第02話 サバイバル生活スタート

 マジか神の野郎、チートどころか服すらねぇじゃねぇか! 落ち着け俺、冷静になるんだ。


 混乱したときは、すべきことに順位を付けひとつずつこなせばいい。


 まずは飲み水の確保だな。いや、まずは靴だ。小さな傷でも、ばい菌が入れば大変なことになる。


 この世界にばい菌が存在するのかわからないが、用心するに越したことはない。


 木の皮を剥がしツタで縛り、落ち葉をインソールの代わりにする。ディス〇バリーチャンネルの秘境〇活見といて良かったぜ。


 サンキュー! 〇ド!


 次は水だ。人は水がないと三日で動けなくなってしまう。どれだけタフな人間でも、数日水を飲まないだけで死んでしまうのだ。


 水分の確保は、かなり重要性が高い。


 水を探す方法はいくつかある。一番手っ取り早いのは高い場所から探すことだ。


 高い木に登ったり、山に登ったりすることで高所から周囲を見渡す。現在位置や地形を把握しつつ、水源を探すのが基本的な行動になる。


 周囲に山はなさそうだ、木を登るしかない。


 この森は人の手が入っていない原生林なのか、樹齢を重ねた木が豊富にある。


 高い木が多いので、見下ろす場所には困りそうにない。だが、全裸で木登りはハードルが高い。


 樹皮は硬いものが多く、怪我のリスクがあるからだ。


 それに、取っ掛かりのない状態での木登りは難しい。


 靴を履いていれば、靴紐同士を結んで挟み込むように登ったりできる。


 しかし、俺は全裸だ。靴紐どころか、丸出しノーガード。


 他にも色々方法はあるが、どれも手間がかかる。


 困った俺は、ディス〇バリーチャンネルを思い出していた。


 木の中には、蔓がかなり上から伸びてきている木がある。それを探せば、縄登りの要領で木の上に登れるはずだ。


 サンキュー!  ベア・グリ〇ス。



 少し歩くと、運のいいことに蔓が上から伸びてきている木を発見した。蔓の強度を試すため、思い切り引っ張る。


 うん、どうやら大丈夫そうだ。この強度なら、俺の体重ぐらいはらくらく支えてくれるだろう。


 命綱代わりに、蔓を腰に巻きつけようか迷った。


 しかし、高所から落下すればどのみち助からない。体重と落下が生み出すエネルギーは、簡単に俺の腰を破壊するだろう。


 即死は免れても、こんな状態で大怪我をすれば確実に死ぬ。即死できないので、余計に悲惨なことになるかもしれない。


 俺の体重を支えられる太い幹を腰に巻くのも、動きが制限されて邪魔になる。


 それなら、命綱なしで慎重に登ったほうがまだ生存率が高くなりそうだ。


 木登りのリスクを計算し終えた俺は、慎重に蔦を登っていく。綱を登るトレーニングのイメージだ。


 腕の疲労を感じながらも、なんとか木の頂点近くに辿り着く。蔓はこの頂点近くの枝から垂れ下がっていた。


 蔓を登りきり、慎重に枝に体重を掛ける。少しずつ、少しずつ慎重に。ここで枝が折れてしまえば、命はない。


 体重を掛けきり、少し踏み込んでみたが大丈夫そうだ。俺は枝の上に移動する。


 必死で登っているときは気付かなかったが、かなりの高さだ。落ちたら間違いなく終わるなぁ……高さにビビり、玉がヒュンとする。


 バランスを崩したときのために、蔓を腕に巻きつけ保険を掛ける。その後、慎重に周囲を見渡す。


