第10話 新たな婚約、そして…

 お互いに気があると、告白したようなもので、その後はトントン拍子に、話は進んで行った。お互いの立場もある為、婚約だけはサッサと済ませましょう、ということになったのである。2人が言葉を交わしてから、そしてフェリシアンヌが正式に、ハイリッシュと婚約破棄となってから、、2人の婚約が成立したのであった。


周りの生徒達は、もう既に諦めモードだった為、王立学園の生徒ほぼ全員が、2人に対して祝福ムードであったのだ。婚約後、早速2人が一緒に登校すると、既に婚約したことを知っていた生徒達から、祝福された。顔見知りから、全く今日までに会ったことのない人までが、「ご婚約、おめでとうございます。」と祝福して来るので、カイルベルトもフェリシアンヌも、顔を見合わせて苦笑するしかなかった。


2人共、こんなに祝福されるとは、思ってもみなかったのだ。然もまだ昨日、正式に王家から受理されたばかりである。それなのに、登校した直後から、2人は一緒にいる時も、別々に授業を受けている時も、廊下ですれ違いざまに祝福されたり、態々彼らの教室に来てまで、祝福しに来たり、お昼に2人で食事する際にも、祝福を言いに来られたり、将又…お昼休みに、校庭の芝生の上で2人で話していれば、離れた場所から大きな声で祝福の言葉をもらったり、この日はほぼ1日中、祝福の言葉を言われていたのだ。


 「今日は…沢山の方々から、祝福のお言葉をいただきましたわ。正直、これほど大勢の方々が祝福してくださるなんて、思いもしませんでしたわ。こんなにも沢山の祝福をいただけて、わたくし…本当に、言葉にならないくらいに嬉しいんですのよ。」

 「…そうだね。本当に嬉しいよね。俺も…こんなに祝福されるとは、思ってみなかったよ。前世の感覚から言うと、まるで…みたいだよね?」

 「…!?………」


学園から帰る時も、今日は一緒に帰ることを約束していた2人は、アーマイル家の馬車に一緒に乗っていた。馬車の中では、完全に2人きりだった。だからこそ、2人だけの本音で話が出来ていた。フェリシアンヌが、学園での祝福ムードに、心の底から感激して、涙ぐみそうになるのを耐えていると、カイルベルトがのほほんとした口調で、爆弾発言を落としてくれる。


お陰で、涙ぐみそうだったフェリシアンヌは、驚き過ぎて涙が引っ込んだのであった。そして、彼女の顔が徐々に…真っ赤になって行く。誰が見ても。

結婚した後みたい…って。確かに…前世では、婚約なんてされるのは、ほんの一部の人達だけでしたし、婚約したと言いましても、どちらかと言いましたら、結婚の約束と同義でしたし…。そういうわたくしも、そうでしたわね?…ですが、流石に今世でそんな風に言われますと、恥ずかしい…ですわ。


カイルベルト自身は、深い意味がなかった様子で、フェリシアンヌの顔が赤くなったのを、首を傾げて不思議そうに見つめていた。意味が分からないと言うように。

…ううっ。カイ様って、天然タラシ…なのかしら?…前世の旦那様に…こういうところ、似ておられます……。


現在は、まだ2年生になったばかりのフェリシアンヌと、王立学園の最終学年となる、5年生となったばかりのカイルベルトとの婚姻は、フェリシアンヌが学園を卒業するのを待って、ということになっている。学園では結婚すると辞めなければならない、という決まりはないものの、家柄の家庭の都合で、卒業を待っていられない、という生徒もおり、そういう生徒達は結婚すると同時に、学園を辞めて行く。


年頃になった貴族の子供は、、入学することになっているのだが、途中で辞めて行くのは自由なのである。前世での義務教育とは異なるので、そこまでは強制出来ないのだ。それに、入学は義務と言いながらも、教育に関する物の援助は、国から一切ない。つまり、自分の家で用意することになるという訳であり、貴族と言えども生活が苦しい家の令息・令嬢は、辞めていくしかない。

まあ、今までそういう理由で辞めた生徒は、もうずっと昔とのことなのだ。


例の乙女ゲームの攻略対象者である、男爵家は…確かに貧乏ではあるのだが、学園に通えない程ではない。男爵領の民の税金を減税したり、男爵も贅沢していないだけのことであり、それを知らない生徒達は、貧乏だと思っているだけである。

結婚で辞めていく令嬢も、婚約者と年が離れているので、という理由が多い。

やはり結婚すると子供が出来る可能性も高く、この世界には避妊薬などがない為、仕方がないのである。だから現実では、結婚して辞めるか、卒業して結婚するかの2択となってしまうのだ。






