第11話 暗殺任務

―― 11月30日A.M.09:12


九十九つくも教会には、大勢の教徒が集まっていた。

信徒達は、コソコソと私語こそ交わすものの、大きな声を出す者は一人もいなかった。


彼らにとって教会は、神聖な場であるということを思い知った。


ここで今から、私が暗殺を…?


うまく出来るだろうか…?

手のひらに汗をかく…。



そこに、4、5人の初老の男性に囲まれながら、見覚えのある女性が現れた。


間違い無い、彼女は標的。


カメリア教団

全世界東部管轄・枢機卿 エリカ


資料の写真通りだった。

歳は39、背は165cm、肉付きが良く、ダークブラウンの髪は腰あたり。

いかにも聖職者らしい穏和な顔。

決定的な、左頬にある特徴的なアザ。


誰よりも華美かびな法衣をまとったエリカは、お辞儀したり、談笑しながら教会内部へ進む。


エリカの周りには、常に初老の男性達が付き添っている。


私は息を殺し、クナイの柄を握ったり離したり…落ち着かなかった。


エリカは、教会のはしを更に奥へと進んだ。


私も闇にまぎれ、エリカを追う。


エリカが奥の祭壇さいだんで立ち止まる。

祭壇に、深く一礼。

振り返り信徒に、深く一礼。


その姿は、美しく優しい。

信徒は静まりかえり、一斉に一礼を返していた。


エリカは教会内部をしばらく見渡し、歩を進める。


"祭壇奉仕準備室"


彼女は、その扉を開け

付き添い達に頭を下げる。

そして、一人で部屋に入り

扉を閉めた。


ついに、来た。


私は、祭壇奉仕準備室の上部へと移動する。


心臓がトクントクンッと早くなる。

身体中、汗だらけになった。

息を潜め、クナイを握った。


あとはを待つ。



エリカは部屋に入ると、華美な法衣をハンガーに掛けた。

それから窓の鍵を開け、空気を入れ替える。


冷たい空気が一気に部屋に流れ込み

…部屋の様相ようそうが変わった。


エリカは、壁際の大きな机から椅子を引き腰を掛けた。

聖書らしき書物を開き、目を通す。



私は、エリカの背後に無音で降り立った。


そう、修行通りに。


クナイを握る右腕に力を込め、ひじ、手首をロックする。


そして


エリカの呼吸…息を吐いたタイミングで

一気に、振り抜いた。



クナイは、エリカの首を鮮やかに切断した。



まだ生き絶えたと認識していないであろう、宙に浮くエリカの頭を左手で掴み、バックステップする。


頭部を失った胴体は、忘れていたかのように血飛沫を上げた。



11月30日A.M.09:31

……任務、成功。



私は、血飛沫が収まった胴体に、エリカの頭部を返した。



っ!!……。


私の首元…頸動脈けいどうみゃく

クナイが当てられた。

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