第42話・動作テスト

「むかしむかし、あるところに……」

 街での宴会が終わり、別邸に帰ったあと、ランチュウは魔王寝室でココナナに絵本を読み聞かせていた。

 誰とも知れない知り合いのプレイヤーが作ったもので、動物の着ぐるみを装着したアバターを使い、それっぽいポーズでスクショした画像集である。

 一応ながら文字も入っていた。

 ヘスペリデスは12才以上の年齢制限つきゲームなのに、なぜ幼児向けの絵本が販売されているのかは謎だ。

「おばあさんが川で洗濯していると、大きな桃が……」

わらわのお尻を果物扱いしないでください!」

 ランチュウの指差す先には、パルミナの巨大すぎる桃尻があった。

「おやもう酔いはめたんかい?」

わらわはあまり酔わない体質なんです。あの程度の酒精アルコールなら2時間で分解できますよ」

 普通は樽酒をいくつもガブガブんで2時間でケロリを『あまり』とは言わないだろう。

「つまんねー。笑い上戸じょうごとか泣き上戸とかからみ酒とか2日酔いとか期待してたんだけどなあ」

 パルミナの巨体では、どれも大惨事になるのは間違いない。

「……ところでランチュウさん、どうして妾の部屋にいるのです? しかも子供連れで」

「アタシもここで寝るんだよ」

 昨日は管理人用の寝室でオルテナス一家と共に寝たのだが、今日はココナナと一緒にパルミナの部屋で夜を明かすつもりのランチュウであった。

 なぜなら酔った夫妻が2人目・・・を作りそうな予感がしたからである。

「邪魔しちゃ悪いからねえ」

「…………????」

 夫婦の睦言むつごとに無縁なパルミナは首をひねるばかりであった。

「男の子だったらいいなあ……ところでパルミナ、アンタ寝相はいい方かい?」

 魔王寝室にベッドは1つしか存在しないのだ。

「ピクリともしないとめられた事があります」

「そりゃ好都合」

 ランチュウはココナナの首元をヒョイと掴んでベッドに飛び乗った。

「うんしょっと!」

「わっふ♡」

 体積の半分近くがモコモコの産毛うぶげとはいえ、2歳児は結構重い。

「ほれほれ、パルミナもこっち来なよ」

「はいはい……これってランチュウさんたちが寝る場所あるんですか?」

 更紗さらさが住んでいたボロアパートの1室よりも大きなベッドなのに、パルミナが寝るとサイズがギリギリで、小柄なランチュウたちですら寝るスペースが見つからない。

「仕方ねえ、上で寝るか」

 パルミナのお腹にちょこんと乗るランチュウ。

「つーかアンタ裸族だったんかい」

 黒ビキニを洗いに出して入浴したところまでは理解できるが、その後もパルミナはスッポンポンのままで平気な顔をしていた。

 ちなみにランチュウはチューブブラと穴あきブリーフのみ、ココナナはおむつ一丁である。

「いけませんか?」

「まあココちゃんは2歳児だし、アタシは元・女だし、別に構わないけどねえ……くらえっ!」

 ボフッ。

「ひゃっ⁉」

 なんとなく巨乳がムカつくのでダイブしてみた。

「おおっ、こりゃ人をダメにするクッションじゃあ!」

「人の胸で遊ばないでください! ああっココちゃん置いちゃダメです!」

「いいじゃん幼児なんだし」

 右乳でおぼれながら左乳にココナナを沈めるランチュウ。

「わっふ~、わふっ♡」

 モコモコ幼児は背泳ぎを覚えた!

「うんうん満喫しとけよ~。この先、嫁さんもらうまで堪能たんのうできんかもしれねーからな~……ところでパルミナ、ビーチクどこ行った?」

「そんなものはありません!」

 丸々とした巨乳には肝心の先端部が存在しなかった。

 しかも入墨のような唐草模様風ボディペイントで、乳首レスが目立たないようになっている。

「なんてこったレイティング済みかよ! アタシにすらついてんのに!」

 乳首のないアバターが乳首のない樹王のスペアボディと融合したのに、どうしてランチュウには乳首が発生したのだろうか?

