第31話・クラン同盟

「またろーねバイハーイ!」

「またナデナデさせてね~♡」

「やなこったー♡」

 ママと妊婦しかいないクマ井さん連盟はビエマーチュ迷宮を去り、ホバーで爆走しながら近隣の村へと向かう。

 ホバブーツはまっすぐ走るしか能のない欠陥アイテムだが、3人はそれぞれの武器を舵の代わりに引きずって進行方向を制御している。

「器用な連中ッスね」

 武器破壊のルールが存在しないヘスペリデスならではの荒業であった。

「狭い屋内じゃ使えない方法だけど、あんな走り方があるとは思わなかったよ」

「アイデア次第で割と何でもできるものですね」

「これだからヘスペリはやめられん」

 クマ井さん連盟を見送りながら手を振るショタロリ団。

 結論から言うと、彼女たちはモフモフ超魔王国に入籍しなかった。

 ショウタ君の提案により、道場の看板を降ろし正式に超魔王国とのクラン同盟を果たしたデモノフレンズへと入団し、対戦や魔獣討伐の苦手な、あるいはしたくないプレイヤーたちのため、テイムスキルの伝播と研究に励む事となったのだ。

 テイムはできても魔獣養育のノウハウがないので、そちらはデモノフレンズが研究を担当する予定である。

 ホバブーツ? あれは人間に扱えるアイデムではない。

 ついでにムチプリンの放逐と同時に解散状態だった同人サークル【ムチュムチュ少年団】も【BLベルショッター】へと吸収合併されたのだが、この2年間で彼女たちの嗜好が変容した事もあり、新たに姉妹サークル【オネショッター】として再結成される運びとなった。

 たまには睦美もゲスト作家として執筆する予定である。

「あのスキル使えるッスね……」

 走り去る3人を眺めながら呟くショウタ君。

 モフモフ超魔王国の売り文句は、魔獣と仲良くなってモフる事。

 ランチュウの配下になれば誰でもモフモフできるのだが、できればそれでチートを疑われるのは避けたい。

 だがテイム機能を極めたクマ井さん連盟がいれば、そしてその技術を拡散すれば、当面の問題は回避できそうである。

 ショウタ君なら他にいくらでも誤魔化す手段を考えられるだろうが、安全かつ確実な手段を得られたのは僥倖であった。

「ところでランチっち……あの対戦、ホントに公開するッスか?」

 ショウタ君は心配そうな目でランチュウを見る。

「決まってんじゃん。あんな面白い動画、ネットに上げなくてどーすんのさ」

 ショタロリ団の初黒星を隠蔽するようなランチュウではない。

「テイムスキルを覚えた連中がランチっちを狙うッスよ?」

 戦闘開始からムチプリンの降伏宣言まで、睦美のプライバシーに関わる音声のみをカットした全容を公開する事になったので、クマ井さん連盟の真似をしてランチュウをテイムせんと試みる輩が現れるのは時間の問題である。

 もちろんフルダイブVRでもないヘスペリデスで、プレイヤーをテイムできる訳がないのは一般常識、動画に映ったランチュウのアヘ顔は演技か悪ふざけと思われるのがオチだろう。

 しかし、たとえただのネタであったとしても、百手巨人が新しい遊びにつきあってくれると公言するも同然であり、いずれショタ好きの腐女子パーティーや変態どもの襲撃に遭うのは明白であった。