 木々が生い茂り視界が悪いが、運良く川を発見することができた。


 やった! 助かったぜ! っと、危ない。水を確保できた喜びでバランスを崩し、危うく落下死するところだった。


 本日二度目の玉ヒュンを経験した俺は、気持ちを落ち着けて木から降りることにした。


 木登りは下りの方が事故が多いと聞いたことがある。安心して気が抜けるからだろうか。


 大事な教訓を思い出した俺は、より慎重に木から降りた。


 無事、地面に着地。両足に感じる地面の頼もしさよ。


 しばらく、高所は遠慮したい……。




 川が見つかってよかった。大量の水を安定して手に入れることができる。


 川が見つからなければ、水を好むコケ類を探したり、水を蓄える性質がある木から水分を補給するなどの方法がある。


 ただ、コケが生えている周囲の水源は、水たまりのような綺麗じゃない水の可能性もある。


 水分の豊富な木から水分を補給するにしても、この世界の植生がわからない。水を蓄える木を判別できないし、木を切る道具もない。


 動物を追跡して水場に案内してもらうという方法もあるが、難易度が高い。危険な野生動物に出会うリスクも有る。


 神の話によれば、この世界にはモンスターがいるらしい。地球の森より危険度は上だ。慎重に行動しなければいけない。


 水源を探す方法は多数あれど、現状ではどれもリスクの高い行動だった。安全に大量の水分が得られる川の存在はありがたい。


 まぁ、川が汚染されている可能性もあるのだが……。


 


 水場には動物が集まりやすい。モンスターを警戒しながら慎重に川に近付く。


 川に住む生物を見れば、その川が安全かどうかの指標になる。


 エビなどがいれば、水がきれいな証だ。昆虫の幼虫などがいると、煮沸が必要になる。あくまでも目安程度だが、まったく判別できないよりはマシだろう。



 ここは異世界、地球での常識が通用しない可能性がある。慎重を期すために、できれば煮沸してから飲みたい。


 不純物を取るために濾過もしたいが、あいにくと全裸だ。森にあるもので濾過装置を作りたいが、作り方がわからない。


 ペットボトルを使った濾過装置の作り方は知っていても、全裸で森にあるものだけて濾過装置を作る方法が思いつかないのだ。


 全裸ではできることに限りがある。


 無理に完璧を目指さず、現状できる最善を目指そう。


 とりあえず、飲料水の目処めどがたった。日が落ちる前に拠点を定めなければ。

 

 川から少し離れたところに、木の洞を見つけた。意外と中は広い、雨風も凌げそうだ。入り口をカモフラージュすれば、立派な住処になるだろう。



「ここをキャンプ地とする!」


 言ってみたかったセリフを言い終えて、満足した俺は少しニヤけるがそんなことをしている場合じゃない。


 気を取り直して周囲で食料を探すことにした。




 拠点の近くは果実などが豊富で、少し歩いただけで多くの食料候補を発見することができた。


 果実など、そのまま食べられそうなものはパッチテストを行う。


 空腹で今すぐにでも食べたいが、グッと我慢。


 パッチテストで皮膚に異常が無いことを確認すると、今度は唇に塗る。これで唇が腫れなければ、今度は軽く含んで舌に乗せる。舌がしびれたり、異常なほどの苦味や渋味を感じれば有毒な可能性が高い。


