死にたがりだった僕と生きたがりだった君、そして......

無依

第1話


 春。この季節が近づくにつれて、過去にすがってしまう。来るたびも来るたびも君のことを思い出す。


 僕は何のために生きているんだろう。きっと何もない。彼女との約束だけがただ僕を縛り付けていた。彼女はいないはずなのに、見られているような気がして、そうであって欲しくて、僕は今も生きている。


 僕は結局、夢もやりたいことも見つからなくてアルバイトをする日々。毎日客に向かって愛想を振りまいて、一日中働いて、時間を対価にお金をもらう。そして、食をつないでく。生きるために生きている、そんなようだった。すべてが同じ毎日。休みの日には全部忘れてしまいたくて、一日の半分も寝ている。


 ねぇ、僕は大人になったよ。数ある社会の歯車の塵芥ちりあくたの1つとして。全部諦めて僕は大人になったよ。何にも疑問を抱かずに、今生きてるよ。何も考えてない大人になったよ。なりたいと思えなかった人達になることができたよ。

 ねえ、由依ゆい...君はどう思うかな?


虎太郎こたろう先輩、今日どこか食べに行かないすか?」


 仕事終わりに後輩が僕に話しかけてくる。なんで僕になんか話しかけるのか。何か理由があるのは確かだけど、きっと僕のことなんて見てないんだろうな。いつも今までも見てくれたのはたった1人...


「ごめん、今日は早く家に帰りたいんだ。昨日寝てなくてさ。」

「そっすか...。ははは、それはお疲れ様です。すみません突然」

「全然。また今度で良ければ誘ってよ、その時は奢るから。」


 家に帰ると静寂が僕を出迎えてくれた。

 ベッドとテーブル、数本のお茶とチョコブロックしか入ってない冷蔵庫、この家に生活間なんてなかった。家までもが、まるで自分のように空っぽだった。


 適当にチョコブロックとお茶を一緒に含み流し込んでいく。このところこんな食事ばっかりだ。生きていればいいかなって。案外生きていける。


 ベッドに潜り、視界も、音も、匂いも、光も全て遮断する。闇の一部になって溶けていくような錯覚さえ覚える。

 膝を抱えるての震えが止まらない。今日も僕は死ねない。彼女の約束なんて言い訳みたいなものだ。こんなに死にたいのに、死ぬのが怖い。自分は本当にどうしようもない人間だ。ただ生きていればいいものを。


 僕の人生振り返れば後悔と失敗ばかり。学校も、勉強も、受験も、部活も、友人や家族の人間関係も全部ダメだった。卒業してからは全部が空っぽ、何も無かった。ただスペースを押し続けているだけ。人生という本ががどんどん空白で埋められていく。


 価値?そんなものとうになくなった。君がいないんだから。それだけが存在理由で生きる価値だった。この世界はもう灰色に染ってしまった。


 明日は休みで、特別な日だ。このまま死んだように眠ってしまおう。


 明日は、



 ―――君の4回忌だ。

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