第11話 チート彼女の開拓無双

 食事を終え、食料班が森へ出かけると、伊舞は他のメンバーを引き連れて、拠点の水ポンプ付井戸に集めた。


 庭のポンプは錆びついて歪み、とてもではないが使える状態ではない。

 そのポンプに、伊舞が触れると光が奔った。

 伊舞はレバーを上下に動かしてから、上部のフタを開けた。


「よし、直った。恭平、中に水いれて」

「おう」


 俺の手の平をかざして中に水を入れている間に、彼女はみんなに解説する。


「ポンプは、中が水で満たされて真空状態にしないと作動しないの。まずはこうして呼び水を入れて、それからレバーを上下に動かすと」


 彼女がレバーを上下させるや否や、ポンプの口から、蛇口のように水が溢れ出した。

 女子たちの口から『へぇ』と感嘆の声が漏れた。


 俺は、自分の存在価値が半減したような気がして、複雑な気持ちだった。

 ――これで俺はいつ死んでも構わないいらない子かな?


 と、自虐的なことを考えてみるけど、水道はみんなには必要なことだよな、と納得する。


「再構築した家のポンプは、全部私が直すから、恭平がいないときに水が必要になったら、ポンプを使って」

「て言っても、入れ物をここまで持ってきて水を入れてから、重たい容器をまた運ぶのも面倒だしな。台所に水瓶置いといてくれたら、俺が毎日氷水をいれとくよ」


 納得はしつつ、少しでも自分の存在価値をアピールする俺。自分の器の小ささを自覚した。


「あ、それいいね。じゃあみんな、あとで水瓶、台所に持って帰って」


 伊舞がしゃがんで地面に手を着くと、地面から50リットルは入りそうな水瓶がいくつも生えてきた。口の部分が広くて、使いやすそうだ。


「これで、水問題は解決だね。じゃあ次、台所に来て」


【水】解決★




   ◆



 台所に行く前に、伊舞はまず、家の裏手にある、プロパンガスタンクに触れた。


「恭平、私に水かけて、10リットルぐらい」

「え? おう?」


 言われた通りにすると、伊舞は片手で水を受け止め、水が雲散霧消していく。


「今、水を水素と酸素に分解してから、水素を液体状に圧縮して、修理したタンクの中に詰めたから。じゃ、次は台所ね」


 昔の家特有の勝手口、いわゆる裏口から台所に入ると、伊舞はガスコンロの前に立った。

 ガスタンク同様、コンロも家と一緒に修復されているので、まるで新品のようだった。


「みんな、ちょっと離れてて」


 みんなを下がらせて、自分も頭を下げてから、伊舞はコンロのつまみを回した。


 カチン ボッ

 という音の後、青白い炎が灯った。


 みんな、ガスを使えるとは思っていなかったんだろう。軽くハシャいだ。


「え、ちょ、あたしの存在価値」


 乙姫だけは、複雑な顔をしていた。

 でも、伊舞は無視した。


「「うん、大丈夫みたい。ただ水素は金属脆化を起こすから、後でタンクの内側を他の素材でコーティングしないと。あと水素の火は温度が低いから、調理にはちょっと時間がかかるかな。ただ、水素は私がいないと使えないから、たまにはかまども使ってね。火起こしは木と木をこすり合わせるサバイバルのが有名だよね。私と乙姫がいなくなったら、念力や加速能力で木をこすればいいよ。運動エネルギー系の人が一人いれば、あとは根気でなんとかなるよ。ただし、乾いた木を使うこと。最初の種火はおがくずみたいに燃えやすい物を混ぜてやるのを忘れないで。これは日を改めて、実際にやって見せるよ」


 みんなの顔を見ながら、噛んで含めるように言い聞かせて、伊舞は腕を組んだ。


「これで火とかまどはOKかな。あとは、家は今日の寝る前と明日の朝に一軒ずつ直して五軒になったら、ちょっと手狭だけど10人ずつ住めるからOK。食料は茉莉と心愛の能力で魚を獲れるしこの島は山菜も豊富だから、とりあえず今はOK。塩は昨日作ったのが300キロ分あるし、今日も午後から取りに行くからOK。次は、海までの道を整備がてら、荷物を運んで貰おうかな」

