5 進藤家VS黒淵家 ———人間界3———

 十二月の寒さは身に染みる。凍える冷たさは吐いた息を白く色づける。体温を保つ為、着太りした人を多々見かける。


「寒み~」


 授業中そんな声を聞くことは珍しくない。ストーブを焚いてはいるが、教師が彼ではストーブごときでは太刀打ちできるはずもなかった。


「いいですか~ん? ここはimmediatelyかat onceよん。分かったかしらぁ?」

(最悪だ・・・・・・・・・)

(ガクガクブルブルガクガクブルブル)


 変態教師プリティー佐波邑の授業は、冬になると南極や北極といった極寒地方に薄着で放り込まれたように身を震わせる。これにALTが加わった暁には、もれなく絶対零度まで体感温度が急降下し凍死寸前まで追い込まれる。

 そんな状態で、授業の内容など全く耳に入らず頭に残るはずもない。まさに地獄以外のなにものでもない。


「早く終われ~」


 このクラスに限って、こんな心の叫びは冬季限定の日常だった。


 だが今回はそんなささやかな願いが叶うことになる。


 ドガンっ!!


 地響きと共に爆音が轟いた。

 音の方に向けば、特別棟から黒煙と共に怒り狂う灼熱の炎が棟を舐め回していた。悲鳴をあげる生徒達をプリティー佐波邑が宥める。


『生徒は至急避難しなさい』


 教頭の声がスピーカー越しに聴こえてくるや、烏合の衆となった生徒は出入口に殺到した。プリティー佐波邑の制止も、今は意味をなさない。


「南雲君。これって」


 槻嶌が言えば彼は頷く。


「間違いない。黒淵だ」


 南雲は隣にいた煉龍に合図する。


「行くですぅ~」


 途端彼らの姿は教室から消えた。

 「関わった以上こうなったらとことん付き合ってやろうじゃん」と彼らは誓っていた。危険がなんぼのもんじゃいと。

 特別棟は四階・五階の半数を吹っ飛ばされ、無残な姿を晒していた。

 紅蓮の炎は金属非金属構わず燃やし尽くす気でいる。


「ぐわははは! 燃えろ! 燃えろ!」


 屋上で、黒淵悶奴は天を仰ぐ。


「ふんっ!」


 誰もいないところに邪炎の弾を放つと、そこから六人の少年少女が姿を表す。


「何者だ貴様ら」

「うわー最悪だ」


 南雲は棒読みで、がっくりと肩を落とした。


「あれは黒淵悶奴。敵の首領の一人さ。つか、この国の凶悪な癌」

「最悪ですぅ」


 煉龍が南雲の後ろに隠れながらぼやく。


「貴様、やけに詳しいな。さては進藤の者か?」

「いやいや、僕ら進藤家とは縁もゆかりもない単なる一般人なんで」


 クラスメイトがズッこけた。即座に槻嶌がツッコミを入れた。

 何言ってんねん! と。


「いやだって何言ったってアイツ聞く耳持つわけないじゃん。一応念の為」

「聞く耳持たなきゃ意味ないじゃん!」

「そんなことより」


 南雲は槻嶌の抗議を無視した。「ちょっと待てゴラァ!」と鬼と化した槻嶌を石田

と奈良沢が羽交い締めにして押さえる。


「アイツの龍は通称『閻魔』と言ってね。能力は分からないけど、相当すっげぇーメチャメチャやっばーいことは確かだよ」