「まさかアンタ、アレもついてないんじゃ……?」

 パルミナの股間を指差すランチュウ。

「おトイレなら行きますよ?」

「生殖機能もねーのか……」

 ランチュウには、決して大きくはないが肉体年齢相応の子象さんがある。

 ただし、まだ子供ボディなので、実際に機能するかはわからない。

「道理で羞恥心は薄いし夫婦の営みも理解できねーと思ったよ。パルミナはもうちっと人間、いや魔獣人の生活を知った方がいいねえ」

 世界樹の果実で無理矢理採算を合わせてしまう生態系管理システムのオペレーターは、自然の摂理がいまいちわかっていない模様。

「獣人さんたちの事なら、妾の方が詳しいです!」

 ムキになるパルミナ。

「じゃあ子供がどうやって生まれんのか説明してみなよ」

「果実から生まれて、鳥さんが親御さんのところに送り届けるに決まってるじゃありませんか」

「キャベツよりゃマシな答えだったねえ……いや大して変わんねーかな?」

 樹王には足りない知識が多すぎる。

「つー事は、やっぱ樹王はパルミナしかいねーのかな?」

 スペアボディのランチュウを除けばの話だが、常に1人しか存在せず、世代交代を世界樹の実による肉体交換でまかなうなら、生殖能力など不要だろう。

 単体で戦術兵器なみの戦闘力を持っているため、むしろ勝手に繁殖されると困る。

 だからこそパルミナは、最初から生殖に興味を持たないように作られているのだろう。

 必要に応じて段階的に開放される知能制限も、繰り返される記憶込みの転生で精神が摩耗するのを防ぐ仕掛けなのかもしれない。

「訳のわからない事を言ってないで、もう寝ますよ!」

 重い毛布をドカリとかけられた。

 別邸は侵食エリアでも割と北側に存在するため、初夏とはいえ夜はそれなりに冷え込む。

「明かりは消さないのかい?」

 天井のライトは消されているが、ベッド脇のランプは煌々こうこうともったままである。

 魔法の照明なので火事の心配はない。

「妾は暗いのダメなんです」

 臆病なパルミナらしい明快な理由であった。

「そーかい。じゃ、おやすみ~」

「おやすみなさい」

「わっふ♡」

 ……もぞもぞ。

 もぞもぞ、もぞもぞ。

「あの……ココちゃんを何とかしてもらえませんか?」

「泳ぎ疲れたら寝るでしょ」

 しばらくするとランチュウの言う通り、ココナナは突然眠りに落ちた。

「わっふぅ……♡」

 幼児特有の電池切れ現象である。



 翌朝。

「ほらランちゃん、お弁当」

「あんがとさん。パルミナは……ストレージ使えねーんだっけ? だったらアタシのに入れてこう」

 ランチュウはナーナにもらった弁当をアイテムストレージに収納する。

 もちろんパルミナの分はパルミナが自分で作った。

 メニューはランチュウ用が鮭と梅干しのおにぎり、パルミナ用は大鍋いっぱいの混ぜカレーである。

「ホント便利だよねえ異次元ポッケ……ラノベじゃ鉄板ネタだけど、ヘスペリのストレージって、こっちの世界じゃどんな理屈で再現されてんのかな?」

 異空間や亜空間につながっているのか、それとも構成因子の情報だけを記録して分子レベルで分解し、出す時に再構成しているのか。

「ま、ちゃんと使えるんだし気にしてもしゃーねえか。行って来るよ~」

「いってきま~す」

 翼を広げるパルミナに飛び乗るランチュウ。

 巨大な魔王剣は5分割され、パルミナの周囲にオプションっぽく浮遊している。

 便利すぎるぞ魔王剣。

「らんちゅ、ぱーな♡」

 ナーナの腕の中でココナナが、ちっちゃなお手々を可愛らしくパタパタ振っていた。

「夜までには帰って来るからね。それまでいい子にしてるんだよ~?」

「わっふ♡」

「まあ子供に『いい子にしろ』って言ったところで、いい子にしか通用しないんだけどね」

 ココナナは同年代の友達がいないせいか、割とおとなしい性格である。

 大人にとって扱いやすい典型的な【いい子】ではあるのだが、それはそれでランチュウは将来が心配になった。

 このまま他の子供を知らずに育っていいのだろうか、と。

 実際、ランチュウがいない日のココナナは1人遊びが多いらしく、人の名前以外は『わっふ♡』しか言わないのも気になる。

「次のメンテ日にナパースカの子供たちと遊ばせるか」

 離陸するパルミナのツノにつかまりながら思案するランチュウ。

 昨日の宴会で酔いどれ魔王が暴走したおかげで、メンテ中なら魔獣人でも市街地に入れるのは確認済みである。

「昨日はアタシがココちゃん独占しちゃったからねえ」

 バーベキューやパエリア鍋など周囲に火元が多く、怖くて手放せなかったのだ。

 なぜなら産毛でムクムクなココナナは、とてもよく燃えそうだったから。

「こんどトリボーノ坊ちゃんに頼んでみよう」

 領主(元・別邸使用人)の息子は極めてよくできた坊ちゃんで、しかも他の子たちと仲がいいらしく、しかも有能な執事(元・市長)が常にガードしている。

 子守りを任せるなら適任だろう。

「ところでランチュウさん、妾はどっちに飛べばいいんですか? というか、ここってどこですか?」

 ランチュウが超空間勝手口を使ったせいで、パルミナは現在位置を把握していない。

「昨日ブッ壊したファートン火山の近くだよ。たぶんあっちに魔海樹があるはず」

 近隣の魔海樹を制圧した際に、切断された地下茎の履歴から、次のターゲットの位置を、おおむね割り出せている。

「このあたりに……あったあった」

 見つけた魔海樹の近くにパルミナを着地させ、根本のターミナルを探す。

 都合のいい事に2つあった。

 パルミナはランチュウのシッポが届かない高位置のターミナルに。

 ランチュウが座るのは、世界に名だたるロシアの宇宙ステーション【ミール】の内部にあった吸引式トイレである。

 ……いや便器ではないのだが。

  今回は底が浅いのか、かぼちゃパンツを脱がなくてもシッポが届くのが、せめてもの救いだろうか?

