私の部屋

私の部屋

 雷雲と吹雪。

 暴雨と暴風。

 熱と、冷気。

 打ち付けるエネルギーの奔流が体を揺さぶり、掻き回し、体がぐちゃぐちゃになっていく。

 遠のいていく景色。

 吸い込まれるように帰還する体。

 手を振っているクロネコ。

 その大きな手の感触が、冷たくなって、遠のいて……。

 Sing a Song……My Baby

 いつかきっと……きっと……

 何かが砕け。

 失われて。

 クロネコ……クロネコ?

 誰?

 名前から意味が失われていく。

 夢のように、消えていく。

 砂漠。

 廃墟。

 獣。

 ムラサキ。

 白い白い、鹿の角……。

 体調の悪いときに特有の夢のカオスがグチャグチャと回って、すぐに何を考えていたのかわからなくなるほど、遠くへ飲み込まれていく。

 全部……夢?

 夢じゃない。

 夢じゃなかった気が……。

 たくさんの死の哀しさと別れの辛さが、頬に涙を伝わせていく。本当に辛い思いをして、大事な人に別れを告げて、だけど私は生きようと思った。その実感と理由を掴もうとしたけれど、記憶は雪のひとひらのように現実の温度に溶かされて、揮発して、私の部屋は今日もまた暗くて、静かだ。

 痛い。

 呼吸が苦しい。

 死にかけている。

 手足が動かないし、体中に打撲傷が残っているのがわかるし、心臓が悲鳴を上げているのも感じる。

 なぜ?

 わからない。

 わからないけど、でも、まだ死ぬのだけはダメな気がして……。

 顔に温もりを感じて、目を開けた。ホコリと芳香剤の混じった現実の匂い。ようやく音が聞こえてきた。犬が鳴いている。ビンゴが今まで聞いたことのないような悲しそうな声で吠えながら、必死になって私の顔を舐めている。

 ビンゴ……ありがとう。泣かないで。

 起きようとする。でも、できない。本当に体が動かないや……今日はまだペンタスに水をやってないのに……枯れちゃう前に水を……。

 ドアが開く音。

 お母さんの悲鳴。

 ビンゴの舌。

 本当に必死に鳴いている。

 持ち上げられ、揺すぶられながら、私は心のなかでまだ歌を歌っていた。


 Sing a Song My Baby


 いつかきっと


 あなたの歌を……

 

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