君とアングレカム

優羽 もち

1 ゼジュービ

カクヨムで初めて書いた小説です。

よろしくお願いします。

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その昔、神帝には娘がいたという。

藍色の髪にコバルトブルーの瞳が神秘的な、幼いながらも美姫と謳われていた姫だった。その名をターニャと言う。

ターニャは好奇心旺盛だったらしく地上にあこがれを抱いていた。そんな彼女を神帝は目に入れても痛くないほどかわいがっていた-


ターニャが5歳のときだった。

急に彼女がいなくなったのだ。どこに行ったのかもなぜいなくなったのかもわからない。前日の夜はちゃんと天蓋付きベッドに眠っていたのに、翌朝見るとそこにターニャはいなかったのだ。もちろん神帝はそのことを知り非常にショックを受け城の一室に閉じこもってしまった。





ゼジュービはそんな馬鹿馬鹿しい噂を思い出してため息をついた。

ここは魔界で天界からは遠く離れているため天界に関する根も葉もない噂はよく流れる。

(そんなことホントな訳ないだろ…。そんなのが現実だったら今頃天界は滅びてるわ)

一筋赤が混じった長い黒髪を翻して、ゼジュービは上司である上級魔のウルダーシュのもとへと歩き始める。

ゼジュービは中級魔で、魔界と地上の狭間で死んだ魂を裁く仕事をしている。たまにウルダーシュに資料の整理など雑用を頼まれることはあるが、いい加減雑用の手伝いはやめたい。


「おう、ゼジュービ。いつもすまんが今日はこの資料整理してくれ」


ウルダーシュが相変わらずでかい声で言う。

そこには何やらいろいろ書かれた資料が山積みされていた。

(さすがに多くないか?)

こんなんじゃ午後の仕事に間に合わないじゃないか、とゼジュービは目を伏せる。


「…わかりました」


仕方ないなーと資料を手に取り簡単に目を通し、机のファイルに閉じていく。

(ん?)

何枚目かの資料を整理しているとき、手が止まった。

その資料には新たな彩波さいはの発見について書かれていた。

彩波とは天使と同じような能力を持ち、人間だが人間と扱われないものだ。


「新たな彩波 れい

 危険度 Z

 この者は今監禁状態にあり、後に追放とする。」


(結局のところ差別的な絶対悪の発見か)

ゼジュービはあまり彩波という言葉が好きではない。

叩きつけるようにその資料を机に置こうとすると、後ろで何か書き物をしていたウルダーシュがひょいとのぞき込んできた。


「あーその彩波。あとで説明されると思うよ~。危険度 Zといえば世界滅ぼせるレベルだもんね…。その彩波、知らんけど天界人の特徴も持ち合わせているらしいし」


(天界人の特徴も持ち合わせているだって?天界人が彩波の能力を植え付けられたということか?)

ゼジュービは眉を顰めた。そんな事例は聞いたことがない。

(まぁそんなこともあるのかな…。面倒臭いことには関わりたくない)

そう割り切ろうとしてもゼジュービの好奇心がそんな気持ちを上回り諦めきれない。

(あーもう)

無理矢理彩波のことは頭から追い出して作業を続ける。


「それにしてもこれ多くないですか…」

「まぁまぁ。これ全部俺が整理するの大変だろ?あーあ。彩波ならあの能力でこんなのちゃちゃっとできるんだろうけどな」


(やっぱり彩波に話がつながるのか)


「ウルダーシュ様っていつもこんなことしてるんですか?」

「そんなことはないよー。ゼジュービだってずっと魂裁いてるわけじゃないだろ?」

「いや、ずっと魂裁いてるんですけど」


間髪入れずにゼジュービが言う。


「…」

「いいですよ、聞かなかったことにします」

「ゼジュービって怖いよな…」


ウルダージュが苦笑する。


「えっ?そんなことないと思いますけど?」

「そういうところも怖いんだよ」


そんなどうでもいい雑談をしながら山積みの資料を全部整理したころで昼休みが終わり周りの魔界人たちが次々と帰っていく。


「昼休み終わったので帰っていいですよね?」

「はいはい。わかったよ俺頑張るよ…」


悲しそうなウルダーシュを置いて仕事場へと戻ろうとすると、最近よくつるんでいるデアナに呼び止められた。


「ゼジュービゼジュービ、なんか上級魔のアルト様が集会室に収集かけてるっぽいから一緒に行こー!」

「そうなの?じゃあ行こうか」


(何かあったのか?それか彩波の件か?)

そわそわと小さな体をふるふるさせているデアナの腕を掴み、ゼジュービは集会室へと歩き出した。

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