 問題は味方もランチュウをナデナデできる点にある。

 現在、モフモフ超魔王国の参加希望者は65名。

 どうせ類友に決まっているので、美少年アバターをペットにしたがる変態どもの比率は極めて高そうだ。

「クマ井さん連盟をデモフレに預けて正解ッスよ」

 ランチュウの真なる敵は、むしろ味方。

 ならばせめて隔離しておこうとショウタ君は考えたのである。

 3人とはいえ貴重な女子プレイヤーがデモノフレンズに流れる結果となってしまったのは仕方がない。

「何の話だ?」

 パパーンはまだ迷宮の入り口にいた。

 今後の方針など打ち合わせを行うためである。

「思ったより頼りになりそうなクランって話ッスよ」

「お前ら羅刹を何だと思ってたんだ……」

 あきれるパパーン。

「修羅よりちょっと強い程度でしょうか?」

 素直な感想を述べるソルビット。

「ソルさん、羅刹は習得型プレイヤーの最高峰だよ? そっから上は個性と変態性で決まるってだけで、普通に強いは強いんだよ?」

「わかってますけど、みんな同じように見えます」

 ソルビットは珍しくランチュウに反論する。

「習得した技術を披露すんのが人類の対戦だからねえ。でもアタシらはもちろん妖怪級より上の連中は、同じゲームで別の遊びをやってるようなもんさ。根っこから違うんだよ」

 例として取り上げるなら、先日ランチュウが立ち寄った料理店【妖精の胃袋停】を営む妖怪級プレイヤーは、本来の機能にある調理レシピを一切無視し、素材の組み合わせで(外見だけは)リアル以上の料理を作るアレなシェフである。

 ムチプリンは敵を支援して背徳感を楽しむ変態だし、ショウタ君は残酷映像を撮り貯める変質者。

 それらに比べると、ソルビットは割とまともな方といえるだろう。

「対戦はみんな一緒だと思います」

「勝ち負けを基準にすりゃ、そうも見えるだろうよ。でもアタシたちゃ違うだろ?」

「……目立つため?」

 強くなけりゃ生き残れない。

 強いだけじゃ意味がない

 これもランチュウの教えである。

「そりゃアタシの目的だ。ソルさんのは何だい?」

「それは……」

 最初はランチュウのようになりたかったのだが、もはや多少似ているだけの別モノになってしまっている。

 では、いまの目的は何だろう?

「ま、おいおい見つけりゃいいさ。持っちゃいるけど見えてないだけかもしんないし」

「うちのクランに来てみるか?」

 パパーンが会話に割り込んだ。

「ドサクサ紛れに勧誘すんな!」

「いや、ソルビットは少し習得型のケがある。ちょいとうちの羅刹どもと手合わせすれば、何か得るもんがあるかもしれねえぞ?」

 パパーンはクランを名目に道場を開いていた経験から人材育成のノウハウが豊富で、その観察眼は確かなものである。

「ほほう……」

 ランチュウは少しだけ信じてみる気になったようだ。

 いや単に面白そうだと思っただけかもしれないが。

「そっか……よっしゃわかった、ソルさん出張! 我々の力のほどを見せてやれ!」

「ガァーッ! ……って、ランさんそれはないですよぉ!」

「ボクも行っていいかな? 回復魔法で訓練の効率を上げられると思うよ」

「オイラも撮影したいッス!」

 ムチプリンとショウタ君も参加を表明し、トントン拍子に話が運ぶ。

「アタシゃ見物」

「逃がしませんよ。ランさんもクランマスター……いえ超魔王として参加すべきです」

 ソルビットは道連れとばかりにランチュウの襟首を掴んで離さない。

「わかった、クラン同士の演習としてメニューを検討しよう。じゃあ俺も急がにゃならんし、これで失礼するよ」

 その場でログアウトするパパーン。

 再ログインでチェックポイントの宿屋に復帰し、クランハウスへと向かう近道にするのだろう。

「なんか忙しくなって来たッスよ~!」

 超魔王国のクランメンバーは予定通りのペースで増加中、同盟クランもできた。

 ヘスペリデスを緩やかな破滅に追い込む準備が着々と整いつつある。

「ショウタ君、次は何をするつもりなの?」

 ムチプリンがショウタ君に質問する。

 当面の目的は国家間戦争を想定した土台作りで建国もしたが、次に作るべきは敵国だ。

「プランはいくつか練ってるッスけど、まずは超魔王国の顔触れを確認してから決めるッスよ」

「人選はボクにやらせる気だね?」

 ランチュウは人間をやめた者にしか興味がなく、ソルビットはランチュウにか目に入らず、ショウタ君は死体の山と陰謀しか頭にない。

 戦争計画は同盟クランにも明かせないため、パパーンの審美眼もアテにできないだろう。

 どれだけストレスがかかろうとも、たとえ胃に穴が開こうと、モフモフ超魔王国に集まった人材はムチプリンが鑑定するしかないのだ。

「ショタロリ団を解散させようかと思ったけど、むしろメンバーを増やす必要がありそうね……」

 ただの団員ではなく、更紗とランチュウの事情を知る共犯者が必要だとムチプリンは思った。

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