 要は自分達では相手にならない野郎だと言うことだ。


「そんで、どうするよ?」

「逃げられるわけないじゃん。見ちゃったんだし」


 悶奴は殺気をぎんぎんに放っている。身体中の穴という穴から汗が流れる。


「死ね」

「そんなこったろうと思ったよコンチクショウ!」


 冷酷なる宣告で『閻魔』なる龍は邪悪な炎の刃を無数に繰り出した。南雲達は間一髪でそれを避けた。


「無駄無駄無駄!」


 次々に放たれるそれに、彼らは全身全霊をかけて避けて見せた。

 この時、男性陣はほんのちょっぴり瑞穂に感謝したのだった。あの地獄の体育が役に立ったのだ。

 女性陣は呼び出した龍の力を借りて閻魔の炎を相殺することに成功した。


「・・・・・・何故貴様らがそれを持っている?」

「悪いけどアンタのような悪人に言う気はないかんね!」

「ならばよいわ。滅びろ! 進藤に連なる愚者共!」


 閻魔が特大の火球を放出した。あれを喰らえば半径100mの蒸発は必定だ。煉龍らでは防ぎきれる代物じゃない。


「佐々木流・絶風陣」

「進藤流八式之四・破邪豪炎刃」


 特大の火球が少年らに当たる直前、見計らったように不可視の壁がそれを防ぎ、別方向から無数の火炎の風刃が悶奴を襲った。


「俺の生徒に手を出すたぁいい度胸だな」

「俺の友人を可愛がってくれたな悶怒? 礼をしに来たぞ」

「り、理事長!?」

「龍造さん?」


 彼等を護ったのは私立神明高校理事長にして、警視総監兼警察庁長官の肩書を持つ剣聖佐々木徳篤と『武聖四家』筆頭の進藤龍造であった。その顔はどちらも笑いながらも怒りに満ちていたのは傍から見ていてもすぐに分かった。


「ようやく現れたか。龍造」

「俺は別に貴様のようなクサレ外道に会いたくはなかったがな」


 よわいゆうに60を超えているとは思えぬ覇気を醸し出す龍造と徳篤に圧倒されそうだった。これが武の頂点を極めし者の気魄なのか、南雲は興味を持った。

 世界最強の名は伊達じゃないのだなと実感した瞬間だった。


「ほざけっ!」


 悶奴が指示を出せば、閻魔が黒炎を彼に向かって放出する。龍造の前に焔の壁が現れそれを防いだ。


「俺を忘れてもらっちゃぁ困るな悶怒」


 いつの間のいたのだろうか。クククと龍造の相棒破龍が現れて笑む。


「貴様ごとき雑魚に用はないわ!」


 閻魔が全力の火炎をぶつけるも、破龍が水平に切った手の焔によって掻き消された。


「忘れたか閻魔よ。俺は元々『五大龍』に匹敵する力を持ってるんだぜ? テメェごときの炎、防げないとでも思ったか」

「それすら忘れてるほど、そこの死に損ないが焦ってる証拠だよ」


 ゆっくりそこに出現したのは龍一。

 そして、もう一人。決意を秘めた眼で悶奴を見据えていた。


「いい加減諦めたらどうです? お父様」


 未奈の姿を見て、悶奴の眦が吊り上がった。


「裏切り者に父呼ばわりされる筋合いはないわ!」

「あらあら。実の娘に対して酷い言いぐさですわね」

「黙れ! 我が野望に反する者にこれ以上話す気はない!」

 

