私からすると、変わり者なのは弟だった。唯一の肉親である弟のことは、ついにまったく理解できないままとなってしまった。

 弟は寡黙で、人付き合いが苦手だったようだ。そういうところは私と似ているのだから、その気になればわかり合えたのかもしれない。しかし、私たちが子供の頃に両親が事故死し、それぞれ別の親戚に引き取られてからは顔を合わせる機会も年に一度あるかないかで、私にとって弟の存在は希薄というほかなかった。

 私を引き取った親戚は子供がなく、最初の頃は可愛がろうと努力してくれているのが伝わってきたが、いつまで経っても暗く可愛げのない態度を崩すことができない私に次第に辟易してしまい、ついに打ち解けることがなかった。

 弟を引き取った親戚にはすでに男の子がいたようだ。私を引き取った親戚が、私たち姉弟をまとめて引き取ることには難色を示したため、男の子であればと弟を引き取ってくれた。

 最後に弟と会ったのは数年前。洗濯機が壊れたから貸してくれと言って、弟が突然私のマンションを訪ねてきたのだ。弟が配管工となり、一人暮らしを始めたのが偶然にも私の住まいの近くで、引っ越しの時に一度会ったが、それ以来は一度も会おうということにはならなかったのに。

 弟は一見、その前に会った数年前となにも変わらないように思えた。しかし、サマーニットからのぞいた手の甲に、私は以前にはなかった青黒い模様を見つけた。

 私がそれを指摘すると、弟は袖をまくり、手から腕全体にかけて入れられた刺青を見せてくれた。

 それはひとつながりの植物のようでも、様々な紋章の集まりのようでもあった。一色であるものの、濃淡があり、まるで浮き上がっているようにも見えた。まったく既視感がなく、国名も知らない外国の古い壁画を見たような気持ちになった。なじみがなさ過ぎて、審美すらできない。

 私は、刺青を間近で見たこともなければ、弟が刺青を入れる可能性を考えたこともなく、そのデザインにも理解が及ばなかったので、衝撃を受けてしまった。それを態度に表し、受け入れがたいということを無言で伝えてしまったのだと思う。

 弟は、腕だけじゃなくてほかにも入ってるんだよね、とまるで義務のように言い、袖を戻すともうなにも言わなかった。

 それから約一年後、弟の職場から、弟が姿を消したという知らせを受けた。


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