空の贈り物

一田和樹

第1話 嫌な朝

 朝、起きた時、変な感じがした。いつもとなにかが違っていた。でも、部屋を見渡しても、とくにこれといって、変わった様子はない。

 時間は、いつもどおり、ぎりぎり大学に間に合う時間だ。あわてて顔を洗って、必要最小限のメイクをする。ママがゴハンどうするの? と声をかけてきた。あたしは、いらなーい、と叫んで、カバンを抱えて家を飛び出した。こういう時に限って、マンションのエレベータが来ない。ようやく来たエレベータの中で足踏みして、一階に着くのを待つ。着いた! 飛び出す。駅までダッシュだ。

 あれ? なにかがヘンだ。道になにかがたくさん落ちている。黒い物体。

 すぐに正体はわかった。

 真っ黒い羽とカラスの死体、そして飛び散った血だ。いったい、誰がこんなことをしたんだろう。一羽、二羽じゃない。おびただしい数のカラスが死んでいる。

 ふっ、と道路を大きな黒い影が横切った。自動車くらいの大きさだ。はっとして見上げたが、すでになにも見えなかった。どんよりとした曇り空が、ただ広がっている。さっきの影は、気のせいだろうか、それともカラスを襲った鳥がまだそのへんを飛んでいるんだろうか? でも、あんなに大きな鳥っているんだろうか?

 あたしは薄気味悪くなったけど、電車の時間がせまっていたので、カラスの死体をよけながら、駅へと急いだ。カラスの死体はマンションの前だけでなく、駅までずっと続いていた。時折、悲鳴が聞こえてきた。きっと、誰かがカラスの死体を見て、驚いたんだろう。

 駅に着くと、みんな異変に気づいているみたいで、そわそわしていた。カラスの死体の話をしている人もちらほらいた。巨大な鳥を見たと言う人が、いかにでかい鳥だったかを熱心に説明していた。あたしの見た影もその鳥のものだったのかも知れない。

「カラスの死体の除去のため、ダイヤが乱れております……」

 アナウンスが響いていた。


 大学につくと、キャンパスはがらんとしていた。すでに始業時間はすぎているのに、教室には誰もいない。あたしは驚いて他の教室も見てみたが、どこにも誰もいなかった。学生だけじゃない。教授や職員の人も見あたらなかった。ただごとじゃない、と思った。そしたら、なんだか身体から冷たい汗がじわっと噴き出して、膝から力が抜けた。携帯でネットニュースを見ようとしたけど、うまくつながらない。とにかく誰か探そう。

 あたしの大学は、高層ビルになっているので、あたしはエスカレータで昇ったり降りたりして誰かいないか探し回った。いいかげん疲れてきた頃、大学の職員の人が廊下を走っているのを見つけた。あたしは少しほっとした。その人は、すぐに学食に入りなさい、とあたしに言うと、そのまま走り去った。意味がわからない。しかたなく、あたしは大学の最上階、三十階にある学食にいった。

 学食は満員だった。みんなが経ったまま、テレビに釘付けになっている。臨時ニュースが流れている。アナウンサーが繰り返し、安全が確認できるまで、外に出ないよう注意を促していた。なにかが起きたらしい。それも交通事故なんてものじゃなく、とんでもないみたいだ。

「あのさ、サメが出たんだってさ」

 同じクラブの大木くんが、あたしを見つけてよってきた。あたしは思わず、はああ? と大きな声を出してしまった。だって、サメ? なんて言われても意味がわからない。ここは、海じゃない。

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