第三章その4


 結果は彩の勝利だった。おい卓也君、ゲーム下手じゃなかったのか?


「やったぁ勝っちゃった!」

「負けて悔いはないわ……彩と全力で勝負できて楽しかったわ」

 舞はまるで全てを悟ったような表情になり、決勝戦で太一と対決機体は予選と同じくF-15ACTIVEで太一もF-22Aを選んだ。

「それじゃあ翔、覚悟はいい?」

「ああ、もちろんだ」

 翔もエースコンバットシリーズをプレイして鍛えてるが対戦の経験はゼロだ。


 結果は太一の優勝だった。


 そしてとんでもないことを言い始めた。

「それじゃあ……せっかくだから全員に罰ゲームね!!」

「っちょっ! 太一、聞いてないぞ!! 最下位じゃないのか!?」

 翔は抗議すると太一はとぼけた口調で言う。

「確かに最下位の人は罰ゲームと言ってたけど、同時に僕は全員に罰ゲームをするというルールが存在することを認識している」

「太一……二重思考ダブルシンクだな!」

「バレた?」

「バレバレだ! しかもサマになってるかも怪しいし!」

「まあ冗談は置いといて……罰ゲームは中沢、最後まで付き合ってもらうよ」

 太一はどす黒い微笑みで見つめると、舞は涙目になりながらヤケクソに振る舞う。

「わかってるわよ! 最後まで見届ければいいんでしょっ!?」

「ふふふふ……よしそれじゃあ神代さん、休憩してからまたプレイしよう」

 太一がそう言うと再びソフトを交換してバイオハザード第一作を彩がコントローラーを握ってプレイする。


 それから三連休は彩のバイオハザードのクリアと太一が持ってきた人生ゲームで遊んだり、彩の父親が持ってる映画のDVDで往年の名作映画をみんなで見たりしていた。


 そして五月五日月曜日の三連休最終日、彩は腕を上げて何回も緑の怪物ハンターに首を刎ねられてゲームオーバーになりながら、ようやくグッドエンディングを迎えてクリアした。

「やっと終わった……もうビビるのを通り越して慣れたわ」

 舞はもう怯えるのを通り越して無表情になっていたが、彩はやり遂げたことを素直に喜んでいた。

「やったぁっ!! やったよ真島君! クリアしたよ!」

「うん、神代さん見違えるほど上手くなった」

 隣でサポートしてた翔もようやくホッと胸を撫で下ろすと同時に、楽しかった時間が終わってしまうことの寂しさを感じながら、思わず右手を挙げて彩とハイタッチする。

 エンディングテーマが流れると、卓也と肩を組んだ太一と肩を組まれる。

「よし仕上げだ、歌うぞ!」

 エンディングテーマはホラーゲームとしては完全にミスマッチな曲で、明るく前向きで爽やかな歌だが、それが恐怖を克服し、クリアした達成感を高めてくれるものだった。

 卓也、太一、翔は三人で肩を組んで音程外し、まるで合唱になってない下手くそな歌を歌って三連休を締め括り、時計を見るともう帰る時間だった。

 荷物を纏めて、玄関に来るとすっかり仲良くなった卓也はお礼を言う。

「三日間姉ちゃんのこと良くしてくれて、ありがとうございました!」

「どういたしまして、僕も楽しかったよ卓也君。またポケモンで対戦しよう」

 一番仲良くなった太一は卓也の肩をポンポンと叩く、舞は名残惜しそうな表情だ。

「彩……また明日学校でね」

「うん、舞ちゃんまた明日。真島君も柴谷君も気をつけてね」

 彩も満足げな笑みで言うと翔はそういえばメルアド交換してないと思ったが、太一も同じこと考えてたのか携帯電話を出した。

「そうだ、メルアド交換してなかったね。神代さん、卓也君、交換しない?」

 太一のさりげなく言える度胸が羨ましい、卓也は迷う様子もなく肯いた。

「あっ、いいですね! 交換しましょう!」

「あたし持ってくるね」

 彩はマイペースで一度部屋に行く、そういえば三日間彩の部屋に行ってなかったなと翔は気付きながら卓也とアドレス交換する。神代さんの部屋、見てみたかったなと思いながら携帯電話を出すと舞は翔をジロッと見つめながら言う。

「まさか真島君、彩の部屋に入りたかったとか思ってないよね?」

「どうしてわかるんだ?」

「勘で言い当てたのよ、いやらしいこと考えてるでしょ?」

「そこまで考えてない!」

 翔は真っ向から否定すると、彩が戻ってきた。

「みんなお待たせ」

 彩は右足に負担をかけないように早歩きで戻ってくると、アドレス交換して電話番号もおまけでついてくると翔は心が躍り、彩は番号を教えた理由を告げた。

「一応もしもの時のために番号も教えておいた方がいいかな?」

「うん、迅速な連絡が必要な時に一応交換はしておいた方がいいから」

 翔は頬をほのかに赤らめ、口元を緩めて肯く。なんだろう? 高校入学してから二人の可愛い女の子とアドレス交換しちゃった……なんか充実した三年間が送れそうだと期待を胸に秘めた。


※二〇〇三年当時、リア充という言葉はなかったがこの時の僕はリア充の類になれるかもと胸を躍らせていた。


 そして案の定というか、彩の家を後にすると舞に鋭く指摘される。

「真島君、なんか表情が急に明るくなったわね。彩に気があるの?」

「まぁまぁ思春期の男子は神代さんのような可愛い女の子に弱いのさ」

 太一がフォローするが翔は何も言えなかった。

 家に帰ると翔は早速彩にメールを送りたいと思ったが、同時にいきなり送っていいのかと思いながら葛藤するうちに寝る時間になってしまった。

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