怒りに任せて射放った炎は、淡い緑色の炎によって相殺された。


「我が主に仇なす者は、何人たりとて我が許さん」


 姿を現したのは緑眼紫髪の幻龍である。彼を知る者は、黒淵の中には誰もいない。

 その能力はまさに未知数だった。


「・・・・・・何奴だ?」

「我が主に敵対せし者に名乗る必要なし」


 それだけ言って、彼女の龍は有無を言わさず敵に攻撃を繰り出した。更に三方から龍造・徳篤・未奈の攻撃が浴びせられる。


「猪口才な!」


 閻魔や自身の邪炎で払うも、波状攻撃はますます勢いを増した。


「ぬおぉぉぉ!」


 ついに攻撃を防ぎきれず、防御を逃れた攻撃が悶奴の皮膚を裂いた。


「いくら貴様と閻魔であっても、我ら四人を相手に勝てるか?」

「ぐぅ・・・・・・。今日はこれまでにしてやる」


 苦々しく吐き捨てるや、彼は邪炎に包まれ消えた。


「やられたな」


 静寂が戻ってから龍造が呟く。

 炎は駆け付けた消防隊によって鎮火され、その被害は小さかったものの彼らの表情は曇っていた。一足遅かった、と。


「やられましたね。よもや本人が来るとは」

「とんだ失態だ」


 徳篤は南雲らの方を向いた。


「怪我は、してないな」


 龍造からある程度事情は聞いていたが、まさか首を思いっ切り突っ込んでくるとは予想外だった。


「覚悟は・・・・・・あるようだな」


 ぽっつり呟く龍造。

 未奈と龍一は可能ならば彼らにこれ以上関わってほしくなかった。普通の人間に自分達の世界に巻き込みたくなかった。

 が、彼らの瞳に宿る燃え上がる闘志を見ると、はぁ、とため息をついた。


「仕方ないわよ。こうなっちゃったら」

「むしろ、この子達の護衛役の方がやる気に満ち溢れている気がする・・・・・・・・・」


 姿は見えなくてもウズウズしているのは眼に見えていた。現に顕現している煉龍がすでにやる気満々だった。


「俊介君、やるですよぉ! 私、すっごい頑張っちゃいますよぉ!」

「・・・・・・ね?」

「やれやれね」

「まあ、いいだろう。今は人手が多くいるからな、協力してくれるのはありがたい。

 それよりすぐに退散するぞ。後々面倒になるのはごめんこうむりたいからな」


 龍造の提案で、一行はひとまずこの場から理事長室に場所を移した。


「いよいよ正念場だな」


 机に肘をおき徳篤が言う。


「君達には、暫くの間俺の家に寝泊まりしてもらう」

「前々から奴らには眼ぇつけられていたが、今日で悶奴に知られてしまった。

 多分、かなりの割合でお前らの命を狙らってくるぞ」

「神出鬼没の閻魔が相手だと、雷龍達でも厳しいのよ。だから、私達の周りにいないと、命の保証ができないのよ」


 大人たちの心配を他所にどんと来やがれと彼らは胸を叩いた。


「これでも前々からそうするって決めてたんですよ」

「自分達の世界くらい、自分達で守らないとね」


 意気揚々としてそれぞれの思いを吐き出した。それを聞いた龍造は、彼らの護衛役である雷龍らに命を賭して彼らを守れと下命した。


「今日は、あの異形の者がいないだけマシだったな」


 徳篤がぼやいた。今日に限って世を騒がせている黒翼人めんどくさいやつらがいなかった。噂によれば連中と黒淵は同盟関係にあるようで。そうなると、自分達だけで何とかしようとなると、戦力的に不利な位置にある。


「何とかして白い翼の者達の手を借りたいのだがなぁ」


 徳篤がぼやいた時だった。


「進藤龍造様と佐々木徳篤様でいらっしゃいますね?」


 その時、突然柔らかい声が部屋に聞こえてきた。彼らが声のした方へ向くと、いつの間にか例の白翼人の男性がそこにいたのである。全く音がしなかったので南雲達は驚いたが流石に4人は驚かず冷静であった。


何故なにゆえ俺達の名を知っている?」

 一人だけ振り向かなかった龍造が、静かな雰囲気で言うと、白翼人は改まって名乗った。


「これはご無礼を。私はカヤノヌシと言う者で、オオクニヌシ様の使者として参りました」

 『オオクニヌシ』と言う名を聞いて、彼と龍一の気色が変わった。


「・・・・・・おぉ、そうか。奴は息災か」

「はい、お蔭様で。ご子息様達は無事ですのでご安心を」

「アイツは身体は頑丈にできているからさほど心配はしていないが、無事ならそれで良い」


 龍造や龍一以外の面子は口をあんぐりと開けて彼らを凝視していた。

 龍造はかいつまんで彼等との関係を話した。


「十年近く前に一度、異世界の住人を保護したことがあってな。オオクニヌシといいのは、その時保護した者の一人なんだ」


 カヤノヌシの話によれば、龍二からこちらの世界の話を聞いたオオクニヌシが、カヤノヌシを隊長とした援軍をこちらに寄越したそうだ。

 その数、ざっと三百。


「ここではあれですから、場所を移しませんか?」


 彼の意見に、龍造らは従った。


















「あっ、おじい様いたんだ」


 龍造の部屋に入って、龍一の第一声は、ここにいるはずのない男に対してであった。


「よっ。ちょっとこっちに用があってな」


 進藤龍彦。先日から異世界に飛ばされていたはずの男が座して優雅に茶を啜っていた。


「彼はオオクニヌシ様の命にて私が連れてきました」

「そういうことだ。あっちでも奴らには手を焼いててな。これ以上連中の手先を増やすわけにはいかないからな。俺がオオクニに掛け合って眼の上の瘤を取っ払うべく来たわけだ」


