第3話 サムジャになって初仕事

「到着したよーここがミツの森さー」

「そうなのか。受付嬢は徒歩で1時間ぐらいと言っていたけど思ったよりも遠いんだな」


 ここに来るまで三時間は掛かっている。


「はっはーそれはね。僕たちみたいにある程度慣れた冒険者なら一時間って意味だよー」

「君はまだ初心者だしね」

「私達だけなら確かにそれぐらいだったかもね」


 そうだったのか。つまり三人は俺の動きに合わせてくれたってことなんだな。ありがたいことだ。


 俺は普通よりは鍛えているつもりだったが。やはりまだまだだな。熟練した冒険者にはとてもかなわない。


「それじゃあねー僕たちは自分たちの仕事に向かうけど頑張ってねー」

「あぁ、助かったよ。ありがとうな」」


 そして案内してくれたパーティーの皆と別れた。まだ初心者の俺に親切にしてくれるなんて、いい人もいたものだな。

 

 さて、それじゃあ薬草採取を頑張るとするかな。






◇◆◇


「あははは、あいつすっかり信じてやがるよー」

「もう、でも悪い人ね」

「ミツの森に連れて行く振りしてより危険なヒデの森に連れてくるなんてね」

「そんなの騙される方が悪いのさー。大体サムジャなんて使えない天職持ち、僕たちが何もしなくても勝手にくたばってただろうしねーゴミ掃除はお早めにってことさー」

「出た出た、カイルの嫌がらせ」

「それで何人の新人冒険者が潰されたことか」

「人聞きの悪いこと言わないで欲しいなー僕はある意味ギルドの為を思ってやってるんだよー使えないゴミみたいな冒険者が増えないようにねー」

「ふふ、いい性格してるわ」

「ま、いいわ。こっちはこっちでさっさと目的を果たしましょう」


 そして三人の冒険者はシノを案内した森から離れていくのだった――






◇◆◇


 森は木々も多くて鬱蒼としていた。ふむ、何かざわざわする感じもするな。


 とは言え、これをこなさないと冒険者として認めてもらうことは出来ない。とにかくセレナ草を探そう。セレナ草はわりと一般的な薬草だ。基本的に見つけるのは容易い。ただよく似た毒のあるニセセレナ草があるのが注意点だ。


 先に進むと薬草が一杯生えている場所を見つけた。うむセレナ草? いや、違うな。これはハイセレナ草だ。セレナ草も生えてるけどハイセレナ草もある。


 う~んでも、ニセセレナ草も混じってるな。よく似てるから気をつけて採取しないと。


 しかし、知識があるとは言え、随分とサラリとわかったな俺。ニセセレナ草にしてもハイセレナ草にしても見た目はよく似ていて、本来見ただけでわかるものじゃない。例えばニンジャ時代のスキルがあればまた別だったのだが。


 とにかく、採取していこう。一応ギルドから採取用に袋は預かっていた。でもハイセレナ草はどうしようかな……


 でも、言われたのはセレナ草だし、とにかくそっちを採取しておこうか。


 ナイフを取り出して刈り取っていく。


 周りと一体化するような感覚で無心になって暫く採取していくが、ふむ、何か来てるな。一旦立ち上がってなんとなく周囲を窺ってみるけど。


「グル?」

「え?」


 僕の視界に狼の姿が。しかもすぐそこに。向こうも何か驚いたようだな。


「グ、グルゥウゥウウウウウ!」

「うおっと」


 直後、狼が飛びかかってきた。

 とりあえず避けたけど、これは魔物だな。俺の記憶が正しければシャープウルフだ。


「ガルルルルルルゥウウウ!」


 狼は更に何度も俺に飛びかかってきた。鋭い爪と牙を持っているようだった。動きも速い――でも、何か体が軽い。スイスイっと、あのゴロツキを相手した時も思ったが、体の切れが思った以上に良い。


 何か、妙だ。なんとなくステータスを開いてみる。もしかして特殊な力でも身についたのか?


