プロローグ004

 慌てて山を道を進み、いつも来ている魔法の練習場所へと来く。

 そこは、山の山頂から麓まで流れる川の川沿いで、丸石がゴロゴロと転がる森の中の吹き抜け。川の流れは緩やかで、魔法の練習場所として使っているこの場所は子供でも膝下程のかなり浅瀬だが、川はここから更に麓に近づくにつれて川の流れと深さは増し、途中で川は切れ大きな滝が流れている。

 とはいえ、此処からそこまでは距離は遠く浅瀬のこの場は子供の膝程度までしかの深さしかない為、命に関わる危険はまずない。

 

 むしろ危険があるとすれば。

 

「ハアハア……」

「ハア……」


 全力疾走で二人して行きも絶え絶えになり、たどり着いたその河原で膝を折り手を着き息を整える。

 そこに、

 

「遅い!!」

「っ――!?」


 激烈な大喝と共に、太陽の如く巨大な炎の球が空から降って迫った。

 それに、間髪入れずに反応をして魔力を操り川を流れる水をまき上げて竜巻のようにうねるに渦が降り落ちる太陽にぶつぶつかる。

 ドンッ!!

 

「あつッ!?」


 ぶつかる水と火は相対し、その性質性から水は蒸発して炎は弱まり消えその反動で巻き起きた熱い視界を塞ぐほどの真っ白い蒸気が吹き荒れて巻き込まれたユリアが声を漏らす。

 その蒸気は直ぐに晴れて元の河原が姿を現し、そこに俺たちに怒鳴った人影が――融通の利かない女教師のような鉄仮面をした俺たちの母、もとい魔法の師匠であり、世界で勇者と共に魔王を倒したという大賢者ユグドラシル・ルシランデが川の畔で肩てを腰にあて、リボンを絡ませ結った金の長い髪を不意に流れた風になびかせて佇んでいた。

 

「母さん――本気で殺す気か!?」


 先ほどの炎の塊の魔法を撃ったのは彼女だ。それもある程度加減はしているとはいえ本気で、少なくとも俺が止めていなければ確実に直撃したならば死んでいたに違いない攻撃。

 母はこういう人だ。

 例え泣いている子供だろうがうるさいと本気でぶん殴るような。般若が人の皮を被っているような理不尽極まりない存在。

 まあ、人間ではなく種族的にはエルフなのだが。

 

 勇者と世界を救ったのはもう100年以上前の話で、この人自体100年以上生きている。

 普通の人間、つまるところヒューマンと異なりエルフは長寿で特定の年齢になると見た目上の歳は取らなくなる。だから、100才超えの、元人間の俺から言わせれば中身は老婆なのだが、見ての通り見た目は20歳ほどの美人。吊りあがった金眼や口元の勝気まさった顔が見た目より年上に見せているが、それでも20半ば程だろう。

 

 とはいえ、優しい時は優しく。何かいいことをした時は、頭を撫でて微笑みしっかりと褒めてくれるが。

 

「師匠と呼べ!!バカどもッ!!時間はとうに過ぎているぞ!!」

 

 それの反面がこれでは……。

 主に悪い事をした時は子のように般若が舞い降りる。

 というか、それで殺されそうになっているのだから正直、冗談やめた欲しい。

 いや――俺が防げる程度でやっているのは分かっているが……。

 その辺の度合いをわきまえている分。これだけ理不尽的でも、お互い信頼し合っていると言える。

 が――。

 

「し、死ぬかと思った……」


 こうして隣でへなへなと腰を抜かして尻をついているユリアを見ると、俺の基準で死にかけているユリアは可哀そうに思える。


 というのも、こと魔法に置いて俺は基本的に優等生でありユリアは劣等生と言っていい。基礎魔力からそのコントロール等々俺に劣っている。

 だから、実力的には天と地の差であんな巨大な炎の塊、ユリアではとうてい防ぐことはできない。死ねと言っているようなものだ。


「立て!!さっさと始めるぞ!!」


 だが、そんなことはこの師匠にはお構いなしで。俺たちは起こられるのが嫌で、大慌てでいつも通り川の畔の所定の位置へと並び立つ。

 

 魔法の修行。

 毎日、賢者の母に教えられて俺たちは魔法を覚えていた。

 その内容だが――

 

 川岸から川を挟んで向こう側、森の木々に入る手前、およそ立って居る場所から30メートルほどの距離だが、そこにある弓道の的のような、木でできたいくつかある丸い的の一つへ向けて片手を開け突き出す。

 そうして狙いをつけて、

 

「炎よ集え、舞い上がり燃えあがり火球となりて飛びたて!!ファイヤーボール!!」


 呪文を唱え魔力手元まで流すと、広げ突き出した手のひらの手前に渦を巻きながら炎は現れ拳ほどの球体になり真っすぐ、赤い軌跡を描きながら高速で飛翔した。

 そうして飛び出したファイヤーボールは的の直前で拡散し。

 瞬間、

 

 パンッ!!


