第11話 這いよらないで墨谷さん!

「ところで話変わるんだけどさ、今年の文芸部は出し物なにかやるの?去年の短編集?みたいなやつはやらないの?」

 クラスの誰かがそんな話をしていたのだろうか、帰宅部である紫月しづきが突然文化祭の話題を取り出してきた。

 タイミングがいいのか、悪いのか

「あー、それがだな……」

 俺はさっき、ひなたちゃんと話した文化祭についての内容を紫月に説明することにした。



 そして、俺が一通り説明を終えると

「人数不足ねぇ……」

 なるほど、といった様子で顎に右手を添え、うんうんと頷く紫月。

「まぁ去年の文芸部は俺以外全員3年生だけだったから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ」

 補足で今年の文芸部は俺と陽ちゃんだけしか居ない、ということも伝える。



「それで、どうするつもり?部員募集でもするの?」

 と、紫月は解決案を出してくれたが6月である今からでは現状で入ってくれる人は正直ほぼ居ないだろう。


 そう、ほぼである。

 可能性が無いわけでは無いのだ。


「それなんだけどさぁ、紫月」

 俺は紫月の華奢な肩にポンっと手を置く。

「うん……?」

 紫月は嫌な予感がしたのだろうか、少し顔をひくつかせる。


 それなりの付き合いだからか何となく察せられてしまったのだろうか。それとも話の流れから分かりやすかったのだろうか。


 けれど、どっちにしろ俺が言う言葉は変わらない。

「短編集、参加してみる気は無いか?」

 俺は普段とは真逆の、爽やか笑顔で紫月を誘ってみた。

 すると紫月は

「無理無理!なんでよりによって私なのよ!」

 やっぱりね!と言いたげな表情で俺を見る。


 そんなに露骨に嫌がらなくてもいいじゃん……。


「だってさぁ、いまから部員探すのダルいし……」

「それはまぁ、分からなくもないけど。それにしたってもっといい人選があったでしょ……」

「気心知れてる人の方がやりやすいじゃん?」

「それはそうだけど、それ文芸部じゃなくても良くない?」

 どうあっても紫月はやりたくないようで、逃げ道を探そうとする。


 だったら、逃げ道をなくしてやればいい、そう考えることにした。

 そして考えた結果

「それに、紫月が参加するって聞いたら陽ちゃんが大喜びするだろうなぁって」

 陽ちゃんを引き合いに出すことにした。


 と言っても、あながち陽ちゃんの反応は嘘とは言いきれず、それを身を持って知っている紫月は戸惑ってた。


 しばらくは沈黙が続いた。

 紫月はやるからやないかを必死に考え、俺はその答えを待った。

 お互いに無言だった為か、時間の流れがゆっくりに感じられた。


 すると、決意が固まったのか、紫月は大きく息を吸い、そして答えを出した。

「はぁ……。分かったわよ、やればいいんでしょ?」

「紫月なら乗ってくれるって信じてた!」

 俺は興奮のあまり思わず、紫月の両手を掴み、ギュッと握りしめた。


 俺たちの様子を遠目から見ていたクラスメイトがザワついていたようだが、その時の俺は気にすることは無かった。


 なんだかんだで俺は文芸部の活動を楽しんでたんだな、と実感させられた。

「でもさ、私だけでどうにかなるの?」

 やると決めてから迷いが見られなくなった紫月は、俺の手を解くと、そんな質問をしてきた。

「そこなんだよなぁ……。紫月は文字で何かを表現することに関しては素人だもんなぁ……」

 当然といえば当然の質問だろう。

 定期的に文学作品やライトノベルなど、授業以外でも文字表現に触れている俺や陽ちゃんのような文芸部員とは違い紫月は文字表現に触れる機会は授業の時しかないのだから。


 けれど、紫月がなんの表現知識を持っていないかと言われれば、答えは“ ノー”である。


 とは言え

「あと数人は張り紙か何かで募集するかなぁ……」

 紫月1人加わっても、去年とは程遠いほどの戦力差。正直あと2、3人は人手が欲しいところだった。




 そんな時である。

「その話、もう少し詳しく聞かせてもらってもいいかしら?ねぇ、桃乃もものくん。……ふふふふふふ」

 後ろからとある女子生徒が俺の後ろに這い寄って来ていた。

「……いつからいました?墨谷すみや先輩」

 あまりにも突然目の前に現れ、俺は驚きを通り越して冷静になっていた。

 突然教室に現れた墨谷先輩は、自身のカールの掛かった長い黒髪をクルクルと指先で遊びながら、俺の質問に答えるべく、口を開いた。

「あなたと文芸部の1年生の女の子とで階段裏でヒソヒソとしてた時から、かな〜♡」

「あれ見られてたのかよ……」

 人気のない場所だからと、油断していたのかもしれないと、一瞬思ったが、いつどこで何をしているか分からない墨谷先輩を警戒しろなんて言うのは無茶な話だ。


 つまりは仕方ないのだ。うん、墨谷先輩に興味を持たれた時点でもう、抵抗のしようがないのだ。


 俺は自分にそう言い聞かせることにした。そうでなければ正直、気が滅入ってしまう。


 と、俺が色々と考えている中、話を横で聞いていた紫月はと言うと

「ふぅーん?文芸部ってことは、陽ちゃんだよね?ふぅーーーん?」

 突然、機嫌が悪くなったのであった。


「いやあの、紫月……?なんか怒ってる?」

 紫月の機嫌が悪くなった原因が分からない俺は、恐る恐る彼女の顔を覗き込む。

 すると

「えっ?怒ってませんけどぉ?それよりも墨谷先輩の方に気を向けたらどうなの?」

 と、墨谷先輩の方を指さすと、そっぽを向いてしまった。


 いや、あの、紫月さん絶対に怒ってますよね?笑顔だったけど、絶対怒ってますよね!?


 紫月が突然不機嫌になったことに俺が困惑していると

「そうそう〜♪私に気を向けてくれないとぉ……あなたとそこの碧海さんとの秘密バラしちゃうわよ?」

 そこに付け入るかのように、墨谷先輩が追い打ちをかけてきた。


「あの、それは勘弁を……!」

 何故墨谷先輩が俺と紫月の秘密を知ってるのか、という疑問は浮かんだが、そんなことはどうでもよかった。

 バラされてしまえば、元も子もないのだから。

 それをよく分かっているのか、

「じゃあ、話聞いてくれるわよね〜?」

 墨谷先輩は余裕の態度だった。


 対して俺には、余裕なんて無かった。

「……聞きます。聞きますから、ちょっとあっちの方に……!」

 よりにもよって、学園随一の危険人物・墨谷 優那ゆな先輩に秘密を知られてしまったのだから。


 紫月と蜜、そして俺だけの秘密を。


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