夏殺しの少年もまた、夏の象徴の一つ

星新一の『暑さ』という短編を思い出しました。かいつまんで書くと、毎年夏の暑さへの苛立ちをなんとかして解消しようとする男の話──それは〝生き物を殺す〟ことなのですが、こちらの短編でも、語り部の少年は同じように夏に煩わされ、更にはその苛立ちを解消するために殺そうとします。ただしそれは生き物ではない。夏という概念。大人からしたら一種の誇大妄想とでも呼ぶべき犯行動機は、繊細で危うい思春期の少年にとってはこれ以上ないくらいにリアルな問題であり、それだけに不明瞭にならざるを得ない言葉が暑い部屋の中でこもっていくような描写が、語り部の少年の心中を兎角やるせないものとして、読者の心に余韻を残します。少なくとも自分はそうでした。

〝他者にとっては些末でも自分にとっては重要な問題〟を押しつけずに表現することは大変に難しいです。読んでみて、上斗春さんは物語の総和として表現される主張の塩梅を決めるための言葉の精査が、人によってはもどかしいほどに為されていると感じました。めちゃくちゃいいです。