第8話 「渡辺席」ロスの渡辺さん

 「渡辺席ロス」の影響で、なかなか友達が増えない渡辺さんであったが、逆転の時が来た。テスト明け恒例の、席替えタイムだ。くじ引きだからね~。じゃあ、今回は逆から引きましょうか。じゃあ、渡部くん。

「あ、ひとつ前だ。」

「よし!じゃあ、次、渡辺さん」

「ごめん「先生好き席」だ~。」

「じゃあ、私のくじ運に任せてよ。絶対席をつかんであげるわ、「渡辺席」を。」

 さすがはゆっこ、持ってる人は持っていた。

「あとで、交換しよ。」

というわけで、席交換成立!

「渡辺席」に、渡辺さんが帰ってきた。よし、何しよう!

「あの、よろしく。」渡部のやつが前なのよね。「ええ、よろしく。」

「よし、じゃあ、学級新聞できたから、各自持って帰るように。今、配ります。」

 何かと学級新聞が大好きな、渡辺さんである。今日はどんな記事かな~。

「ケッ、「渡部席」に座れて浮かれやがって。今日の仕打ちだけでもお返ししようか。」

 プリントが回ってくるなり、くしゃくしゃに丸めて渡す渡部くん。

「は?」

 渡辺さんの目から涙がこぼれた。

「あなたねぇ。」

 と、席を立ち、平手打ちだ。

「なんのつもり?」

「テストの時の復習だよ。」

「復讐?ああ、そう。そういうことが、起こるんだ。わかった。」

「それと、平手打ちの仕返しに。」

 と、学級新聞をチリヂリにしてしまった。


――ようくわかったわ。あなたには、一時のことだものね。いたいた、そういうやつが。

 担任が動いた。今、先生のあげるから。にしても、今年は締まらない高校生だなぁ。


 渡辺さんは、学校を終えて、家の鏡台に向かっていた。あの男を何べんでもフってやりたい。そう、それが、プリント類を守る最善解よ。新しい、顔を創んなくっちゃ。

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