2 神々の世界 その壱 友人との再会


「な~泰平ぁ~」


 雲一つ無い晴天の大空。青々と茂るに任せた草が生えた大草原。その、おそらく真ん中であろう場所に、手を後ろに組みそこに頭を乗せ仰向けになって大空を見上げている男達がいた。


 黒い翼の男が放ったわけの分からん光に飲まれた一行は気づいたらこんなところにいた。とりあえず分かっているのはここが自分達が住んでいた世界ではないということぐらいである。


「何だい~龍二ぃ?」

 だるそうな声で泰平が答える。


「空、青いな~」

「青いね~。絶好の洗濯日和だよな~」

「外で遊ぶにゃ絶好だよなぁ~」

「そうだね~」

「───ここ、どこだろうな~」

「どこだろうねぇ? 少なくとも、僕らの世界じゃないことは確かだねぇ~」

「ですよねぇ~」

「わしも、この世界は初めてじゃな」

「そんでさ~。何で~四国にいたじぃ様と~子龍さんがここにいて~さっきの奴らがいないんだろうね~?」


 間の抜けた声に、龍彦は知らんと答え、子龍は力なく分からないと答える。


「・・・・・・元気だね~あの二人は」

 そうだね、と泰平。


 彼らの視線の先には、楽しげに遊んでいた天龍と玄武がいた。


 天龍は主である趙雲と、玄武はどうやらたまたまその時あの公園にいたらしく、光に巻き込まれたと聞いていた。


 元々気の合う二人は、よくこのように遊んでいるようで、時折級友に目撃されていた。


「何であんな楽しげに遊んでられるんだろうね?」

「あやつらの脳は基本楽しい事に直結されるからの。やる時以外はあぁなるんじゃよ」


 お陰でわしらの苦労が10割増になるがなと伏龍は皮肉を言う。


「・・・・・・時に泰平君」


 不意に龍二が話しかけてきた。ニュアンス的にどこかせっぱ詰まった感じがする。


「何かな龍二?」

「気のせいかな? 何かこっちに赤くてメラメラしたでっかい玉っぽいのが来てる気がするんだが?」


 彼の言う、赤くてメラメラしたでっかい玉っぽいのは、まだ遥か上空にあるものの、確実に彼らめがけて飛来している。


「───気のせいじゃないね。僕にもそう見えるから」

「・・・・・・逃げろおぉぉぉぉ!!」


 急いで立ち上がり四方に散る。当然、遊びに夢中になっている天龍と玄武を放置するということはしない。


 玉っぽいのは、彼らが逃げてすぐ後に彼らがいた場所に大きなクレーターを作った。


 唖然としている彼らの眼の前に、白い翼を羽ばたかせた女が現れた。


 さっきのはこいつか? と思いつつ、龍二はここがどこなのか聞いてみようと話しかけた。


「なあ、ここってどこ───」

「魔族の手先にしてはやるじゃない」

「・・・・・・はい?」

 たっぷりと時間を取って、たまらず聞き返した。


 彼女の言ったことが理解できなかった。まさか開口一番に敵意剥き出しな言葉を聞くとは思わなかったのだ。というか、魔族って何だと。


「いや違うから。俺達は───」

「でも次はそうはいかない」

「だからそうじゃなくて」

「問答無用!!」


 女は再度火炎攻撃を繰り出す。龍二はひょいひょい避けながら会話を試みたが、彼の言葉に一切耳を貸すこともなく様々な攻撃を繰り出した。


 しかも何故か彼だけ。そう、攻撃をされているのは龍二だけである。他の者達には眼もくれずに。


 それは、彼がせっかく我慢に我慢を重ねていた堪忍袋をブチ切るにはわけなかった。


「人の話を最後まで聞きやがれこのバカ女あぁぁぁぁ!!!」

 怒りを爆発させ、蒼炎の塊を彼女めがけぶっ放した。これには女も心底驚いたらしく、キッと眼を剥き何か怒声を発すると、攻撃はますます激化した。


「頑張れよー・・・・・・って聞いてないか」


 彼らの攻撃が届かない場所で、のんびり傍観に耽っている泰平はそれを楽しそうに見ていた。その近くに、水上げされた魚のようにはね回る、縛られた天龍と玄武がいた。


「ま、ここがアイツらの世界だっつうことは分かったな」


 呑気に言う龍彦に頷いて見せる趙雲。眼の前では、攻撃しながら「魔族のくせに!」とか「俺は人間だ!」とかどうでもいい争いを繰り返しながら戦かっている二人がいた。


