第3話 後ろ盾あれど3

村上義清「南側をどう見る?」


家臣「小県郡及び佐久郡は山内上杉の影響下にあります。ただ山内に関しましては先程述べました長尾為景との戦いに敗れ越後での影響力を失っています。」


村上義清「その後は?」


家臣「そのいくさで当主顕定は自刃。顕定の遺言により関東管領を継承した養子の顕実に対し、同じく養子の憲房が反発。上野は家督騒動の地と化すのでありました。これに古河公方でも内紛が発生。騒乱状態となった関東に伊豆から相模へと伊勢長氏が進出。」


村上義清「外を見るどころでは無いな……。」


家臣「山内上杉家内の騒乱は憲房が勝利を収めることにより一応の終焉を迎えたのでありましたが、家中ではしこりが残り反乱や武蔵の上杉家との対立。更には伊勢氏転じて北条氏の台頭。」


村上義清「その間、小県の勢力は?」


家臣「基本的には山内上杉家の家臣として行動しています。それとは別に越後長尾氏と連携する高梨氏と対抗すべく越後守護上杉家に加担し、勢力の拡大を図っています。」


村上義清「山内が直接信濃に入って来ることは?」


家臣「それどころでは無いと思われます。」


村上義清「佐久郡はどうである?」


家臣「守護代家(大井氏)は我が影響下にあるのでありますが……。」


村上義清「一族全部が。と言うわけには……。」


家臣「こればかりはどうにも……。それ以上に気になりますのが。」


村上義清「伴野氏のことであるか?」


家臣「彼が頼りとするとなりますと……。」


村上義清「地域的にみると甲斐の武田信虎。と言うことになるのか。」


家臣「はい。」


村上義清「信虎は既に甲斐をほぼ掌握している。」


家臣「はい。ただ現状を見ますと駿河との国境地帯を掌握することは未だ出来ておらず、境を為す今川。更には相模の北条との対立が続いています。ただ……。」


村上義清「上杉家との関係は良好である。」


家臣「はい。我が村上家が進出する小県、並びに佐久郡の勢力は基本。山内上杉家の傘下にありますので、小県・佐久からの嘆願を受けた山内が武田に要請。と言う大義を信虎が利用することが想定されます。」


村上義清「可能性は?」


家臣「今川と北条と争っている内は心配ありませぬが、仮に信虎が両者と和睦した場合は。」


村上義清「それまでに制圧しておく必要が……。」


家臣「北信濃掌握が第一でありますので、そこまで手を回す余裕はございませぬ。今の影響力の維持に努めましょう。」


村上義清「上野甲斐と境を為すのは得策では無い。と言う事か……。」


家臣「小県・佐久の国衆にとって今の権益が保護されれば良いのでありますから。彼らを上手に活用し、上杉・武田との緩衝地帯となってもらいましょう。」


村上義清「仮に武田が今川と北条との戦いに勝利。もしくは和睦した場合はどうする?」


家臣「そうなる前に、我々が彼らに舐められないだけの勢力を獲得するのです。そのためにも今は北信濃における地位を確固たるものにする必要があるのであります。そうすれば越後も自ずと我が村上との誼を結びに来ることになるでありましょう。今はまだどこも安定してはおりませぬ。この時間を大事にしましょう。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る