 ただしシッポを入れるには腰を前にずらす必要があり、お〇んちんを漏斗状の吸引具(木の根らしい)にスッポリ入れないと、尻尾がうまく穴に入らない。

「ちょいと辛いねえ……でもまあ、中のデータはいつも通りだ」

 バーチャルな映像を一覧しながら、ランチュウは転生リストを確認する。

「妾はいつも通りじゃありません! 何ですかこの途方もなくおかしな操作設定は⁉」

 接続して早々、パルミナがバーチャル迷子になっていた。

 現在の魔海樹はヘスペリデス仕様になっているせいか、TVゲームを知らないパルミナに扱える代物ではなかったようである。

「使用人たちは使えたのにねえ」

 端末樹の端末とはいえ、獣人たちはゲーム風の画面に慣れている。

「こんな画面、始めて見ました」

「ほら、そこのアイコンにカーソル合わせてコンフィグ画面を……」

「妾が知っている単語が1つもないんですけど……?」

 平成期に銀行のATMや駅の切符売り場で茫然ぼうぜんとしていた老人のように、全身を硬直させるパルミナ。

 TVゲームを【ピコピコ】と呼んでバカにしているうちに、世間のあらゆる手続きがゲーム準拠になってジェネレーションギャップを受ける的なアレである。

「仕方ねーな。1から教えてやんよ」

 魔海樹のサポートを受けながらパルミナに操作法をレクチャーするランチュウ。

 気がついたら日が高くなっていた。

 そして収穫はまったくのゼロである。

「こりゃヘスペリの初心者マニュアルでどうにかなるレベルじゃねーぞ……」

 前世の更科更紗は、携帯ショップ店員として、数々のデジタル音痴もといお客様にスマホの使用法をレクチャーして来た豊富な経験とノウハウを持っている。

 しかしパルミナは途方もなく機械にうとかった。

「これってまさか知能制限の一種……使用人たちのプライバシーを守るため?」

 樹王の権限を使えば、別邸にある端末を使う使用人たちの閲覧履歴など丸裸も同然だ。

 それを防ぐためか、それとも端末を18禁な目的に使う使用人の18禁な画像や動画を、ピュアな樹王に見せないための仕組みでもあるのかもしれない。

「たぶんイザって時は使えるようになるんだろーけど……こりゃアタシの手にゃ負えねーかもしんねーな。侵食前の端末樹は、どうやって操作してたんだい?」

 パルミナはこれでも一応プロのオペレーターなので、ヘスペリデスのせいで変貌する以前はプロの仕事ができていたはず。

「前はですね……パッと見てパパッと念じて、ババーンと動かしてました!」

「ダメだこりゃ~⁉」



「おかえりランちゃん。ずいぶんやつれたねえ」

「アイツ、マジで難物だったよ……」

 5本の魔海樹を見つけて制圧したランチュウは、そのたびにパルミナ向けの操作設定を探したりレクチャーしたりと大忙しで、しかもパルミナ自身には何の進展もなく夕方を迎えてしまったのである。