 その時、何かに気づいた泰平が後ろを振り向いた。同じ年頃の少女がこちらに来ている。


「人間さん・・・・・・ですか?」

 そうだよ、と泰平が言うと少女はカスガノミコトと名乗った。お返しにと泰平は自己紹介する。


「あの・・・・・・あの二人は何してるですか?」

 話し方が妙な感じがしたが、泰平は無視して現状を説明する。


「実は、どうもあの女の人が彼を魔族というものだと思ってるらしくてね・・・・・・。話を聞いてくれないんだ」

 困り果てたように彼が後ろ髪を掻くと、カスガノミコトは声を大にして叫んだ。


「イザナミさーん」

 声に気づいたイザナミなる女は、振り返るなり、はっとして叫び返した。


「カスガ! 何してるのよ! そいつら魔族なんだからすぐに離れなさいっ!」

 イザナミの発言にすぐさま龍二が「だから人間だっつってんだろ!!!」とツッコミを入れる。あ、一応魔族として認識していたのねと泰平が小声で呟く。


「耳見るですよー。その人、立派な人間さんですよー。背中に羽も生えてないですよー」


 そう言われて、仕方なしに見てみると、確かに耳は尖っていなかったし第一黒い翼がついていなかった。


「あらホントだ。ごめんなさいね」


 ブチ


 悪びれる様子もなくしれっと謝る女の態度は、当然に龍二の機嫌を更に逆なでる。


「悪く思わないでね。ちょっと気が立ってただけだから」


 謝る気はないらしく、言葉の中に『けど攻撃してくる貴方も悪いのよ』とか『私は悪くない』という思いが伝わってくるようだ。


「ふ・ざ・け・ん・な!!」

 こめかみの青筋をほぼ全てブッ切れさせた龍二は、さっきのお礼だとばかりに蒼炎の塊を問答無用でぶん投げまくった。


「ごめん、ホントゴメン! 許して!」

「ざけんな! 誰が許すか!」


 逃げ回る女を怒りで我を忘れ、血走った眼で追い掛ける龍二を、泰平と龍彦は呆れ返った表情で、カスガノミコトは困惑した顔で見ていた。


「あの・・・・・・えっと・・・・・・・・・」

「・・・・・・どうしようかね?」


 このままではらちが空かないので、まず龍二を黙らせることにした。


「黄龍。ちょっと頼まれてくれ」


 龍彦が何かに呟くと、龍二の前に黄龍が現れ、彼の頭蓋骨を鷲掴みにした。


「そろそろ止めろ。話が進まぬ」

「なんでだよ!? あの女散々攻撃してきたのにさ!」

「止・め・ろ! 良いな?」

「・・・・・・何か納得いかねぇ」


 しょげた顔で戻ってきた龍二を見たカスガノミコトは首を傾げた。


 見覚えがあった。


「どこかで会ったような気がするです・・・・・・・・・」



 当の龍二も彼女に気づいたようで、同じような言葉を言った。


「あれ? どーっかで見たことあるような・・・・・・・・・」


 暫く互いの顔をジィーッと見ていると、突然互いの顔を指差し「あ────っっっっ!!!!」と叫んだ。


「もしかして、龍二君ですか!?」

「もしかしてミコトちゃんか!? うぉー久しぶり!」

「久しぶりですー! 元気してたですか?」

「元気元気! なあなあ、スーさんとおっちゃんは元気?」

「元気ですよー♪ それにしても、おっきくなったです・・・・・・・・・」


「───何だ? お前ら知り合いか?」

「カスガ、アンタこいつと知り合いなの?」

 再会を喜び合う二人の為に、すっかり蚊帳の外状態になっていた龍彦とイザナミが同時に尋ねた。


「うん。俺がちっちゃい時に、暫く一緒に住んでたんだ」

「ボク達が人間界に迷い込んでしまった時に、暫く世話してくれた人達の息子さんですよ」

「でも、カスガちゃんがこっちの人だったとは驚きだなぁ」

 また二人だけの世界に入った二人を、彼らはどう見たのだろう。


 その後カスガノミコトの好意により、一行は彼女の家に行くことになった。


「っと、その前に」


 龍彦はイザナギの肩をガッチリ掴むと、ニッコリ微笑んだ。


「イザナミといったな? ちょっと『お話し』しようか?」

 












