どちらかの私2

 花火のような残響が、まだ耳の奥にずっと取り残されている気がする。人を殺した私の右手が、自分を責めるみたいに震えている。

 悔いている?

 そんなわけはない。

 ホントは後悔って、心じゃなくて体の反応なんだろう。この反応を心の声と勘違いしてしまって、みんな自分の選択を疑ってしまうんだ。

 今の私には、それがわかる。

 撃ち抜かれた彼女の頭に咲いた黒いバラを見ながら私は、なんとなく、自分の部屋のペンタスのことを思い出していた。私がここに来てからいったいどれくらいの時間が経っているんだろう。もう、全部枯れてしまっただろうか。

 雪が降りしきる。

 花が枯れるのは、きっと悪いことじゃない。命はいつか枯れる。枯れないように頑張って、そして枯れること、悲しいかもしれないけれど悔やむことじゃない。

 でも……できれば、痛い死に方はしたくないよね。

 ここに倒れている二人は、そんな願いすら叶えられなかった私だ。

 ムラサキに撃たれ、ドクドクと赤黒い血を流している彼女の、その傷口にゆっくりと手を添えた。

「……ッ」

「あ……ごめん、痛いよね……」

 ゼェ……ゼェ……とスローテンポな苦しい呼吸を続けながら、彼女は薄く目を開いた。真っ赤な自分のお腹にゆっくりと手を当てる。

「ねえ……」ほとんど音のない声が、私にささやく。

「……ん?」

「子どもに……なんて名前………」

 額を合わせて、頭を抱き寄せた。「一緒に、決まってるよ」

「私……生めるの……かな…………」

「……生みたかった?」

「一緒……だよ」

 涙、2つ。

 どこかへこぼれて。

「私が頑張るから……」

 雪が積もる。

 その命が絶えたのはいつだろう。

 わからない。

 わからないまま雪が積もる。

 シャンシャン……シャンシャン……。

 全てが埋もれていく。

 血まみれの彼女の体も。

 ムラサキと彼女の体も。

 看板も。

 ビルも。

 死んだものは全て白の下に沈んでいって、血の色も消えて、私だけが残される。

 何もかも、音もなく……。

 世界のすべてが影だけになって、私まで影法師だけ残して体が消えてしまったような気分のまま、ずいぶんと長い時間をただじっとしていた。

 なんか今更だけど、全部、不思議だな。

 どうして私なんかがこんな世界で、こんな数奇な物語の中で命を分けて、生きたり死んだりしていたんだろう。

 それだけじゃない。

 本当はもう一つ、他の私じゃ知りえない謎も残っているけれど……。

 そんな全部を知らないまま、こんな孤独な世界で死んでいった私の体が、この雪の下に眠っているんだな。

 とても悲しくて、恐ろしい。

 だけど、きっと、気楽だろうな。

 私は、自分のこめかみに銃口を押し当てていた。

 引き金を指で撫でて、少しずつ力を入れていく。

 大丈夫、撃てる。

 今なら……死ねる。

 ならそれでいいんだ。

 これで終われるなら……きっと、それでも……。

 鼓動。

 呼吸。

 決意。

 雪が積もっていく。

 私と、

 私と、

 私の上に。

 バンッ……と。

 銃声、一つ。

 確かに、弾けた。

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