第1章「城塞都市」5


 レイルは門の周りを警護する兵士達を、物陰から観察していた。

 二人一組で警護しており、いかにも中央塔に続く地下道の入り口らしい警備体制だ。事前の調査では、警備員の交代の時間にはまだまだ時間がある。交代の時間に合わせたかったが、どうやら防衛システムを“バグらせた”のがだいぶ問題だったようで、戦闘は避けられそうになかった。

『作戦開始だ』

 クリスのよく通る低い声を合図に、レイルは物陰から優雅に飛び出した。一般人を装いながら、レイルはにこやかな笑顔で二人に近付く。

「君、どうしたんだい?」

 見張りの一人が気付いて笑顔を向ける。この国では珍しい燃えるような赤髪の美女に、兵士は完全に油断していた。

 レイルは素早く肩に掛けていた鞄から双振りの剣を取り出した。その瞬間、遠くで爆発音が響く。

 手前の兵士の目が見開かれるのと、その首から鮮血が飛び散るのは同時だった。レイルは残った一人にも飛び掛かり、その喉元に左の剣を深々と突き刺す。ものの三秒で二人の息の根を止めた。

 べったりと返り血を浴びたジャケットを軽く着直し、偽装用の鞄はその場に捨てる。

「こちらレイル。これより突入する」

『了解。ロック、そっちはどうだ?』

『正面ゲートを破壊した。しばらくはここから狙撃する』

『よし。俺とルークで派手に暴れる。各自アドリブで対応しながら合流ポイントを目指せ』

『リーダー、監視カメラは狙撃しなくて良いのか?』

『何の為の情報迷彩のジャケット着込んでると思ってるんだ? 問題ない』

「ういっす。了解。こっちもちょっとは暴れるぜ」

 通信が終わり光を無くしたピアスが、深紅のウェーブに掻き消される。

 シルバーの装飾用チェーンを鳴らしながら、レイルは走り出した。警備軍でも採用されている女性用の強化ブーツ。レイルの履いているブーツは、それのオリジナルデザインだ。








「……二十一……二十二……お、そろそろ終わりか。案外少なかったな」

 遠距離射撃用のスコープから目を離し、ロックは呟いた。

 軌道修正用カスタムのついた大型ライフルで狙撃をしているロックは、今回の任務では味方の侵入を援護する役目だ。

 今は正面ゲートをレーザーキャノン――ロック特製の魔力の詰まったバレッドを使用する、装填から充填までかなりの時間がかかる火力に特化した大型銃器だ――で吹き飛ばし、釣られて出て来た敵の頭をライフルで撃ち抜く仕事が一段落したところだ。ちなみにライフルとレーザーキャノンは一体化しており、すぐさま機能を切り替えることが出来る。

 敵からの反撃もあったが、監視システム同様“目視に頼らない”スコープのせいで、情報迷彩の掛かったロックの正確な位置が掴めないようだ。おまけに、敵の弾がロックに当たることはない。ロックの近くに迫る弾丸は、地面に吸い込まれるようにして落ちてしまうのだ。

 正面ゲートとそこを狙撃しているロックの距離が近いはずがない。

 ロックは中央塔から距離も高さも離れた、給水塔の上に陣取っていた。出て来る人間の他にも、集まってきた機械達も撃ち抜いている。強固な装甲を貫通する威力と、敵の攻撃を寄せつけない能力を、ロックは持っている。

「S21L2R0」

 ロックは小さく呟き、正面ゲートに向かって飛び降りる。

 その瞬間、ロックの周りに展開していた薄紫色の液状の空間が掻き消え、着地する地面に現れた。ふわりとロックの落下スピードが弱まり、危なげなく地面に着地する。

 ロックは狭い範囲に限るが、重力場を操ることが出来る。弾丸の場合は自分とは逆の方向で重力を操ることにより、自分が撃った弾丸は威力を増し、相手が撃った弾丸は防ぐことが出来る。ただし重力場の展開は、長時間の連続使用が出来ない。

 大型銃器を背中に回し、ロックは長剣を構える。レーザーキャノンのグリップから本体を支える部分を取り出した物だ。銃自体に剣を仕込むことで、ロックは遠近両方の戦いを行うことが出来る。

 正面ゲートに走りつつ、物陰から飛び出して来た敵を返り討ちにしていく。

 前を開けたジャケットから派手な柄の赤いシャツが覗く。ロックは整髪料で整えられた髪型を直しながら、「うはー、女全然いねぇじゃねえか」と盛大に悪態をついた。










『うはー、女全然いねぇじゃねえか』

 ロックの気の抜けたような声を聞き流し、ルークは最終確認に入った。

 時間差で施設のあちこちで爆発を起こすというリーダーの作戦は、敵の慌てようを見ればかなり有効だったことがわかる。

『ルーク無視かよー。男の園だからって興奮すんなよホモ野郎』

「お前こそ穴があればどっちでも大丈夫だろうが?」

 とりあえずそう返してやりながら、最終確認――爆弾のセットを終了し、ルークは何事も無かったかのように武器庫から走り去る。遠くで右往左往する兵士達にはまだ発見されていない。

 この辺りはバッチリ爆風に飲み込まれる。ロック手製の爆弾の威力は、ルークも尊敬する程だ。遠くでも爆発音が響いた。おそらくリーダーがどこかぶっ壊したのだろう。

 ルークも目的地を目指して急ぐことにする。

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