1-24 合法的新人いびり
「ほらやっぱ当たってた! やっぱりあのとき逃げるべきだった!」
「グチグチ言わな~い! ダイジョ~ブだから! 当たっても大怪我するだけで死にはしないから~! ……多分」
「聞こえたぞ! 後から付け加えた不穏な二文字をオレは聞き逃さなかったぞ!」
全力疾走で大地を駆け抜けながら、ジンは己の不運と周囲の有害性をこれでもかと嘆きまくる。
「大体、見るだけだったらこんな危険なことしなくてもいいじゃないですか! やるならせめて模擬戦用のにして下さいよ! そんなに新人いびりが楽しいか!?」
「人聞きの悪いこと言うな~! これは立派な能力測定~! 動き回ってくれた方がより精密なデータが出るもんなの~!」
「じゃあ尚更この飛んでるやついらないじゃないですか! オレ適当にジョギングしますから、それ見て測ってくださいよ!」
「……ほら~、兵器の動作テストも出来て一石二鳥じゃ~ん? 一応メンテはしたんだけど、ライトの電撃でどっか故障してるかもだし~」
「アンタ絶対そっちの方が本命だろ!」
ジンが先輩に敬語も忘れて叫び散らしながら避けるソレは、物理法則を無視して宙を駆ける、人一人分の大きさを誇る大剣。
文字通り縦横無尽に空を疾るその剣は、アリサの矢には劣るものの、法術士でさえも知覚するのがやっとの速度でジンに襲い掛かっていた。
「くっ、やりにくい……!」
速度だけ見れば、ジンにとっては十分に対応可能なものだが、驚くべきはその
綺麗な弧を描いて向かってきたかと思えば、寸前での急停止からの上下左右への自在な軌道変換。
こちらの意表を突く予想だにしない大剣の動きを前に、ジンは苦戦を強いられていた。
正直アリサの矢の方が恐ろしく速くはあるのだが、馬鹿正直な直線攻撃だった分まだ何倍もマシに感じられる。
「は~い。じゃあそろそろ二本目追加していくよ~」
「鬼かアンタは!」
しかも最も驚愕すべきは、この意のままに宙を切り裂く大剣は、計七本からなる魔法兵器の一部でしかないという事実。
一本だけでここまで苦戦を強いられているのだ。もし七本全てが同時に襲い掛かってこようものなら、僅かな抵抗も許されずに切り刻まれるに違いない。
一見、ただのしごきにしか見えない図ではあるが、実はこれ、エミリアの言った通り歴としたジンの能力測定なのである。
『固有系統』。そう呼ばれる系統術式が存在する。
六の元素に分類される基礎六系統とも、その上位系統と位置付けられる特異三系統とも異なるカテゴリーに分類されるその系統は、その名の通り『生まれつきその術者のみが扱える独自の魔法系統』なのだ。
確率だけで言えば、法術士の素質を秘めた者の中でも、更に数百人に一人が持って産まれるレア系統。
その種類は幅広く、過去数十年に渡って記録された固有系統はピンからキリまで様々なものが揃っている。
「何度も言わせな~い! ワタシの“
「もう十分激しく動いてるから! これ以上はいらないでしょどう見ても!」
「普通ならそうなんだけどね~? ジン君の身体ってちょっと異常なせいか、解析に時間が掛かっちゃって~。もう三十分はそうやって動き回ってくれな~い? あ、二本目いくよ~」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおッ!」
追加されるのは、ジンが避けている大剣と瓜二つの代物。
増える凶器。倍増する襲撃経路とその手数。
以後三十分。大剣が計四本まで増え、ジンの疲労がピークに達するまで、この地獄は続いていくのであった。
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