魔法鍛冶師001

 ルーレシア王国までの道のりは馬車になる。

 森を降り麓の村から出る馬車を乗って3日ほど。

 

 俺は夜明け間に家を出て麓の村に着いたのは丁度、日の入りの明け方のごろで、その頃にはタイミングよく旅馬車の準備を完了していた頃だった。

 

「ルーレシア王国までの馬車はどれだ?」


 馬車を準備している男へと俺は問う。

 

「コイツだよ。乗っていくのか兄ちゃん」

「ああ」

「そうかい。なら、悪いが相席になっちまうがいいか?」

「構わないが」


 こんな夜明け朝一に?

 俺が一番最初だと思ったのだが、どうやら先客がいる要で、相席で構わないと了承し、俺は言われた通り旅馬車への乗り込もうと向かう。

 

 ルーレシア王国まで向かう馬車は荷物だけを積んでいる荷馬車と客を乗せる客馬車で別れていて、荷馬車は客や旅に必要な道具などが積んでいあり、客馬車は荷馬車なんかよりも少し豪勢だ。

 木製だが扉もあり、それを開けて乗りこめば中には向かい合う座席。立ち上がれはしないが、4人程が座れる広さがある。

 

 そうして――。

 そこには、訊いた通り相席の相手が、気持ちよさそうに片側の座席にすっぽりとハマるようにして小さな銀髪の少女がベットにして寝ていた。

 

 ご丁寧ねに薄い布もかけて、スース―と気持ちよさうに寝息を立てて寝ている。

 

 子供?

 最初にそう思ったが、座り向かい側に座る女の子をみればそれも疑わしいモノに変わる。

 

 というのも――。

 

「んっ……。だれですか?」


 ドワーフだ。

 長い銀髪にクリクリとした丸く可愛らしい銀の瞳。服装はフリルとレースで着飾った、黒と紺のドレスでどこかの貴族の令嬢を思わせる。精緻な人形のような触れてしまえば簡単に壊れてしまうにすら感じる程のか弱さとそれであって、美形な骨とう品のような美しを持っている。

 そして、なによりも特徴的なのは彼女の耳。長く尖ってはいるがエルフよりも長くはない小さな耳。

 それを見て、ピンッと俺は来た。

 

 ドワーフ。

 そう。エルフの様だがそうではない。ドワーフという種族だ。

 

 彼らはエルフは異なり、魔力適性が低い。そのため基本的には魔法を扱うことはあまりせず、剣士や建築士、鍛冶師が多い。

 そう。鍛冶師。なにもルーレシア王国に向かう馬車なのだから別に珍しくもない。

 

 というのも、鍛冶師の大半はほぼドワーフ。

 ドワーフは種族上魔法適性は低いが、筋力面においては先天性的にエルフはもちろん人間よりも基本能力が高い。

 それゆえに鍛冶師といった職柄に着く者が多く力仕事が主な役柄だ。

 であれば、鍛冶の街ルーレシア王国へドワーフが集まるのはなにもおかしな話ではない。

 鍛冶師が多いのだから、それなりにドワーフも多い。

 というより、ルーレシア王国の比率的にはヒューマン4割ドワーフ5割エルフ1割なほどだ。

 だから、こうしてドワーフが居る事が特におかしなことではなく。

 俺がピンと来たのはそこではない。

 

 ドワーフという種族についてだ。

 ドワーフは力が強いがその反面、なぜだか低身長が多い。

 一節では、魔力適性が高いエルフが平均身長が高い為、魔力適性が高いほど身長も高くなるという説もあるが、そんなことはさだかではない。ただ言えるのは――ドワーフ、特にその女性についてはおよそ転生する前の世界の基準で言えば10歳ほどぐらいの見た目で成長は止まるということで。

 それはエルフ同様。

 そこから老いはせず、死ぬまでその見た目なのだという。

 

 であれば、こうしてここで寝ている10ほどの少女は子供ではおそらくないということだ。

 まあ、そんなこと正直どうだったいいが。

 俺としてはドワーフの少女は初めてで、やはり子供にしかみえないというのが事実だ。

 

 そんな小さな少女は、向かい側に座る俺を体を起こし眠そうに目をぱちくりさせて伺うように、見た目そうろうに警戒して訊いてきたのだった。

 

「悪いが相席だ」

「そうですか……」


 訊いた彼女は完全に体を起こして座り直し、くしゃくしゃになったツヤのある腰ほどまであろう銀髪を整えて座る俺へと対面する。

 

