第6話 コミュニケーションは難しいね!

 チャイムがやけに耳にこびりつく。教授はまだ来ない。あの子は隣に座ってきた。なんだ、この子は...。目が合わせられない。なんで、隣に来た。なんで、家を知ってるんだ。...ウエニスンデルモノ?上の階に住んでる???????ストーカー...?なんで?なんで...?いや、そんな訳ない。ストーカーが発生する様な生き方はできない。じゃあ?????????


 「あの...昨日、公園にいましたよね...?」


 顔を見るのは苦手なので横目でちらりと見よう...うぅ。まず、公園にいってることをばれている事自体が恥ずかしいし、そして...そもそも、人と話すのがぼくは苦手なんだよぉ...。特に女の子と話すなんて無理、無理なんだよ。いや...違う。苦手とか、そういう問題じゃない。なにか、答えなきゃ...答えなきゃ...。


 「...へい」


 へいってなんだ!?僕は江戸っ子だった!?くそ...今日、とんでも無くコミュ障を爆発させてる。関東全域は巻き沿いにしてるぞ!なんでこうなるんだ!なんだ、この汗は...。察してくれよ!分かるだろ!これ以上、話しかけられても、多分まともな返事はできないぞ!!


 うぅ...もぅ、大学いけない...。


 「...原因は...隣の部屋の...その......音ですか...?」


 え?


 「音」というのは...あの破廉恥極まりないBGMの事か。それを知ってる...いや察しがつくか...?だが...そんなの察しようがあるか?同じような環境に置かれていないと分からないだろう。しかも、公園に一人で座ってる光景を見ただけだは只の気分転換か酔っ払いかぐらいにしか思わない。大したことは思わないだろう。普通。


 ...この子は......本当に上に住んでる。


 「え...えぇ..まぁ...そうです、そうですね」


 まともな返事だろうか。少しだけ、頭がまとまったぞ。ごちゃごちゃとしてた頭が。なんとなく、なんで話しかけてきたのか意味は分かった。そうか、あの声は上の階にも聞こえていたのか。床も薄い...?最悪な家だ。だけど、バイト代的にこれ以上の贅沢は望むべくも無いし。


 同じ境遇に置かれてるのか。


 「あれって....基本的に、夜じゃないですか......だから寝れないですよね...」


 「...だから、公園で寝てたんですね」


 教授が入ってくる。授業が始まる。幾何学の授業だ。文系なのに。こんなんやってなんになるんだ。ノートをとらなきゃ...ノートを開いて...シャーペンで...。くっそ...全然頭に入らない。そもそも、大学に入って以来、隣に人がいる状態で授業を受けるなんて初めてだし、ましてやその人が初対面でしかも異性...。しかも、話しかけてきた。なんだ...味わった事の無い...高揚感...?いや...違う、漠然とした不安感...?何に不安を覚えてるんだ!!?


 となりに人がいるから、いつもの日課もできない。今日は妄想すらもできないのか。なんなんだ。一体全体、何が目的だ...?こんなかわいい子が...ちょっと、本当に顔見れないけど...僕に話しかけてくるなんて...有り得ない!!だが、教授の話はよく分からないから、多分夢では無い!!現実だ!!上に住んでるからって普通、話したことも無い男に声をかけるか!?????


 意味が分からない............


 「その...せっかくなので...今日、この後...もしとか授業なかったら...あの...お邪魔してもいいですか...?私...その...あんまり友達いなくて...」


 奇遇だな。私もだ。家に人などあげたことない。最小限の施設で生きてるから、汚れてはないけど...。え!?え!?え!????家に来るの...????????なにすんの...!?なんで!!???異性の家に...初めて話た男の家に上がる!???普通に考えてやっぱりありえなくないか????????


 でも...でも...なんだこの子...。僕は...この子を知ってる...?この子の横顔...整っていて綺麗だが...だけど...それ以上に...なんだろう......記憶に刻まれた...あの日のあの子...とやけに被る。なんだ、最近なんでやたらとこれを思い出すんだ。


 今の今まで忘れていたのに。なんで今頃になって?


 ...


 「...はい...今日この後なにもないので、よければどうぞ」


 


 


 

 

 

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