 幸いにも最後に発見した魔海樹のすぐ隣に別邸があり、超空間勝手口による帰宅だけはスムーズに運んだのだが。

「こりゃ2正面作戦はポイした方がいいな」

 ランチュウとパルミナで2手に分かれて魔海樹を制圧しようと考えていたのだが――

「ランチュウ様、魔海樹捜索はパルミナ様と一緒においでの方がよろしいかと存じます」

「オルさん……アタシに全部押しつける気でしょ?」

「あのお方は、別邸にいてもランチュウ様のお役には立てません」

 オルテナスはパルミナの無能っぷりにキッパリと太鼓判を押した。

「しかし機獣なる敵が現れたからには、パルミナ様の魔王剣は絶対に欠かせないでしょう」

 なにせパルミナは、大型機獣を真っ二つにし、山頂部を粉々に爆砕するバ火力アイテム持ちである。

 そして対戦勢のランチュウは、大量のHPを持つ大型機獣を複数相手取るには、絶対的に攻撃力が足りていない。

 ショタロリ団の全員が対戦勢の軽装備スタイルで、対魔獣勢を連れて歩けない以上、パルミナの同行は必要不可欠だろう。

「ありゃ強すぎだ。戦術兵器なんてヘスペリにゃ無用の長物だよ……いや戦争の成り行き次第かな?」

 運営にはショウタ君が絡んでいるので、一部の大型機獣に戦術兵器を搭載するなど、魔王剣の存在を考慮したゲームバランスに再調整するかもしれない。

「メンテ開けたら聞いてみっかねえ」

 ぶつかり合う魔王剣スラッシュ(仮名)vs機獣プロトンビーム(仮名)。

 ショウタ君の趣味に合うド派手な戦場になりそうだ。

 なぜなら彼女は山のようなバーチャル死体を見たがっているから。

 そして序盤におけるMAP兵器の投げ合いは、戦術ゲームの定番である。

「……なんか魔王剣は封印しといた方がよさそうな気がして来たぞ?」

 オブジェとしてナパースカの公園に保管するとか。

「ま、パルミナは放っておくとヤバい予感がするし、しばらく一緒に行動すっか」

 敵にしても味方にしても心細い戦術魔王は、手元に置いておくのが一番である。

 目を離した隙に、また野生化されてはたまらない。

「ところでパルミナは調理場かい?」

「はい。またカレーを食べたいとのご所望でした」

 巨大な魔王は自分の食事を自分で作らなければならない。

 そうなると手間のかからないカレーが一番楽でおいしいに決まっている。

「アイツ、カレー好きになったなあ。イエロー担当かな?」

 それは昭和のイエローだ。

「私たちにもご馳走していただけるとのお話です」

「パルミナカレーの野菜は皮つきだよ⁉」

 50人分のジャガイモは、巨大なパルミナの手でける代物ではない。

 魔獣人も食べるなら、タマネギは入れていないだろうが……。

「朝に作って丸一日煮込んでおりました」

 ただし日中はランチュウと出かけていたので、火加減を見たのはナーナである。

「それなら皮なんて溶けて蒸発……じゃねえ、カレーに溶け込んでるはずだよねえ。ここのレンジがIHで助かったよ。圧力釜もあるし」

 正確には魔法のIHと魔法の圧力釜である。

「IHは火事の心配がないのがいいねえ」

「そうですね。ナーナもだいぶ家事が楽になったと申しておりました」

「ビバ三種の神器!」

「ランチュウ様、しばらくはこの別邸を拠点とするのがよいかと思います」