 そうやって慎重に安全性を確かめてから、少しずつ様子を見て慎重に食した。


 幸運なことに、体調に変化は見られなかった。少量しか食していないため、かなり空腹なことを除けば健康体と言えるだろう。


 今回テストした、パパイヤのような果実は安全が確認された。今後は摂取量を増やして行くことにしよう。


 この森には食べ物が豊富だ。これらの果実が無毒なら、極端に飢えるということはなさそうである。


 後は慎重にテストを重ね、食べられる種類を増やしていくだけだ。




 何とか飲料水を確保し、拠点を確保。最低限の食と住は揃ったことになる。あとは、衣食住の『衣』を用意する必要がある。


 俺の頭の中で、秘境○活のエドが腰蓑を作っていたシーンが思い出された。



 昔見た番組を参考に、腰蓑を作っていく。多少苦戦したが、最低限の保温とナニを隠せればそれでいい。


 木の皮で作った腰蓑こしみのを付けて股間を隠す。ふぅ、なんとか人としての尊厳を守れた気がする。いつまでも丸出しだと落ち着かない。


 まぁ、腰蓑の下はフリー状態なので、ブラブラペチペチなのは変わらないが……。



 全裸スタートのときはどうなるかと思ったが、運がいい。飲料水の目処めどが立ち、拠点も確保できた。


 果実などを食べ、多少のカロリーも摂取できた。初日のスタートとしては完璧に近い。


 後は、安定した食料の確保。できれば、保存食も作りたい。獲物を狩り、肉を燻製にできれば最高だ。


 色々と試行錯誤は必要だろう。塩やソミュール液など、必要な素材も足りない。


 商品として売っているような、立派な燻製は無理だろう。


 ただ、水分を飛ばすことができれば日持ちはするはずだ。フルーツも同じである。ドライフルーツは昔から存在する保存食。作ろうと思えば、作れるはず。


 ただ、ノウハウがない状態で砂糖もない。腐らせずに水分を抜くのは難しそうだ。色々、試行錯誤する必要があるだろう。


 動物の皮かなにかで、水筒も作らねば。


 やらなければいけないこと。やること、やりたいこと。足りない物資もたくさんある。


 体力に余裕があるうちに、色々動かねば。そんなことを考えていると、猛烈な痒みが襲ってきた。


 痒みの発生源に目をやると、股間が虫刺されだらけになっている。


 大事な部分が痛痒い。


 しまった! 煙でいぶし腰蓑こしみのを虫除けするのを忘れていた。


 虫には病気を運ぶ虫もいる。


 完璧には防げないだろうが、気を付けないと……。


 それにしても息子さんが痒い。自業自得とは言え、ひどい目に遭った。



 住居が決まれば、次は火だ。


 すっかり忘れていたが、腰蓑や住居を燻さないと虫がよってくる。夜や雨の日に暖を取る必要もあるだろう。


 幸いなことに、最近雨が降った形跡はない。落ちている枝や枯れ葉は乾燥している。


 これなら、摩擦を使った原始的な火おこしもできそうだ。



 火熾しで一番大事なのは乾燥していること。意外と知られていないが、木の質も大事だ。


 摩擦で温度を上げるという性質上、適度に抵抗がある木がいい。スカスカだったり、棒が回転しないほど抵抗が強いと火をおこしづらい。


 棒を擦るときは、回転速度ではなく摩擦を意識する。上から押し付けるように棒を回転させていく。


 動画サイトなどで、摩擦を使い一分も経たずに火を熾《おこ》している動画を見たことがある。


 一分で火おこしができるのは驚異的なことだ。


 ディス○バリーチャンネルのサバイバル番組などでは、一日掛けても火がおこせないこともよくあるからだ。


 それらのサバイバル番組と違い、素早く火を熾している動画にはちゃんと理由がある。乾燥した空気と、適切な木材を適切に加工しているため、素早く火熾しができるのだ。


 逆に言えば、適切な道具で適切な手順を踏めば、意外と簡単に火はおこせるということだ。


 熱帯雨林など、湿度の高い場所では難易度が高い。下手をすれば一日中棒をこすっても、火をおこせないこともある。


 ちょっとしたコツを知っているかでも、火おこしの難易度が変わってくる。


 受け口にほんの数粒、砂を入れるだけでも棒の回転速度は変わってくる。松脂まつやになどの脂を着火剤だけではなく、皮膚の保護や摩擦力を上げるため手に塗ることも効果的だ。


 空気の通り道を意識する。これも地味に大切だ。燃焼は酸素を消費する。


 道具があれば、受け口に小さな穴を空け、地面を掘ることで空気の流れを作ることもできる。


 そこまでしなくても、酸素を意識するだけでも違ってくるはずだ。


 摩擦で火種を作った後も油断はできない。小さな火種はすぐに消えてしまうからだ。


 火種から火を大きくする火口ほぐちも非常に重要になってくる。しっかり乾燥しているのはもちろんのこと、火が付きやすい性質も重要だ。


 具体的には、ふわふわもこもこしていて空気を多く含んでいそうな感じと言えばわかりやすいだろうか。


 サバイバルでは麻ひもをナイフで解いたものを火口として使ったり、古くはヨモギの裏側の繊維を集めた『もぐさ』と呼ばれるものを使用していた。


 ここにそんな気の利いたものはないので、しっかり乾燥した枯れ葉を解して火口にする。


 枯れ葉を両手ですり潰すように擦り合わせ、なるべく細かくふんわりに仕上げることをイメージしながら火口を作っていく。


 最後に道具やポジションをもう一度確認。なるべく水平な場所を探し、体重を掛けやすいポジションに道具と自分をセット。

 

 後は摩擦力を意識してひたすら擦るだけだ。


 今回は幸運なことに、手の皮がボロボロになるぐらいで火を熾すことができた。日が沈み、暗くなる前に火を熾せてラッキーだったぜ。


 異世界の森で暗闇に包まれるなんて、想像しただけでもチビリそうなほど怖いからなぁ。

 