「へぇー。ちっちゃい時は俺達と変わらないんだ~」

「そうなんですよ。大体人間でいう十歳頃から背中に羽が生えてくるですよ」

 先頭を行く二人は心底楽しそうで、その後ろを泰平達がついていく形をとっている。


「あの、先程はほんっとーにすいませんでした!」

 あの後、龍彦からミッチリときつい説教をくらい、恐縮しきったイザナミが平謝りするのを、龍彦は手をヒラヒラさせながら分かれば良いと言った。


「それに、こっちはこっちでおもろそうだしな」

「龍彦さん、それは」

「えーいいじゃん楽しそ───ふぎゃっ!?」

 歩く玄武の頭を、龍二の中から出てきた伏龍が掴み上げる。


「玄武や。ちと、黙ってくれるかの?」

 言葉は優しいが、口調はその筋の方が使うそれと大差なかった。第一眼が笑っていない。

 玄武は一二もなく首を激しく上下させる。


「そうじゃ。静かにしておれば、何もせんからの」

 長い銀髪の伏龍は、愉快そうに彼を摘(み上げながら歩いていく。


「何と言うか・・・・・・・・・」

 イザナミは言葉に詰まった。自分の常識というものが根底からブッ壊された感じがした。外界にこんなにも常識外的存在がいようとは思っても見なかった。


 イザナミは龍二にほんのわずかばかりの恐怖を植えつけられた。と根拠もなく納得させた。


「ついたですー」

 カスガノミコトが眼の前で手を広げて告げた。


「・・・・・・・・・デカっ」

 眼の前の大邸宅に、泰平は呆気にとられた。


 大邸宅なんてものじゃない。その辺にある豪邸を十戸くらい繋げまくった感じ。ついでに言えば、それは家だけであって、庭はそれ以上にデかい。これは、自分の家や他の三人の家の比じゃなかった。


「でかすぎだろ!?」

 龍二の見事なツッコミを無視して、カスガノミコトは門をくぐった。


「おとーさん、いるですかー?」

 少女の呼び掛けに、奥の方から髭を生やした大柄な男がやって来た。


「おぉーミコト、帰ってきたか。 ──ん? 客人か?」

「人間さんのお友達ですー」


 ニコニコしているカスガノミコトの後ろから、ひょいと

「オオクニのおっちゃん、久しぶり~」

 娘の後ろからひょっこり現れた人間の少年を見て、ミコトの父オオクニヌシは、はて見たことあったかな? という顔をしている。


「おっちゃん。俺だよ俺。進藤龍二。ほら、昔迷い込んだおっちゃん達を世話した家の」

「・・・おぉ!! 龍造さんんトコの!」

 男は本当に懐かしむように彼の姿を眼で追い肌に触れた。


「大きくなったな! 龍造さんは元気にやってるか?」

「勿論だよ。元気がありすぎて困るくらいだよ」

 そんな会話を聞きながら、泰平はこう思った。


 別世界の住人と知り合いってお前ら一家は何者だ?


「お前の友達っぽい奴らなら、先刻スサノオが連れてきたぞ。多分大広間でくつろいでるだろうよ」

「マジで!? あんがとおっちゃん!」

「あっ、待つですー龍二君」

 駆けて行った龍二の後を、ミコトは追い掛けていった。

「スサノオから話は聞いている。入りなさい」

 オオクニに手招きされ、彼らはオオクニヌシ邸の敷居を跨いだ。
















 大広間にはオオクニの言った通り、残りのメンバーがのんべんだらりと過ごしていた。真っ先に飛びついてきたのは当然達子と呉禁であったが、何故かそこに巻き込まれていないはずの『四聖』がいたのには驚いた。


「龍二く~ん、待つですよ~」


 そこに入ってきた神族の少女が龍二の名前を知っていたことに、さしもの安徳も驚いたが、この時偶然眼が合った達子は、何と無く親しみのこもった彼女の発言にムッとし、逆に神族の少女ことカスガノミコトは、彼にくっついていた少年に可愛さを感じ、女にムカついた。