「すごいっ!!」

 

 弾けて拡散し、いくつかの的を巻き込んで燃え尽きて。それを横で見ていたユリアが声を上げる。

 

 

 このように、日々魔法を放ち目標に当てるなどのことをしている訳だが。

 

「どう?」

「随分上達したな」


 先ほどまでの鬼の凝視はどこへやら、関心するように師匠からも言われる。

 

「次、ユリア」

「うん」


 言われ、俺がした時と同じように片手を突き出して、

 

「炎よ集え、舞い上がり燃えあがり火球となりて飛びたて!!ファイヤーボール!!」


 呪文を唱えファイヤーボールが飛び立つ。

 だが、飛翔したその大きさは俺のモノよりも一回り小さく、速度も遅い。そして拡散もせず真っすぐ一つの的に当たりその的が燃え尽きる。

 

「よしっ!!」


 それでもユリアは拳を握りガッツポーズを取った。

 

「まずまずだな」

「え~。タクミがおかしいだけよ。なんで拡散するの!!おかしいでしょ!!」

「確かに」


 この、ユリアの魔法こそが普通だ。

 本来俺の程の速度や大きさにはならないし、ましてや拡散などしない。

 どうも、俺の魔法の技術自体はこの世界としては水準的に高すぎるらしい。俺としてはただ理論準じて使っているつもりなのだがという話だが、それ自体の理解度がそもそも8才の子供にしてはありえない。

 それ自体は当たり前で、そもそも転生してその記憶もそのままで大人同然の思考レベルで赤ん坊のころからいるのだから子供の理解度はとうに超えている。

 だから普通よりも理論的に正確に魔法を扱えるし、なにより――。

 そもそも扱える魔力の属性は複数あり、精霊の声が見たいなものが聞こえるのだから仕方ない。

 

 というのも、この世界の魔法というのは、魔力――つまるところ精神力を絞り出し、それで精霊を集める事によって発動することに他ならない。

 

 魔力は所謂人間の精神力、体力見たいなもので使えばお腹が減るし疲れる。無論使い過ぎれば倒れることだってある栄養だ。それは、使う使用者にとっても栄養であるが精霊という、大気に浮遊する微粒子のような自然界の意志みたいな生物にとっても栄養である。

 魔法とは、魔力を集めエサにして精霊を集めることによって発動準備をする。

 無論、エサを与える精霊にもエサの好みがありそれが所謂属性。

 そして属性は個人の体質による。例えば、火属性の魔力を持っている人間は必然的に火の精霊を呼ぶことになり、使える魔法も火属性のモノのみに縛られる。火の精霊では火の魔法しか扱えず、水や雷など別の属性の魔法を扱うことは決してできない。それぞれ呼べる精霊の属性にあった魔法のみしか扱えない。

 

 それに基本は一人に1属性。出せる魔力の属性は多少は訓練によって増やすことができるらしいが、それが出来るのはおそらくは今俺たちの母である賢者のユグドラシルぐらいらしい。それでも、師匠でも扱える魔力は3つ、全8つ。火、水、雷、土、風、木、光、闇のうち、火、雷、光のみ。ユリアに至っては火属性のみだ。

 

 それにひかえ俺は全てだ。転生する前の自称神の力なのか、全属性扱え。精霊の声を聴くことによって超効率的に最小限の魔力で精霊を集めることができる。

 そう、超効率的に。

 精霊の声というのは名ばかりだが、なんとなく俺は精霊の好みが分かると言った方がいい。精霊は場所やその環境によっても性質が微妙にこのなるらしく同じ火属性の魔力でも好き嫌いが分かれる。俺は、声が聞こえる為、それに合わせて魔力を変えることにより効率よく精霊を集めることができる。

 ほら、例えばトマトでも生産地で味が甘かったりすっぱかったりするだろ?それの違いだ。

 まず精霊に好き嫌いを訊き、エサの魔力自体を微妙に操り精霊の好みに合わせる。だから俺の出す魔力は常に精霊が好むものであり、通常よりも微量の魔力で精霊は集まり低燃費で魔法を放つ準備ができる。

 

 そう――あくまで精霊を集めるのは準備。

 魔法を放つ為にそこからもう一段階、もう一つ肯定を必要とする。

 それが呪文とその詠唱。集めた精霊と呪文を交え契約することでようやく初めて魔法を扱える。

 

 呪文は精霊に魔法を使わせる所謂命令であり、唱えることでどのように魔法を放つのか指示することができる。

 無論。精霊が放たせる魔法には一定数精霊が集まっている必要があり、魔力によって集める精霊の量にそれは比例してその威力と内容が異なる。だから基本は使う魔力=扱う魔法の威力。もしくは魔法の種類。強い魔法を使うにはそれ相応の魔力を使いより多くの精霊を集める必要がある。

 そうして、その集めた精霊に呪文を唱えることにより命令し魔法を使わせる。

 これが魔法の使用方法。

 魔力で精霊を集め、詠唱し命令し、魔法を発動。この一連の作法でようやく魔法は体現できる。

 

 こうして、理論を理解し精霊の好みを訊けるがゆえに普通よりも幾分か達者に俺は魔法を上手く扱える。

 それ自体は俺自身、特にすごくは思っていないがこの世界に置いて諸々ありえない力を持っているがため、師匠のユグドラシルにも期待されている。

 因みに。精霊の声が聞こえることを師匠に話してはいるが特に信じられていない。どうも、子供のたわいごとだと思われているようだ。

 

 まあ、別に構わないが……。

 

「ファイヤーボール!!」

「ファイヤーボール!!」


 二人同時にファイヤーボールを放ち、用意された全ての的を破壊し終わる。

 その頃には昼頃になっており、

 

「よしっ、朝は此処までだ。昼は出かける要があるが二人はどうする?」


 朝のの修行は終わりの様だ。

 

「あっ!!おかあさんアタシも行きたい!!」

「そうか、タクミお前は?」

「俺?俺はいいやこの間行ったし」

「えぇ、タクミも行こうよ~」

「俺にもやりたいことがある」


 そうやりたいことが。

 

「そうか。ならさっさと行くぞユリア」

「うんっ」


 そう言うと、ユグドラシルはユリアを連れて山へと戻っていく。

 

 

「さて」


 一人になった俺も早速移動を始める。

 こんな一人になる機会逃す訳にはいかない。

 俺もしたいことをするべく、とある場所へと向かうため森へと入って行く。

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