 う~ん、でも特に代わり映えが……いや、待てよ。よく見るとステータスの下の方に矢印みたいのが……なんとなくそれに触れてみると。


スキル

忍体術、暗視、薬学の知識、手裏剣強化、チャクラ強化、苦無強化、気配遮断、気配察知、土錬金の術、土返しの術、鎌鼬の術、草刈の術、火吹の術、浄水の術、水霧の術、影分身の術、鎌鼬の術、影走りの術、影縫いの術、影風呂敷の術、変わり身の術



 これは、スキルの記されたページが他にもあったのか。そしてこれ、もしかして忍者のスキルか?

 でもどうして? 俺、黒装束着てないのだが――


 だけど、動きがなんとなく軽やかな理由がわかった。この忍体術のおかげだ。これがあると忍者としての体術がより活かされる。


 それに、気配遮断――すぐ近くにくるまであの魔物が俺に気がつけなかったのはこのスキルの効果だ。文字通り気配を遮断出来る効果があるからな。


 さて、俺は一旦森の中に逃げこむ。狼は追ってきたけど、そこで気配遮断を改めて試してみた。


「グルルルゥ……」


 よし、俺を見失ったみたいだ。すぐそこにいるのに気がついていない。


 やっぱりニンジャのスキルは使えている。なら、この色々とある忍法も使えるかも知れない。


 忍法は印を結ぶ必要がある。ただ俺は過去の記憶があるから印はわかる。


 でも、かなり複雑で数も多い。以前の俺でもそれなりに手間取った。久しぶりだし間違いないようにしっかり結んでおくか。


「忍法・鎌鼬!」


 忍法を行使すると風が刃物のようになって飛んでいき狼を切り裂いた。


「やったか!」

「グルルルゥウウ!」


 駄目だ。浅い! こんなものだったか? いや、なんとなくだけど印を結ぶのが遅かった気がする。


 慎重になりすぎたか。さて――


「アオォオオオォオオオオオン!」


 シャープウルフが遠吠えを発した。不味いな。この魔物は仲間を呼ぶはずだ。するとどこからか仲間の狼が次々と集まってくる。


 流石にこのままじゃまずいか。気配を消して俺は隠れた。何匹いる? 一、ニ――十匹はいるか。


 それにしても受付嬢は魔物が出るかもとは言っていたが、いきなりシャープウルフに遭遇するなんて……これが今の冒険者にとっては見習いレベルのことなのか?


 だとしたら前とはかなり変わったものだ。


 さて、このまま逃げるという手もあるけど、まだ目標の数は採取しきれていない。


 それに、一応はスキルも使えている。さっきみた限り、初期にしてはそれなりにスキルの数も多い。それを使いこなせばこのピンチも切り抜けられるかもしれない。


 俺は改めてステータスとスキルを見る。色々と並んでいるが――土錬金。この忍法があったか。


 これは――土を利用して錬金し自分の考えた物を作成できる忍法だ。


 これは、そうだ使えるぞ。サムライの力を利用するには刀が必要だが、この忍法があれば作れる。


 刀の形や構造なら、前前世の記憶があるから理解している。しっかりと印を結んで――


「忍法・土錬金!」


 忍法を行使すると土が盛り上がりキラキラと光ったかと思えば俺が思い描いた鞘付きの刀が創造された。


 うむ、中々の出来だな。ただ、やっぱり印を結ぶのが手間だ。実戦でしかも多数の相手と戦うには向いていないか。


 とは言え、これでサムライのスキルも解放される筈。俺は出来上がった刀を腰に吊るしてみる。


――サムライの条件が達成されました。サムジャとしてスキルを結合致します。


 何だ? 脳内にそんなメッセージが流れこんできた。


 気になってステータスを確認してみたけど。



ステータス

名前:シノ・ビローニン

レベル:1

天職:サムジャ

スキル

早熟晩成、刀縛り、居合、居合忍法、抜刀燕返し、体力強化、忍体術、暗視、薬学の知識、手裏剣強化、チャクラ強化、苦無強化、気配遮断、気配察知、土錬金の術、土返しの術、鎌鼬の術、草刈の術、火吹の術、烈火弾の術、浄水の術、水霧の術、影分身の術、影走りの術、影縫いの術、影風呂敷の術、変わり身の術



 中々凄いな。こんなに一杯スキルが増えるなんて。それにしてもどれも気になるところだが、やっぱり目につくのはこれだよな――居合忍法……これは前前世でも前世でも見なかったスキルだ。

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