「龍二。その娘は知り合いなの?」

「龍二君、そのくっついてる娘は誰です?」

 何か知らんが火花を散らす彼女達。


 あぁ、俺はまためんどくさいことに巻き込まれたか、と心の中で歎いた。


 何だか高見の見物を洒落込んでいる誰かの手の上で踊らされているピエロみたいに思えた。


 いつまでも泣いているわけにもいかないので、取り敢えず紹介することにした。


「昔、一時期世話してた神族のカスガノミコトちゃんだよ。ミコトちゃん、これが俺の彼女の達子」

 達子の眉がピクンと反応し、少し吊り上がった。カスガノミコトも同様の反応を示した。


「一時期、ね」

「彼女、ですか」

 心なしか、火花がまた一段と激しくなったことを彼は分かっていた。

 そして、彼の不幸を素早く感じとったのは、明美と泰平、青龍、朱雀、白虎だけだった。

(こりゃぁ、早々に修羅場を向かえそうじゃの)

 青龍は現在の主の女難の大きなことに同情せざるを得なかった。












 豪勢に盛られた料理でもって龍二達はここの神達に盛大に迎えられた。

 歓迎会(?)の席で、オオクニヌシを始めとする面々から自己紹介されて、和美は神様は本当にいたんだと呆然としてしまった。


 それと知り合いである龍二の家に驚いたのは言うまでもない。

「龍二君、さっきは巻き込んですまなかったね。元気だったかい?」

「久しぶり。大きくなったわね」

 龍二は今、オオクニヌシの妻アマテラスとカスガノミコトの兄スサノオと思い出話に浸っていた。

「・・・・・・スゴいわね」

「・・・・・・スゴいね」

「・・・・・・スゴすぎよ」

 華奈未、公煕、和美らは、そのあまりの豪華さに、口をポカンと開けたままでいた。


 何より、多すぎる。通勤ラッシュの車内ほどではないが、そのくらいの神達に大広間は占拠されていた。


「あぁ、懐かしい───ぶぅっっっ!!!?」

 出された飲み物を口に含んだ瞬間、彼の口はそれに含まれている異物の体内への侵入を拒絶した。


「おっちゃん! もしかしてこれ酒か!?」

「そうだが───あっ、そういや、お前の国では酒は二十歳を超えてからだっけか?」

 ポンッと手を叩くオオクニヌシ。

 この時、龍二の脳裏に思い出したくもない〝惨劇〟が走馬灯のように駆けていった。


 しかし、既に彼の退路は断たれていた。


「おっちゃん早くこれを引っ込め───グハッ!?」

 全てを言い切る前に、彼は後ろから抱きつかれた。熟した二つの膨らみが彼の背中に押し付けられた。


「りゅ~じ~」

 頬を真っ赤に染め、デロンデロンに酔っ払った達子だった。

 眼を細め、酒に手をつけていない龍二に、達子はぐいっと顔を寄せた。

 あぁ、俺はまた修羅場にいくのかぁ。


「あんら~。まらのんれないの~? はらくのみなひゃいよ~」

「飲みすぎだバカッ! それに何言ってるか───ぬがっ!?」

 今度は前から何者かに抱き着かれた。

「りゅ~じ~く~ん、はやく飲むれふよ~」


「なぁっ・・・・・・・・・」

 龍二は蒼白した。

 抱き着いて来たのはカスガノミコトだった。彼女も、達子同様デロンデロンに酔っ払っていた。その時、呑気に娘が酒に弱い事を思い出したオオクニヌシに、龍二はある種の恨みを覚えた。


