第14話 毒舌後輩のスカートの中

「それで、結局墨谷先輩とは何話したの?すっごく気になるんだけど」


 お互いに自分のカバンから弁当箱を取り出し、昼飯の準備をしてると、紫月しづき墨谷すみや先輩の事を話題に取り上げてきた。


 おそらく、中休みのことを気にしているのだろう。

 そう思った俺は

「あー……。文芸部のやつ、手伝わせろってさ」

 紫月のコスプレの件がバレてることを伏せながら、事実を伝えることにした。


 向こうとしても、特段学園全体にコスプレのことをバラすつもりは無いらしく、それなら紫月に伝える必要は無い、そう考えた。

 と言うよりも、墨谷先輩にバレてる事を本人に伝えたら絶対紫月は取り乱すだろうから、どっちにしろこの場では伝えられない。


 しかし紫月はなにか引っかかるところがあったのだろうか

「それだけ?」

 軽く追求してきた。

「そう、だけど……?」

「ふぅん」

 まさか追求されるとは思わず、俺は軽く動揺してしまい、当然それに紫月が気づかないはずもなかった。


 俺を疑うかのような、紫月のジト目が少し怖い。

「でもさ、桜夜おうや。他にも何か隠してるんじゃないの?」

「……何でそんなこと聞くんだ?」

「別に?ただの女の勘よ」

「なるほどな」

 女の勘恐るべし。

 センサー抜群じゃん。


 と、そんなことを考えていると

「それで?何かあるの?」

 尚も、疑い続ける紫月。

「……特に何もなかったよ」

 それでも俺は自分の意思を貫き通した。

 すると、彼女からの俺の疑いが晴れたのか、はたまた彼女の女の勘が働いたのか

「そ。まぁ、桜夜がそう言うならそれでいいけどね」

「お、おう?」

 大きく肩を落とすと、紫月はこれ以上の追求はしなくなった。

 あまりにもあっさりに引いたので、少し拍子抜けである。


 そんなこんながあったからか、少し気まずい空気が流れ始めた、その時だった。

「紫月先輩とついでに桜夜先輩、遅くなりました」


 ガラッと勢いよく教室のドアが開くと、俺と紫月の所在を確認したひなたちゃんが一目散にこちらの方にやってきた。

 すると

「いらっしゃい。待ってたよー、ひーちゃん」

 途端に笑顔になった紫月は陽ちゃんを受けいれられるように、大きく両腕を広げた。

 そんな紫月の様子に感極まった陽ちゃんは

「あぁ、朝に引き続き、今日も紫月先輩は美しいです!!!それにこんな私を快く受け入れてくれるなんて!!!これで死んでしまっても悔いは無いです」

 朝に引き続き絶好調なようだった。


 しかし、陽ちゃんの冗談とも本気とも判別のつかない言葉を、真面目に受け取った紫月は

「あ、あはははは、どういたしまして〜。でも死んじゃうのはやめてね?悲しいから」

 困った表情から本気で悲しい顔になったりと、さっきまでの明るい笑顔はどこいった状態になっていた。

「すいません、つい勢いで」

 流石に“ 死んでしまっても”と言ったことを後悔したのか、陽ちゃんは珍しくしょんぼりしていた。

 いや、ホント珍しい。


「ところで、俺はついでなのね」

「え?名前呼んであげただけでも感謝して欲しいんですけど」


 さっきまでの紫月への口調とは打って変わって、相変わらず俺には毒舌な陽ちゃん。

「うん。まぁ分かってた」

 さっきまでのしょんぼりしていた様子が俺と話す時になると、すっかり元通りになるのも分かっていた。


 ホント俺と紫月とで態度変えるよなぁこの子。

 そんなことを考えていると

「分かってるなら聞かないでください。私はもっと紫月先輩成分を摂取せっしゅしたいんですから!」

 大きな態度を体現するかのように、陽ちゃんは腕を組み始める。

 腕を組んだことで、ただでさえ大きい陽ちゃんの胸が更に強調された。


「あー、うん。ごめんね。紫月と話を続けてどうぞ」

 俺は彼女の強調された大きな胸を見ないようにしながら、紫月へと話題誘導することにした。


 当然、紫月ラブな陽ちゃんがこの誘導に乗らないはずもなく

「聞き分けのいい桜夜先輩は嫌いじゃないですよ」

 どうやら機嫌が戻ったようだった。

「そりゃどうも」

 陽ちゃんが単純でわかりやすくて助かった。



「てことで、紫月先輩は私とお話しましょ!」

 態度も体もコロッと反転させ、いつの間にかすっかり元気を取り戻した紫月に再び話しかける陽ちゃん。


「ひーちゃんはいつも元気よねぇ〜。いいわよ、何話す?さっきまで桜夜と文化祭の出し物について話してたんだけど、それでもいい?」

 紫月がそういうと、陽ちゃんは眉をひそめる。

「……文化祭の出し物?でも、紫月先輩は帰宅部ですよね?」

 この学園では珍しいことに文化祭でのクラス毎の出し物がないのだ。その為、帰宅部の人は基本的には文化祭の出し物に関わることなんて相当な物好きでない限りは無いのだ。


 そんな感じの疑問を陽ちゃんも持つだろうと、紫月も考えたのだろう。

「あぁ、それがね。桜夜に頼まれて、文芸部の手伝いすることになったのよ」

 質問される前に事情を話すことにしたようだ。


 すると、事情を聞いた陽ちゃんはプルプルと震え出した。

「それは本当ですか?紫月先輩が、文芸部に……?」

「え、ええ。文化祭までの予定だけどね」

 一応補足で紫月が付け加えた、その時だった。

「桜夜先輩!!!!」