 

【住居】解決★

【食料】解決★

【塩】解決★

【火】解決★

【かまど】解決★




   ◆



 次に俺らが連れて行かれたのは、昨日、海へ行くときに使った、獣道の入り口だった。

 いや、獣道というのもおこがましい。

 道というか、村はずれの森との境界だ。


 当たりは草がボーボーで、歩きにくいことこの上ない。


 こんなところで何をするのかと思えば、伊舞は手前の木に触れた。


 彼女の手から木全体に光が奔った。

 次の瞬間、木が溶けた。


 溶けた木は地面を伝い、次々箱に再構築されていく。


 女子でも楽に抱えられるくらいの大きさで、取っ手付きのボックスが、3個10列、計30個出来上がると、液状化した残りの木は、箱の中に注がれていく。


「まず、箸を200本ずつ」


 一列目のボックスが、木製の箸で満たされていく。


「それから、木製のスプーンとフォークを100本ずつ」


 二列目、三列目のボックスが、木製のスプーンとフォークで、みるみる溢れていく。


「あと、木製食器も、お皿やお椀と、コップを各種五50個ずつ」


 ――食器は昨夜、陶器製のを作っていたと思うけど、木製バージョンも作るんだな。


 これも、彼女の言う、自分がいなくなった時のためだろう。


 自分が動けるうちに、先々の分まで、あらゆる物資を作っておくつもりらしい。


「最後に、台所で使うまな板や菜箸、ヘラとかの調理器具を10ずつ、お風呂場で使う桶と洗面器は20個ずつ」


 残りのボックスも、次々木工製品でいっぱいになっていく。


 あと、それなりに大きな木の体積がみるみる小さくなっていく様は、なんだか面白かった。


 ちなみに、彼女が作るボックスは分解再構築しただけあって、継ぎ目も何もない、まるで木が最初から箱の形に成長したように、つるっとしたものだった。


 ――すでにこれが売り物として日本との貿易に使えそうだな。


 これに、伊舞の作る最高級天然塩を詰めたら……いや、木箱に梱包した塩なんて一般家庭じゃ使いにくいか。


 どちらにせよ、伊舞に頼り過ぎだよなぁ。


「じゃあみんなでこれをそれぞれの家に運んで。私は、拠点以外の二軒のポンプを直してタンクに水素を詰めて、あと、上下水度を完備して水洗トイレも欲しいよね」


 俺が反省するそばから、彼女は次の仕事に取り掛かろうとする。

 本当に、頭が上がらない。


「水素を作るから恭平、あと和香、ついてきて」

「え、わたし?」


 双子妹の和香は、不思議そうに首を傾げて、栗毛のワンサイドアップを揺らした。


「川の位置が知りたいの。川の水を村に引いて、トイレに繋げたいから。今日は朝に家一軒直したから、すぐには無理だけど、上下水道の工事計画だけでも練りたいから、和香のマップ能力が必要なの。お願いできる?」

「う、うん。わたしなんかで良かったら」


 いつも自信なさげな和香が、心底嬉しそうに声を弾ませて笑った。

 和香のハートは、伊舞の手によってガッチリ掴まれていた。


 ――能力以前に、伊舞自身がチートだよなぁ……。


 俺は、彼女の女傑ぶりに、ひたすら圧倒されるのだった。


 ――三郎、これはどのみち、サバイバルハーレムルートは不可能だぞ。だってこの物語の主人公は神原伊舞だもの。


 頭の中で、伊舞をセンターにしたラノベの表紙を想像した。


 背景に並んでいるのは、当然、彼女を慕う和香や茉莉、乙姫たちだ。


【食器】解決★

【調理器具】解決★

『上下水道】解決★

【トイレ】解決★


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 今回も、本作を読んでいただき誠にありがとうございます。

 みなさまの応援のおかげで、フォロワー数300、PV数8000、ハート数180、星80を達成しました。

 今後も本作のことをよろしくお願いします。

 また、本作とは別に【冒険者王】ハズレ王子はスキル開放スキルで成り上がる

 というものを投稿しています。

 本作の更新を待つ間の暇つぶしにどうぞ。

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