 超魔王邸はランチュウが異世界転生したのが原因で、現在は湖経由ルートでプレイヤーが侵入可能なフィールド上に存在している。

 それに比べて、この別邸は魔獣しか入れない侵入禁止エリア内。

 2人の魔王が留守にしている間、プレイヤーの襲撃におびえる必要がないのだ。

「そうだなあ……他の別邸でいいとこが見つかるまで、とりあえずここに住むのとすっかね」

「ランちゃん、あそこのお皿お願い」

「へいへーい♡」

 ナーナに言われて夕食の準備を手伝うランチュウ。

「では改めて……ここを第2超魔王邸とする!」

「わっふ~っ♡」

 ココナナも異論はないらしい。

「……ところでオルさん、第1超魔王邸の畑はどうすんのさ?」

「すでにこちらの畑は準備を整えております。しばらくは収穫のアテがありませんので、そのあたりはランチュウ様のふところ次第ですね」

「もっと食材買って来いってか。でもまあパルミナがいるんじゃ畑の有無は関係ねーからなあ」

 パルミナの食事量は約50人分である。

 小さな畑ではいくつあっても足りないし、何よりカレー粉は畑で生産できない。

「こりゃラッグの入手も考えねーといけねーな。いつまでもつかわかったもんじゃねえ」

 この数年間でランチュウが溜め込んだラッグは、かなりの額に及んでいる。

 なぜならラッグでの支払いより課金を好むタイプだから。

 だが毎日50人分の食糧を調達するとなれば、いくらあっても心許こころもとない。

「いざとなったら課金でラッグを買うしかねーな。アテはあるし、たぶん大丈夫。それでも足りなくなったらショウタ君に相談しよう」

 課金の問題が解決したら、今度はラッグが危うくなった。

 世の中ままならないものである。

「皆の者できたぞ! 吾輩のカレーを思う存分堪能するがよい!」

 厨房からパルミナの声がする。

「テーブルを持って来るがよい! ここには魔獣人に合う家具がないからのう!」

 大急ぎで魔王寝室に向かうと、そこには様子が一変したパルミナが圧力鍋を抱えてガハハと笑っていた。

「魔王モードになってる……⁉」

 ついさっきまでいた普通のパルミナではない。

 かつて魔王討伐イベントミッションで見た、豪放磊落ごうほうらいらくで少しだけ臆病な、歌のうまい魔王パルミナである。

 ぴろりん。

「ショウタ君からメールだ」

 内容は『メンテ明けは夜……そっちでは明日の朝ッスけど、その前にシナリオモードのパルミナをテストするッスよ。オイラはこれから学校ッスから、苦情はあとで受けつけるッスね~♡』である。

「……わっふ?」

 ついて来たオルテナス夫妻の足元で、ココナナはパルミナを見上げながら不思議そうな顔をしていた。

「おおココナナよ、吾輩の顔を見忘れたか?」

「……………………」

 ランチュウは思わず『魔王様とて構わぬ。斬れ! 斬れ~っ‼』と叫びたくなる衝動に駆られてしまった。

 ここで誘惑に負けてネタに走ると、ランチュウはともかく、第2超魔王邸とオルテナス一家が粉砕されてしまう。

「どうした皆の衆、はよう支度をせぬか」

「へいへい……まあ、こっちの方が頼りになりそうだし、いっか~♡」

 ガハハ魔王のパルミナと普通のパルミナ。

 できれば綺麗なパルミナも見てみたいとランチュウは思った。

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