 そこで――。

 

「出発しますぜい」


 客席と馬を引く上部席との繋げる少女の頭の上にある小さな小窓が開き、一声かけられ再び閉まり、パシンッとムチを打つ音と共に馬のヒヒンという声と共に馬車は重しくも動き、震動し始めた。

 

「………」

「なんだ?」


 馬車が発車して数分、ガラス張りの窓の外。ゆったりと移り変わる風景を適当に見てたが、女の子は何故だか俺を凝視し続け居る。

 そんな気まずい空気に特に耐え切れなくなったというわけではないが、なにか不思議なものを見つけた子供のように見る彼女に、どうせ暇だからなのだと、気晴らしに声をかけた。

 

「エルフの方がルーレシアへ行くなんて珍しいですね。あそこにエルフが好みそうなものはなかったと思いますが」

「だろうな」


 エルフの専門は魔法。

 鍛冶には基本興味ない。ルーレシア王国に行くエルフなんて殆どいないのにと、そう言っているのだろう。

 

「ならどうしてです?」


 可愛らしくも首を傾げ、丸い双方の瞳が不思議そうに俺を覗く。

 

「鍛冶だ。それ以外ないだろう?」


 そう自慢げに言う俺に、ソレを訊いた少女はキョトンとしてから、次第に震え手を軽く口元を隠すと。

 

「くっ……ふふっ……」


 笑い出した。

 

「ふふふっ……。ごめんなさい。そう怒らないで下さい」


 まあ、予想通りの反応と言えばそうだ。それでも気づけば不快な顔をしていたのか、笑いながらも少女は謝る。

 

 この世界ではエルフが鍛冶などしない。

 それは当たり前で、少女といえど鍛冶を基本的な仕事にしているドワーフにとっては猫が二本足で逆立ちしながら宙を飛ぶぐらにおかしな話だったのだろう。

 

「こう見えても剣は打てる。ほら――」

「いいですよ。無理しないでください」

 

 しゃくに触ったので剣を見せようとするも、どうも俺が嘘を言っているように思われているのか、丁寧に頭を下げて謝り断られる。そんな様子に気分が沈んで、もういいと呆れのため息と共に窓の外に視線を戻した。

 

 そうして、お互いに言葉も交わさず数時間が流れた。

 

 外の風景にも見飽きたので、今では日よけのカーテンを閉めいつの間にか寝てしまった彼女を見て、俺も気づけば緩やかに揺れる馬車の振動が揺り籠のように心地よく、寝てしまっていた。

 

 そうして、異変が起きたのは安眠をしていた時だった。

 

 ドンッ!!

 

 馬車のタイヤが大きな岩でも踏んだのか、飛び跳ね俺はその振動で無理やり夢の世界から現実へ引き戻された。


「っ――」


 上でを組み壁にもたれ、座りながらの無理な体制で寝ていたせいか痛む首を抑えながら事態を把握する。

 

 見れば、横になっていた少女も起きて、周りを見渡していて、目が合い。

 

「なんでしょう?」


 俺へと訊いてきた。

 

「さあな」


 言いながら少女の座席の方。その座席の壁にある頭部座席の見る小窓をノックして、馬主にどうしたのか聞こうとするもしばらく待っても返事がない。

 妙だ。なにか、なんというかむな苦しいというか言語化しがたい違和感を感じる。

 

「あの……」

「なんだ」


 不思議に思う俺に、少女は何かに気づいたのか不安そうに言った。

 

「馬車……止まってません……?」


 言われてようやく気付く。

 確かに、大きな振動から馬車の緩やかな移動する揺れは止まり静止している。

 

 事態のおかしさに不審に思い、もう一度、小窓を叩くもやはり返事はない。


 「………」


 そこでようやく。というより、起きて気づいた違和感の正体がようやくなにか感じ取れた。

 

 何かいる。

 居るのだ。

 まるで、舞台の上で大量の視線にさらされているような。注目を浴びるような、ある種の生命の危機的なものすら感じる感覚。

 なにか殺意的なものにさらされているような感じを感じて俺は小窓から離れ、外の風景を隠していた日よけのカーテンへゆっくりと手をかける。

 

「どうしたんですか?」

「静かに」


 突然警戒を始めた俺にかけられる声。それに俺は返事を返しカーテンの隙間からを見ようとしたその刹那。

 

 っ――!!

 

 後ろか!!

 

「伏せろ!!」

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