 淡々と語る龍彦を、南雲は不思議な眼で見る。


 これが噂に聞く『護國神』。かつて天下無双と謳われた呂布に負けず劣らずの、世界を震撼させた史上最強の軍人である。彼があの大戦中に行方不明になっていなければ歴史が変わっていたと後世で言われたほどの数々の伝説を持つ超大物だ。それが今彼らの眼の前にいるのだ。

 

「お前が黒淵未奈か。話は瑞穂から聞いているよ。」

「初めまして。お会いできて光栄ですわ龍彦様」

 未奈は軽く会釈した。


「で、どうなんだこっちの状況は?」


 彼に問われ、龍造が大体の話を聞かせてやった。それに徳篤が補足を加える。


「ふむ。大方分かった。しかし厄介だな。『閻魔』か」


 そこに、たまたま高円宮絋人たかまどのみやひろひとが報告に現れた。


「龍造さん、その人はもしや・・・・・・・・・?」


 龍造がうむと頷くと、絋人は慌てて最大級の礼をした。


迅仁としひとは、元気でやってるか?」


 はい、と絋人が答えると彼はことのほか喜んだ。


「そうか。今度会いに行くと伝えてくれ」

「龍造、いる・・・・・・か」


 更に、そこに首相槇田皓治が今回の件で相談に来た。龍彦に驚いて腰を抜かしてしまったが、それはそれで、気を落ち着かせてから座って話を進めた。


「ここに来て、黒淵が出てくるとは思いもしなかったようで、父や陛下はお心を痛めておいでのようです」

「国会も、今の件でろくな論議もできなくてな。遂にお前らに何とかしろって言い出す連中も出始めたんだ」


 口々に言うことに一々頷いた龍造は、やれやれとため息をついた。


「幸い、被害は少ない。が、侮れん」

「早く対処しなければ、死人が出るかもしれないな」


 それは容易に想像できる。焦っている悶奴のこと、いつ暴走するか分からないの

だ。

 加えて、ここで問題が一つ。

 龍彦の存在だ。万一彼の存在が悶奴に聴こえたならば、彼の過剰な行いが早まる可能性がある。

 それは何としても避けたい事態だった。


「安心しろ。あんな連中に俺のことが知られるはずがねぇ」

『俺がうまーくやっから心配すんな』


 龍彦と黄龍のどっからともなく出てくる自信に、龍造はほんの少し安堵した。


「問題は、だ」


 龍一はチラッと南雲達を見た。彼らをどう守るかである。


「藤宮や戸部も頑張ってはいるが少々厳しいな」


 藤宮や戸部も力は宗家に劣らずとも、黒淵と較べれば大したことはない。


「伏せているが、組と二家合わせて50人が殺られているんだ」

「いずれにしろ、早く手を打たねばな」


 沈黙した空気が流れ、押し黙ったまま時が過ぎる。


「取り敢えず飯にしようや。腹減っては戦は出来ぬって言うしな」


 一人へらっとした龍彦が言うと、龍造は風龍に食事の支度をするよう命じた。















「南雲俊介と言ったか。なかなか情報収集能力が長けているそうじゃないか」


 進藤邸の離れで、龍彦と南雲は対峙していた。


「いやいや、それほどでもないですよ」


 謙遜する彼に、煉龍が茶を出す。茶をすすりながら、彼が言う。


「黒淵邸は堅固極まりないッスね。どこもかしこも見張りが二十四時間体制で立ってますから」

「カヤノヌシらの援護があっても厳しいか?」

「見張りはどれも手練ればかりですからね。それに、黒翼人が手を貸していないとも限りませんから、僕の口からは何とも」


 闇の力を破るには、それ以上の力を要する。それをなすには援軍がいるとはいえ人数が足りない。


「俺と龍造、親宗と知介くらいが妥当か。後は四家当主と近藤と池田か」

