クォンタムワールド

御巫歪

量子世界の冒険者

もう一つの世界

2060年初冬。

 人類は遂に発見した。

 同時空に平行して存在する量子的な世界を。

 まさに世紀の大発見。

 この話題は世界中を震撼させ、様々な分野の研究機関があらゆる可能性を求め研究に勤しんだ。

 中でもゲーム業界がその世界にいち早く目を付けた。

 彼らは量子世界が発見されてわずか三年の間に世界を拡張し全く新しい新感覚のゲームを開発した。

 その名は、〈QuantumWorldルビを入力…(クォンタムワールド)〉。

「量子的な世界」と名付けられたそのゲームは40年代に一世を風靡したフルダイブ型VRMMOとは異なり自分自身がその世界に行き体験するARゲームだった。

 ヘッドセットをかぶり五感を全て網羅するVRMMOとは違う。

 実際に身体ごとその世界へ行くのだ。

 まさにもう一つの現実を人類は手に入れたのだ。

 〈QuantumWorld〉の稼働に伴い開発メーカーは売りとなる大きな要素を二つ開示した。

 一つ、現実と変わらないリアリティ。

 身体ごと量子世界に行ける技術を開発した事により実際にその世界にダイブしてゲームを楽しめるのだ。

 痛覚も現実と何ら変わらなく存在する。ただし、ONOFFが可能なので安心してプレイできる。

 二つ、固定のダイブスポット。

 従来のゲームはメーカーが発売するハードを使いそこからソフトをダウンロードしてゲームをプレイするが〈QuantumWorld〉は固定のダイブスポットが用意されておりそこから量子の世界にアクセスするシステムとなっている。

 なので(スポット代を除く)無料でプレイ出来るのだ。

 この情報を目にしたユーザーは疑った。

 本当にそんな事が可能なのか、と。

 一般の人にとっては量子の世界と言われても曖昧なのに、どれだけの予算と技術をつぎ込めばそんな事が出来るのか、と。

 そして、誰もが夢ではないかと思い込んだ。

 リアリティがなさすぎる……。

 それもそのはずだ。〈QuantumWorld〉は稼働まで一切の情報を出さなかったのだ。

 なんの情報もないまま開発メーカーは稼働日当日に全世界のTVメディアやネットワークを通じて発表した。

 全世界同時中継というのはユーザーの度肝を抜いたが、しかし、内容があまりにも荒唐無稽でまるで夢物語の気分だったのが事実だ。

 そのためもともとゲームに触れない層を含めてほとんどの人が信じず嘘だと決めつけゲームをプレイすることはなかった。

 しかし、どんなに売れないゲームでもプレイするユーザーはいる。

「嘘だけど本当なら」「試してみる価値はある」「一応やってみるか」

 と大多数から外れたユーザーがスポットに赴きプレイした。

 するとどうだろう。

 彼らは〈QuantumWorld〉が現実にあると実感した。

 本当に身体ごとダイブしていると驚愕の声が溢れた。

 全てが真実だった。

 夢のゲームが現実となりゲームの常識が塗り替えられた瞬間だった。

 それから数日たつと、配信当日のプレイ組の口コミやライブ配信により各地のダイブスポットは人で溢れかえりプレイ待ちの人たちで満員となった。

 そんな〈QuantumWorld〉で世界が騒然とする中、開発メーカーから新たな発表があった。

 それは〈QuantumWorld〉だけ、他のゲームには全くないオリジナルのシステムについてだった。

 プレイヤー一人一人がもつユニークスキル。

 開発責任者を名乗る御嵩和彦はTVやネットの画面越しでこう言った。

「既にダイブされた方はお気づきかと思いますが〈QuantumWorld〉には他のゲームにはない要素があります」


「それはプレイヤー一人一人がオリジナルのユニークスキルを持つことが出来るという事です。私たちは量子世界を拡張し〈QuantumWorld〉の世界を作りましたがプレイヤーのスキルについては一切手を触れておりません。可能性は無限にあります」


「数千を超えるジョブに組み合わせ、スキル。それら全てがプレイヤーの心によって生み出されます。そして、プレイヤーの心理的状況、経験、人格に応じて成長したり退化したり自由です」


「可能性の数だけ一人一人がオリジナルの固有スキルとジョブを手に入れることが出来ます。色違いやパーツ違いではありません。完全オリジナルです。一人一人個性があるようにこの世界ではあなたたちの思いをスキルとして生み出します」


「それこそが〈QuantumWorld〉もう一つの現実世界なのです。私たちはあなた方の個性を待っています」


 その言葉がきっかけとなりARゲーム〈QuantumWorld〉が一大ムーブメントを巻き起こした。


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