    ****************************






 「カイル、アンヌ。婚約おめでとう。2人が婚約してくれて、私も嬉しいよ。」

 「カイル様、アンヌ様。ご婚約おめでとうございます。本当におめでたいですわね。アンヌ様のお相手が、あの元婚約者でなくて、本当に一安心ですわ。」

 「「ライトバル殿下、ユーリエルン王太子妃様。ありがとうございます。」」


カイルベルトの母親が、現王の妹に当たる為、彼と殿下とは従兄弟いとこの関係である。

殿下は今年22歳になられるので、殿下にとってカイルベルトは弟のような存在なのである。妹のように可愛がっていたフェリシアンヌと、弟のようなカイルベルトが婚約し、王太子である殿下も王太子妃も、ホッとしていた。あの…ハイリッシュではなくて。女癖のあるハイリッシュのことは、実はお2人共よく思っていなかったのだ。だから、婚約破棄を公の場でしようとした彼らを、許す気にはなれないのである。しかし、反対にホッとしても居たのだ。これで別の…真面目な婚約者を選べ直せると。それだけお2人にとっては、彼女は大切な妹であったのだ。


 「カイル、君はアンヌの何処が良かったのかな?」

 「私は、彼女らしい…ところでしょうか?…彼女と一緒に居りますと、とても温かな気分に…元気になれるのです。」


殿下が少し意地悪気に、カイルベルトに彼女を好きになった状況を、聞き出そうとされる。彼は真面目に報告して来るので、殿下は「…おっ?…カイルが…惚気ているのか?」と、驚いたご様子であり。王太子妃様は、目を輝かせて嬉しそうに身体を乗り出されて来る。そして肝心のフェリシアンヌは、彼の言葉に…真っ赤になっていた。バカ正直に言わないでくださいませ、という心の声が聞こえそうである。


 「…まあ、まあ。カイル様が惚気られるのを、初めて拝見致しましたわ。では、今度は…アンヌ様の番ですわね?…カイル様の何処がお好きなの?」

 「わたくしは……カイ様が時々、天然…他のおかたと違っておられるところが、その…とても安心出来るのですわ。もう…これ以上は、ご勘弁くださいませ…。」

 「まあ…。元婚約者で…男性に幻滅されたのですものね?…そうなのですね?…他のおかたと違うカイル様が、お好きなのね?…本当に仲が良いのですね?」


フェリシアンヌは、家族や王家の王族からは、『アンヌ』と呼ばれている。

学園等の親しい友人からは、『アンヌ』と呼ぶ者はあれば、『フェリーヌ』と呼ぶ者もある。カイルベルトの愛称は、フェリシアンヌが思っていた通り、『カイル』であった。『カイ』と『フェリ』呼びは今のところ、である。

というか…カイルベルトは、他の人間には呼ばせる気がないのだが。

フェリシアンヌはそのことには、今のところ全く気が付いていない。


カイルベルトは普段は天然のようでいて、実は学園での成績は優秀で、頭の切れも鋭い人物である。カイルベルトの父親は実は宰相であり、彼はその次代王の宰相候補でもある。天然なところもあるが、見た目通りではないのである。

しかし、フェリシアンヌとしては、ついつい…前世の旦那様と、重ねて見てしまっている部分があり、ただの天然っぽく感じてしまっているのだった。


勿論、カイルベルトは、フェリシアンヌの気持ちに気が付いていた。誰かと重ねて見ているのだと。それが…前世に関する人物だと。それなのに、彼は彼女にそのことを言うつもりはなかった。自分で気づいて欲しいと思っていたからだ。

何故なら、彼は…、だったのだから。そうなのである。

彼女が、前世の旦那様に似ているところがある、と思うのは当然なのである。


カイルベルトも記憶が戻った頃から、彼女が…自分の妻がいるのでは?…と、思っていたのである。しかし、乙女ゲームだと気が付かず、必ずしも妻が自分と同じように覚えているとは限らないと、探すのを諦めたのだった。その代わり…結婚はしないつもりであったのだ。彼も…彼女の存在が、どうしても忘れられずに…。


あの婚約破棄で、妻がお気に入りだった、乙女ゲームのフェリシアンヌだと気が付いた時、悪役令嬢がと、思ったのだ。前世の彼女は、フェリシアンヌがお気に入りキャラであったからである。あの黒髪と黒い瞳を、気に入っていた。それを確かめる為、彼女が1人になった時に、声を掛けようと近づいた。

タイミング良く、彼女は前世の言葉を呟いていた訳で。後は少し話を聞いているうちに、彼女で間違いと思ったのだ。やっと…彼女に…妻に、会えたと。


彼女にはヒントを与えたと言うのに、覚えていない様子であり、気が付かない。

然も、彼女とは幼い時にも既に、会っていたのだと気が付いて。…ああ。やはり、彼女とは縁があるのだと、カイルベルトは感慨深く思っていた。

、絶対に彼女を手に入れる、と決心したカイルベルトに、結局フェリシアンヌであった。




                【完】





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 ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

あともう少しだけお付き合い願えますと、嬉しいです。

9月に入りましたが、あと数回、更新予定です。


 フェリシアンヌとカイルベルトが、漸く婚約致しました。婚約後の経緯などのお話となっています。カイルの気持ちも語っております。カイルの正体は意外だったでしょうか?それとも…予想通りでしたでしょうか?


これにて、本篇は終了となりますが、番外編を追加しようかと思います。

取り敢えず次回は、登場人物の紹介(一覧表)です。人物を纏めたものです。

(筆者用でもある。)もう終了間際ですが、ご参考までにどうぞ。


※不便でしたので便宜上、王太子殿下と王太子妃、また各々の国名には、途中から名前をつけました。

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