「私達だけでは、五分が精一杯ですぅ」


 煉龍が困ったように南雲の膝の上で俯いた。


「そうなると、やはり龍彦さんが要ですね」

「それは別に構わないが、なるべく戦力を削らずに行かねば、こちらに勝機はないぞ」


 人数的に不利な分、そうでもしなければ対等に渡り合えない。


「して、俺が君を呼んだ理由、分かるな?」

「そりゃもうばっちりと。『抜け穴』ですね?」


 うむ、と龍彦が頷く。手慣れた手つきで、彼は机の上に図面を広げた。


 黒淵邸の見取り図のようだ。


「ここにですね───」


 綿密な話し合いは深夜まで続いた。















「親父ぃ、おじい様は?」

「所用とかで朝早くから出掛けたぞ」


 翌日朝の九時過ぎ。龍造の部屋には一同が揃っていた。絋人は公務の関係で昨日遅くに帰った。机の上には、昨日南雲が龍彦に見せた黒淵邸の図面が広がっている。


「今日明日中に、我々は黒淵悶奴ら黒淵一族を討つ」


 低く、静かに龍造が言う。


「これより作戦を伝える」


 促され、南雲が説明に入る。


「黒淵邸はそこかしこに見張りやら防犯設備が充実していて、簡単に侵入はできません。が、自分が掘った〝抜け穴〟を使えばそれは可能です」

「ちょっと待て」と武内は横槍を入れた。

「抜け穴って、お前そんなんいつ掘ったんよ?」

「ん? 昨日の夜。煉龍に協力してもらった」と言えば、

「えっへん。私、すーっごい頑張ったんですよぉ!」


 と、腰に手をやり誇らしげに胸を反った。そんな彼女の頭を南雲と龍造は撫でてやった。


「・・・・・・・・・」


 武内らは言葉を失った。その眼はお前ら何命知らずなことしてんだと訴えていた。

 南雲はコホンと東側の一点を指差した。


「ここには、龍彦さん、龍造さん、龍一さん、未奈さんに入ってもらいます。他の皆さんと、カヤノヌシさんの隊は周辺の敵を引きつけてもらいたいのです」

「待て待て待て。俺ら素人。どうやって東側の敵をどかすんよ?」


 武内の反論に、南雲は手をかざす。

「最後まで話は聞いてくれよ。何も特攻かますわけじゃないよ。僕が掘った穴は壁から数百メートル離れた場所に起点があるんだ。バレる心配はない。そこから黒淵邸に侵入して黒淵の連中を驚かせるってわけ」

「いやいや、そんなんで───」

「万一に備えて、 幻龍さんや聖龍さんに護衛は頼んでるし」


 あっそ、と武内はそれ以上何も聞かなかった。何を言ってもこりゃだめだと諦めた。

 コホンと咳ばらい一つして、南雲はある場所を指した。


「この作戦の要は龍彦さんです。あの人の存在が奴らにバレないことが勝利条件の一つといってま過言ではありません。黒翼人はカヤノヌシさん達に任せて、僕らは黒淵の人間の注意を引かねばなりません。東は僕らと先生、西は徳篤さん達、北は後藤家と神戸家、南は池田家と近藤家にお願いしたい。遊撃部隊として藤宮家と戸部家を考えています。僕が合図を出しますから、皆さんとカヤノヌシさん達はそれを見てから一斉に攻撃をしてください」


 南雲は槇田の方に向き、こう頼んだ。


「槇田首相には、合図があり次第周辺五キロ四方を封鎖していただきたいのです」

「それは構わないが、私の権限ではそこまでの封鎖は難しいぞ?」


 むつかしい顔をする槇田に、南雲は微笑して縁側を向いた。


「既に手は打ってありますよ。ふふふ・・・・・・・・・」


 彼の不思議な笑いに、奈良沢は訝るしかなかった。

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