第6話 戦車でありながら空を飛ぶって、それもうせんとう――(殴

 中央戦場上空。

 もはや一機の戦車すらも地上になくなった荒野において、トナカイの退くソリに乗った黒色のサンタと自由自在に空を飛ぶ鷹の様な機体を操縦する一人の少女が睨みあっていた。

 

 「ねぇ、分かってるよね?」

 「当たり前じゃのう……」

 

 無邪気に少女が言えば、含みを持たせてサンタは答える。

 

 「空の上ならボクが強いよ?」

 「はてはて?ワシはボケたんかの?ワシがヌシに負けると言われた気がするんじゃが?」

 「そう言ったよ?」

 「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」

 「へへへへへ」

 

 「「やろうか」」

 

 同時に動く。

 「ブースター展開、右翼ジェット、尾翼で調整、ゴー!」

 「ふぉふぉふぉ、働けトナカイたちよ!」

 

 右側から回り込むように旋回軌道を取るかっこうの機体『つよつよホーク』がトナカイ然としたエンジンで動くソリ型戦車に迫る。しかし、竜巻の様な旋回で下降するサカタキには追いつけない。追いつかない。

 「飛空系で上を取られるとかなめてるの!?」

 飛空系戦車というのは一方的に上空に位置し地上に存在する戦車を蹂躙するというのが本懐だ。だからこそサカタキのプレゼントがどれほど腹が立つ行為かということだろう。安全圏にいる状態であほみたいな火力の爆弾ぶち落として来たらキレる。誰だってキレる。だからこそサカタキに対して偏狂的な怒りを燃やすプレイヤーがいるのは事実だ。まぁ、ゲームの範疇で。

 彼らはブラ三ゾンビと言われるんだが、掲示板によく出現する。

 しかし、かっこうにそういうのは存在しない。そのわけは、彼女のプレイスタイルにある。

 彼女はサカタキと異なり、空中近接戦闘を主体とするのだ。すなわち、まだ攻撃が当てやすい中で当たらないのだから、強いと認めるしかないのだ。

 その上、実は飛空系というのは不遇と言っていい。

 

 サカタキという害悪(プレイスタイル的に)トップ勢とかっこうという純粋(精神的に)トップ勢がいるせいでわりと手を出す人が多いジャンルなのだが……

 

 「ちっちっち、お嬢ちゃん。そうでもないぞい」

 

 まるで直角に跳ね上がる様な軌道をもってサカタキはレーザーを躱す。

 「シカが崖を降り、馬が崖を降りるのならば、トナカイが垂直に空を飛んでもおかしくない!」

 意味不明である。意味不明さ満載の挙動に、かっこうは一言。

 

 「うそぉ」

 ほんとぉ。

 


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 飛空系戦車が何故少ないのか。

 圧倒的な位置的アドバンテージ、また安全性の点から言っても飛空系戦車はアドバンテージの塊だ。故に運営は考えた。

 これ、ただで空飛ばしたら飛空系の独壇場になるな、と。

 だったら、どうする?

 

 その答えこそが、この人の少なさの最大の理由だ。

 

 空中に行くための装備は多々ある。重量も軽い。だが、速度が出ない。極めて少ない装甲でしか飛べなくした。そして、軽い武器というのは得てして距離が出ない。すなわち、飛空系から守りと安全を抜いたのだ。攻撃の有利を取るも守れない、又は(ほかのタイプでもそうだけど、というかCdCでは大体そうだけど)空気抵抗など限りなく物理的に正しい演算のせいで操縦の難しい、〝高速戦闘〟に特化しなければならないという理由が存在する。

 

 ただし、まさか錬金術師のオリジナル製作枠を二つも高火力高条件爆弾に使って超高度に位置することで蹂躙する戦車を作るなんてシナジーは運営も予想外だった。其の為、多すぎる要望の末、爆弾系ダメージに下方修正が入ったり、火の燃え広がり方を調整したりなどという行為を強いられるとは思っていなかった。

 ほとんど個人を狙い撃ちにしたような下方修正だったが、本人からはもっとやれという声が出ているということを運営は知らない。だって自分の戦車をナーフしろって言うプレイヤーとか想定外。

 因みに、サカタキからすれば、ここまでクソゲー状態だったのに普通に撃ち落としてきたランカー組は頭おかしいという感想しか出ない。なんで上空三千メートルにライフル当てれるんですかねぇ、ビンゼンさん。


 サカタキが自分のジョブ特性を活かした特殊型の飛空系トッププレイヤーだとしたら。

 かっこうは?

 

 かっこうの操る『つよつよホーク』がまるで木の葉の様な軌道で不規則に迫る。その羽にはエネルギーブレードが、その嘴にはエネルギードリルが、その爪には超振動破砕式ナイフが仕込まれている。

 それすなわち。

 

 「おっそいよー!!」

 「むぅ、流石に追いつかれるか……」


 羽のブレードがトナカイの赤鼻をかすめる。

 サカタキの機体『万天火界』のエンジンに傷がつく。

 その瞬間に制御はぶれる。

 きわめて強い非制御性にサカタキの操作は不可能化する。理由はある。

 

 『万天火界』に使われている六基並列エンジン、それこそがソリを牽くトナカイたち。そのタイプはアニマルエンジン式カリブータイプ。

 アニマルエンジン式に共通する性質、〔強い馬力を発揮するが、エンジンが損傷した時、どれほど小さい傷だったとしても操作性が失われる〕。

 サカタキの機体は中量級で装甲をほとんどなくす代わりに爆弾射出機を多く乗せた

 それすなわち、本来重装甲が必要となるアニマルエンジンを高高度で戦うがために装甲をなくしたという特殊採用。

 だからこそ、通常飛空系が一番の天敵である。


 さぁ、かっこうは?

 プレイヤー中で13番目に強いとされ、環境的には不遇である飛空系をメインに使う彼女は?

 答えは分かり切っているだろう。


 ―――かっこうは、〝高速戦闘〟を追求した飛空系最強である。

 

 故に、鷹に乗った少女は笑うし、も笑う。

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