「は、はい!?なんでしょうか!」

 陽ちゃんが突然俺の手を取り、ギュッと握り締め出した。

 よくよく顔を見ると、陽ちゃんの両目には涙が浮かび上がっていた。

 ただし、それは悲しみの涙ではなく

「先輩にしては超上出来です!!!ご褒美は何がいいですか??なんでも言ってください!!」

 紫月と一緒に部活が出来る、そんな嬉し涙のようだった。


 基本俺には毒舌しか吐かない彼女が、ご褒美とか言っちゃうあたり相当なものだろう。

 とは言え、陽ちゃんからの見返りを求めて紫月を文芸部に勧誘した訳ではなかったので

「いや、いいよ。そんなの。別に陽ちゃんの為とか、そんなつもりは無かったし」

 俺は陽ちゃんからの貴重なご褒美を遠慮した。

 すると、俺がご褒美を拒否するのがわかっていたのか

「そうですか」

 あっさりと引き下がる陽ちゃん。


「ふぅ……」

 俺は思わずため息をつく。

 正直、いくら毒舌を吐いてくる生意気な後輩とは言え、魅惑みわく的な胸を持ち、しかも紫月とも引けを取らないくらいの美少女に“ ご褒美”と言われ、それを我慢し続けるのはとても大変だった。

 陽ちゃんの本心じゃなかったとしても、気軽に“ ご褒美”などと言って欲しくないものである。童貞は想像力旺盛なのだから。



 と、陽ちゃんが引いたことで俺は少し気を緩めていた。

 だからこそ、彼女の不意打ちに思わず釘付けになってしまったのだろう。

「でも、桜夜先輩に借りを作るのはちょっと癪なので、これくらいはサービスしてあげます」

 そう言うと、陽ちゃんはスカートのすそを、俺に見せつけるようにゆーっくりとまくり始めた。

「サービスって……、ちょっ!陽ちゃん!?みんなにバレるから!」

 俺は慌てて陽ちゃんを止めようとする。が、あまりにも不意打ちで体が上手く動かなかった。

 それに気づいた陽ちゃんは、愉悦ゆえつに浸ったような表情で俺を上から眺める。

「大丈夫ですよ。バレないように角度調整してますから。……先輩こう言うの好きですよね?」

「うっ、いや、あのな……?」

 ジリジリと捲られていく陽ちゃんのスカート。そして自然となのか不思議となのか、俺は否定しつつもついついそっちの方に意識を向けてしまう。


 気づけば、スカートの状態はあと少しで下着が見えるか見えないかという程に捲られていた。

 それでも陽ちゃんは止まらない。

「普段からそういう雑誌読んでるの、知ってるんですよ。先輩は隠してるつもりみたいですが」

 そう言いながら、ずいっと一歩近づく陽ちゃん。

 思わず俺は顔を逸らす。が、やはり意識はスカートからは離れなかった。

 意識しないようにすればするほど、逆に意識してしまっていた。

「いや、さ。男なら仕方ないじゃん?でも、そろそろ隠して欲しいんだけど。その……っ!!」

 そしてついには、スカートの中身がチラリと見えてしまうのだった。


 黒いレースの、大人びた下着が……。


 すると、陽ちゃんは俺の視線に気づいたのか、気づいていないのか

「パンツをですか?もういいんですか?もっと見なくても」

 あえて、俺が下着を見た前提で話を進める。


 もちろん、ここは否定するべきところだ。普通ならそうする。

 そう、普通なら。


 しかし、思考をすっかり乱されてしまっている俺は

「もう十分だから!充分見たから!」

 誤魔化すことなく、ただただ陽ちゃんに餌を与えるという形になってしまった。


 すると、さっきまで大人しくしていた紫月がようやく声を出した。

「へぇ、充分見たんだ。……ねぇ桜夜」

 ものすごく低音で、そして迫力のある声で。

「あ……。紫月……」

 しまったと思った時には、時すでに遅く

「あっちで、お話しようか?」

 紫月がニコニコしながらも明らかに怒っていことが分かった。

「……ういっす」

 紫月の恐ろしさをよく知っている俺は、特に抵抗することなく、大人しく返事をする。するしか、出来なかった。


 そして俺が抵抗しないことを確認すると今度は陽ちゃんにも話しかける紫月。

「ひーちゃん、ゴメンね。お話の途中だけど、ちょっと桜夜借りるね」

「あっ、はい。どうぞ、お気をつけて……?」

 普段とは違う、怒りだだ漏れな紫月に陽ちゃんは思わずたじろぐ。

「それとね、あんまり無闇に下着見せつけない方がいいわよ。特に桜夜は、ほら、変人だから何するか分からないじゃない?」

 紫月はそう言って、更に注意を重ねる。


 俺が変人であることは変わりない為、特に否定できなかった。……いや、否定させてもらえる余地なんて今の俺には無いのだが。

 だから

「あっ、そう、ですね。色々と気をつけます!」

 せめて陽ちゃんには否定してもらいたかったが、期待するだけ無駄だった。


 いや、陽ちゃんが俺を庇うなんてことは無いか……。


 そんな感じで、紫月と陽ちゃんの会話に一喜一憂なら一憂一憂していると

「分かればいいのよ〜。……それじゃあ桜夜はちょっとこっち来なさい」

 紫月が俺の腕をしっかりと掴んだ。彼女が握る力がとても強かった為、どれだけ怒っているのかが、分かった。


「……ういっす」


 そして俺は、紫月に連れられこってり絞られることになるのだった。



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