第2話 忘れじの坂

  息子が幼稚園の年少さんから、通っていた体操教室がある。結局、小学6年生まで通ったのだが、毎週木曜日、車で送って行って、帰りは、幼稚園の坂の下の駐車場に車を止めて歩いて迎えに行く。

 

 迎えに行くと、駐車場までの坂道を2人で歩く。


 「今日、晩御飯なに?」とか「オリオン座がきれいだね」とか、たわいもないことを話しながら、その坂を毎週息子と歩くのが、当たり前の日常だった。


 その時にはそれをただ何とも思わなかった。


 でも、離婚して、子供たちと離れ離れになって、初めて、私は、あの坂道が、自分と息子にとってかけがえのない時間だったと思い出し、胸があつくなった。


 あの時はこれからも、この生活が続くのだと当たり前に思っていた。それが、子供たちと暮らせなくなり、そんな、ちょっとした日常が、どんなに幸せなことだったかを思い知った。


 息子はもう忘れているかもしれない。


 でも、私にとっては、心の中のかけがえのない思い出なのだ。


 人生何が起こるかわからない。


 今を大切に、当たり前の日常こそ幸せなのだとかみしめて暮らさないといけない。


 そんな息子も、今は大学生で、独り暮らしをしている。


 私は、今でも、あの坂道を忘れない。あの幸せを忘れない。


 そして、今を大切に、生きていきたいと思っている。


 読んでいただきありがとうございました。

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