第7話 見えていたものとは違う
新卒で働き始めた頃、一回り近く年上の先輩方は、とてもオトナに見えた。
遊び方もスマートで、とても楽しそうに見えた。
悩み事があってもじっと堪え、独りで解決して見えて、とても格好よかった。
そう。確かにそう見えていた。
いざ自分が先輩方の年齢に近づいた頃、確かにそこそこ処世術は身に付いていて、本音と建前の使い分けくらいは上手くなっていた。
でも悩み事が尽きることはなく、寧ろ、年を重ねたことで問題は重く責任が生じるものになる。
おかしい。
もっとずっとオトナで、もっとずっと格好よかったはずなのに…自分には何が足りないのか。
深夜の街。
煙草を無駄に何本も吸いつつ、缶コーヒーを胃袋に流し込みながらドライブをしていた。
街の明かりが、どんどん後方へ流れていく。
信号待ちで新しい煙草の封を切り、火をつけて吸い込んだ時に、ハッと気がついた。
私からは『そう見えていた』だけだと。
過去に私が見ていた先輩方も、現在の私のように悩み事もあっただろうし、遊び方も上手くなっていただけなのだろう。
ドライブに出た時はこの世の終わりかのような気分だったのに、帰りは声を出しながら笑っていた。
とても清々しい気分だったのは忘れられない。
それから更に10年が経った今。
身体は思い通りにならないし、子供は思春期で気が気じゃない。
でも。
たまにあの時の清々しさを思い出して、柔らかく微笑む程度にはオトナになれたのではないかと思っている。
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