 夜でも明るい都会と違い、自然の中の暗闇は恐ろしい。自分の手すら視認できないほど真っ暗だ。


 人間は情報収集の八割を視覚に頼っていると言われている。暗闇に包まれるということは、本来の機能の二割しか発揮できないということだ。


 そんな状態で夜目が利くモンスターに襲われたら? 想像するだけで恐ろしい。



 流石に体力を使った。もうすぐ日も暮れる。


 腰蓑と拠点を燻したら、後は拠点でゆっくり休むとしよう。




 翌朝、石をぶつけて石器を作り、木の皮を剥ぐ。水を沸騰させるための鍋を作るためだ。


 意外なことに、水分を含んだ生木は燃えづらい。


 また、お湯を沸かす用途なら水の沸点は百度を超えないため、鍋が燃える可能性はかなり低くなる。


 水分を沸騰させる用途なら、木製の鍋でも火にかけても平気だ。


 サバイバル知識としては知っていたし、修学旅行で行ったアイヌ資料館では、立派に加工された樹皮を使った鍋が展示されていた。


 知識があり、現物を見ている。加工技術は未熟でノウハウもないが、作れないことはないと思う。立派なものは作れなくとも、飲料水用の水を煮沸する用の鍋ぐらいなら作れるはずだ。


 ただ、木には毒を持っている種類もある。


 俺には、この世界の植物に対する知識がない。そのため、少しだけ飲んで様子を見る必要がある。


 喉は乾いているし、川は一見綺麗そうだ。


 そのままがぶ飲みしたい衝動に駆られるが、なんとか我慢。

 

 石のナイフで木の皮を剥ぎ、四苦八苦しながら鍋を作る。


 鍋が完成したら、次はかまどだ。焚き火の周りにL字型になるように石を組んで小さなかまどを作る。 


水をこぼさないように気をつけながら、なんとか鍋を火にかけることができた。



 樹皮の鍋を使って沸騰させた水を少し口に含んで思った……こいつぁオーガニック臭せぇ。


 口から鼻に抜ける匂いがあまりにも強烈で、思わずえずいてしまった。


 雨上がりの森の匂いを十倍に濃縮したような、強烈な香りがする。しばらく使っていけば匂いは薄れるだろうが、これはキツイ。


 手間はかかるが、何度か煮沸しては水を捨てまた煮沸。多少匂いは薄れたが、まだまだ森の香りが半端ない。


 きりが無いので、煮沸した水を飲むことにした。


 あまりの匂いに不安になりながら、口に含んだ水を少量飲み込んだ。体感で数時間ほど時間が経っても、体調に変化は現れない。強烈な臭いとは裏腹に、人体に害はなさそうだ。


 体は水分を欲している。たとえ臭かろうが、安全な水分であることには変わらない。


 俺は涙目になりながら、臭いオーガニック汁を飲み干した。



 その後、現在位置を再確認るため高い木に登った。慎重に登り続け、周囲を見渡せる高さへ到達する。


 水場を探したときも高い木に登ったが、あのときは川の発見に注力していた。


 サバイバルは初動が大切なため、水源の発見に集中していたからだ。そのせいで、周囲をしっかり見渡す余裕がなかった。


 改めてしっかりと周囲を見渡す。


 残念ながら、道や建物などの人工物は見当たらない。


 絶望的なぐらい、ひたすら森だった。森から抜けるのに、どのくらいの時間が掛かるだろうか……。


 森を抜けるには、日持ちする食料を多く確保する必要がある。周囲の果実をドライフルーツにするだけじゃ足りないかもしれない。


 罠などで動物を狩り、肉を確保せねば。生息しているかわからないが、鹿や猪を仕留めることができればかなりの量の肉が手に入る。


 燻製などにすれば、保存食にもなる。肉を保存食にすることができれば、安定してタンパク質が摂取できる訳だ。


 考えたくもないが、冬が存在する可能性もある。


 冬は食料の確保が困難になるため、備蓄が必要になる。異世界で餓死なんてまっぴら御免ごめんだ。


 食料確保のため、俺は本格的に狩りを始めることにした。

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