第6話 お兄ちゃんだって彼女が欲しい!

 俺は今、B棟校舎2階にいる。

 なんで俺がA棟校舎3階の2年生フロアにいなくて、1年生フロアにいるのかと言うと

みつよ。お兄ちゃんに彼女ができるかもしれません」

「そう、おめでとう。わざわざ遠いところまでご苦労さま。それじゃあおつかれさまでしたー」

 妹である蜜に一言報告しようと思ったからであった。


 さかのぼること2時間前。




「昨日のこと……昨日のこと……。ダメだ思い出せん……」

 俺は一限目の現国の授業そっちのけで、ひたすら紫月しづきのことを考えてブツブツと呟いていた。


『 放課後、絶対に時間空けといてよね!その時に昨日の返事もついでに聞かせてもらうから!』

 授業直前に紫月から放たれた二言に俺は頭を悩ませていた。

 その当の本人の紫月はと言うと、何食わぬ顔ですぐ隣で授業を真面目に受けていた。

 授業中の紫月は短く水色の髪を耳にかける為、普段とはこれまた違った様子の彼女にドキッとする。

 普段は元気でおっちょこちょいなのに、こういう時の真面目な顔になる紫月に、俺は毎回ドキドキさせられる。いわゆるギャップ萌えというやつだろう。


「あれ?ちょっと待てよ?」

 紫月に見つからないようにこっそり眺めているとふと、俺はあることに気がつく。

「放課後の“ いいこと”の時に聞くって事は……つまりはそういう事だよな……?」

 彼女の言う“いいこと ”が何なのかはまだ分かっていないが、きっと俺が喜ぶことなのだろう。その時に、昨日の返事を聞くと言うのだ。

 これで期待しない男はいるのだろうか。いやいない!



「あぁ……なんで昨日の紫月のこと覚えてないんだよ……」

 当然といえば当然だろう。

 昨日は告白されてから、ずーーーーっと謎の黒髪ストレートの美少女のことを考えていたのだから。


 とは言え、紫月のことをなんとも思っていないかと言われたら答えはNOである。でなければこんなに悩んでいない。


 が、しかし。しかしである。

 どのクラスの誰なのかも分からない謎の美少女と、気の知れた、それでいて学園の女神様な碧海あおみ 紫月のどちらを選ぶかと言われたら答えは一択であった。


「これでとうとう……彼女持ちかぁ……」

 別に昨日、紫月から言われていたことを思い出した訳では無い。

 それでもどうして“ 彼女”なんて発想が出たのかと言われれば、恐らく俺はこう答える。


『 男は単純なんだよ!!』

 と。

 この思考を大多数の女子が知ったらきっとこんな反応するだろう。

『 だからお前は童貞なんだよ』

 と。


 一時でも幸せがあるなら俺は童貞でも構わないと思ってる俺からしたら屁でも反応である。もちろん推定だからなんとも言えないが。




 と、こんな調子で二限目の数学の時間もブツブツと紫月のことを考えていた時だった。


「……蜜に報告せねば」

 何かが舞い降りてきた瞬間である。

 なるほどこれが虫の知らせと言ったやつなのだろう。詳しくは知らないけど。


 そしてその舞い降りてきた時の勢いそのままに、授業が終わると同時に妹の蜜が居る一年フロアへと向かったのであった。


 そして現在、先程のやり取りに戻るのであった。


「というか、何その報告意味分かんない。その報告する為に息切らしてこっちまで来たの?馬鹿なの?」

 大きくため息をつく蜜。

 桃色の可愛くて短い髪と、高校生とは思えないくらいの華奢な体つき、そしてそれに見合うようなつつましやかな胸。それとは正反対に態度は大きいのが、俺の妹の蜜である。

「お兄ちゃんに向かってなんだその言い方は」

 俺は決まり文句のようにこうやって態度を改めさせようとするが

「はいはい、お兄ちゃんお疲れ様。わざわざどうでもいい報告の為にこんな所まで来ちゃったんだね」

 一向に改める気配がない。

 これはこれで一定の需要はありそうだが、残念なことに他の人にはきちんと礼節をわきまえているのだそう。


 いや、むしろ、身内だからこそありのままの姿で接しているのだろうか。そう考えると、兄冥利あにみょうりに尽きるとも、言えなくもない。

 とは言え

「おい、やめろ。なんで可哀想な人を見る目で俺を見るんだよ。俺は蜜のお兄ちゃんだぞ?もっといたわってくれたっていいだろ!?」

 やっぱり俺にだってそれなりのプライドはある。

 今朝だって蜜にフィギュアのパンツを覗こうとしてるところを見られた俺だが、それでも男としてのプライドはあるのだ。

 兄としての威厳はないだろうけれど。


「え?だってエア彼女ができるかもって言う報告でしょ?もしかして哀れんで欲しいの?そういうのは私よりも、ひーちゃんの方が向いてると思うけど。なんなら呼んでこようか?」

 どうやら、蜜は俺には彼女なんて到底できないだろうと思ってるみたいだった。

 それどころか、可哀想な人を見る目で俺を見ないでくれ。ものすごく惨めに感じちゃうから!


「エア彼女じゃないし哀れんで欲しいわけじゃないから。てかひなたちゃんは呼ばないでくれ、絶対めんどくさい事になるから」

 俺は惨めさを振り払うかのようにエア彼女を否定したついでにひなたちゃんを呼ぶことを止めたのだが……。

「どうしてめんどくさい事になるんですか?」

 時すでに遅しとはこの事だ。

 俺の背後には金髪ツインテールのロリ巨乳の後輩が立っていたのだから。

「……なんで呼んでないのに来ちゃったのさ、ひなたちゃん」

「そりゃ私の名前が聞こえたら来ないわけないじゃないですか」

「だよねぇ……」

 口は災いの元とはよく言ったものである。俺が名前を呼ばなかったらもしかしたら来てなかったのかも……。


 そんなことを考えていると

「それで?桜夜おうや先輩は何でここにいるの?」

 蜜にことの経緯の説明を求める陽ちゃん。

 が、しかし質問の相手が悪かった。

「さぁ、私にもてっきり。彼女ができるかもしれないって訳の分からないことを言ってるの……」

「えっ……。先輩ってばとうとうそこまで頭を……」

 もはや悪意しか感じられなかった。

「正常だから。俺の頭は正常!蜜もややこしい事になるようなこと言わないでくれよ!」

 何かと俺には大きい態度の蜜と、俺にだけ毒を吐く陽ちゃん。

 2つのの悪意が俺を襲う。



「とりあえず、詳しく教えてくれますよね?ねぇ、桜夜先輩?」

 ずいっと、大きな胸を俺の腕に押し付けながら詰め寄る陽ちゃん。

 これ本当に高一か、と思うほどの大きく柔らかい感触を感じながらも、俺は陽ちゃんの顔を見ると目がガチだった。



“ やばい、なんか嫌な予感がする”。

 俺は唐突な悪寒に襲われた。




 図らずしも、その悪寒は当たってしまうのであった。


「もしかして、先輩が言ってる彼女って紫月先輩とかじゃないですよね?」

 どうやら陽ちゃんの自称“ 女神・紫月様親衛隊一番隊隊長”の名は伊達だてじゃないようだ。



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