうやらミライが組合にやって来た時点で配信中だったらしい。


「「「「「「」」「」」「「「」「「「」」」


 僕に向かって罵詈雑言どころか禁止用語を連呼しているのが彼女のリスナーの中でも特に評判の悪い層のようだ。昨日の配信に参加していたプレイヤーもこの層らしい。


「みんな、久しぶり」


【うぽつ】

【うぽつ】

【え、本物?】

【うぽつ】

【緊急配信って何やってんのw】


「配信タイトルにも書いたけど今から"Continued in Legen"ってゲームでプロゲーマー率いる376名のプレイヤーを相手にPvPをします。まだ相手の人数増えそうだね」


【一昨日発売されたやつか】

【相変わらずで安心したわ】

【相手のプロゲーマーって有名人?】

【あれミライじゃね?】

【味方は? アイちゃんいないの?】


「そうそうKING'Sってチームに所属しているミライってプロゲーマーと彼女が配信している動画のリスナーさんたちが今日のだよ。アイは僕の新しい仲間とレベリングに行ったよ、薄情だよね~」


【相手からの罵声が凄いな】

【また無駄に煽ったんだろ】

【新しい人外仲間がいるのか】

【はつみ】

【初見さんだ!囲め!】

【ようこそ、人外魔境へ】

【粗茶いる?】


「初見さん、いらっしゃい。もうすぐPvP始まるから詳しい事情は後でね!」


 思ったよりも僕のことを覚えてくれていた人が多くて嬉しく思う反面、復帰初の配信内容が環境破壊兵器の試射会もといミライのリスナーの死者会だから事情を知らなければ見てて面白くないだろう。


【アイ:事情は私から説明するわ】

【アイちゃん!?】

【アイちゃん久しぶり!】

【しれっとリスナーに混ざる配信者の相方】

【この人数差で負ける気しないの草】


「アイよろしく」


 カウントダウンが始まった。

 このセリフを言うのも久しぶりだ。

 黒歴史感たっぷりで少し恥ずかしい。


「フルボッコタイム、はっじめーるーよー!」

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