 二度あることは三度ある。更に今度は横からタックル気味に瑞穂に抱きつかれた。

「私も交ざる~」

「瑞穂! テメェ分かってやってるだろ! 離れろ! 今すぐ離れろ!」

「え~やだ~」

「ふざけんな! シバくぞコラッ!! 早く───ぶぷふ!!!?」

 怒り心頭の彼の口に、達子とカスガノミコト二人が無理矢理酒をぶちこんだ。

「んーんー!!」

「ほら~はらくのみらはいろ~」

「のむれす~」

 酒乱の二人に完全に呑まれたの龍二を端からのんびりと肴にしながら、伏龍達は飲んでいた。


「あぁなってしまっては、我が主は形なしじゃな」

 大笑する伏龍の二つ隣では、その龍二と同じような騒ぎが行われていた。


「せ~いりゅ~く~ん、もっとぐいぐいっとのも~よ~」

「飲みすぎじゃバカ者。眼が据わっておるではないか」

 頬をリンゴのように赤くした天龍が、チビチビと呑んでいた青龍を煽るが、彼は涼しい顔で流した。


「むー。こうなったら、こ~だ~」

 頬を膨らませた天龍はそんな青龍の背中に思いっ切りダイブした。

「ぬおっ!? 何をする止めんかバカ者がっ!!」

「私バカだからやめませ~ん♪」

と言う感じに天龍に絡まれている青龍に、憐れみの視線を送るの者が四人。

「・・・・・・何とかは飼い主に似るって言わないっけ?」

「言い得て妙、ってところかしら?」

「・・・・・・天龍殿ぉ」

「・・・・・・天龍様ぁ」

 良介に賛同する明美に、自分の相棒、自分達の頭領の乱れっぷりに盛大なため息をつく趙雲と華龍。


 ふと華龍が右隣を見ると、さっきまでいたはずの主人の趙香がいない。

「姫?」


 キョロキョロ見回すと、彼女は千鳥足で龍二のもとに向かっていた。まさかと眼線を彼女のいた席に戻すと、空いた酒瓶が倒れていた。


「りゅ~じ~さ~ん、だいてくださ~い~」

 酒はその人の本性をあらわにすると言われるが、大胆にもほどがある。

 それを聞いた龍二は色を失った。

「ちょちょちょ趙香! お前何を───っておいこらちょっと待てぃ!!」

 龍二が叫ぶのも無理はない。いきなり趙香が着ている服を脱ぎ始めたからだ。触発されたように他の私も私もと三人も脱ぎ始める。

「ちょっと待てやお前ら! 悪酔いしすぎだ! つかやめろバカ脱がすなアホゥッ!!」

 誰かの手が龍二のジーパンにかかったと感じるや最早彼女達から自力で逃れる手段は無いと判断し、頼みの青龍に助けを求めた。


「せ~りゅ~く~ん|

「離れんか天! ええぃ!」

 が、お生憎と青龍は何故か天龍に絡まれていてそれどころではなかった。仕方なく他の人に求めるも、ほとんどの者はこれを〝おつまみ〟にして盛り上がっていた。


「誰か────っ!!!!」

 絶叫した後、ドシンと何かが自分の腹を圧迫した。危うく中身が出てきそうになったのを、根性で抑え込んだ。


 見れば四人が仲良く自分の腹の上やら足やらで心地よい寝息をたてながら寝ていた。


 首を青龍の方に向ければ、そっちは華龍が臨界点に達したらしく、天龍を青龍から引っぺがすと、彼女に正座を強要し嵐のごとき説教攻撃を開始した。


「大体貴方という人は我々の頭領であるという自覚が足りなさ過ぎるのです! いいですか、そもそも───」

 華龍の説教に聖龍が加勢する。二人の苛烈な言葉攻めに天龍は早くも涙眼であった。

「・・・・・・はあああああああああああああ」

 地獄が終わったと思うと、これまでの疲れがどっと押し寄せた。 龍二のため息は一入ひとしおではなかった。










 

 用意された、それなりにデかい部屋に突っ伏した二人の男。彼らは数多の死線を掻い潜りようやく安住の地へ逃げてきたのだ。

 動く気配はない。それを見つめるこれまた二人の男。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 屍のように横たわる龍二と青龍、それに同情の眼を向ける紅龍と伏龍が声をかける。


「お前ら、色々大変だな」

「気休めはいらねぇ」

「しかし、お主も苦労人じゃな」

「伏龍、貴様他人事と思いよってからに・・・・・・・・・」

 ケラケラ笑う伏龍に、青龍は嫉みの視線を送る。


 龍二は疲労タップリの声で二人に告げた。

「紅、伏、俺達すんげー疲れたから寝る」

「誰も入れさせるでないぞ・・・・・・・・・」

 あっと言う間に爆睡しち二人を見て、二龍は苦笑しながら毛布を掛けてやった。


 伏龍はオオクニヌシから貰った酒の入った徳利を傾け、猪口に注ぎ、それを紅龍に差し出す。

 紅龍は黙ってそれを受け取るとクイッと一息に呑んだ。


「こやつ、随分と主に似てきたとは思わんか?」

 酒を呑みながらくくくと押し笑う伏龍の眼は青龍を見据えていた。

「だな。あの堅物の青龍があぁも狼狽えるとは思わなんだからな。ま、その方が俺ら的にはオモロイが」

「見てて呆きぬからの」

「暫くこれを肴に楽しめるしな」

「ふふん。そうさな。まぁ主の願いであるし、しっかりと見張り番でもしてるかのぅ。

 にしても、可愛い寝顔の主じゃな」

 気持よさそうな寝顔を見ながら、二龍は談笑しながら見張り番をしっかりと務めた。

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