◇第43話◇こころ

 朝、末っ子が学校に行くのを見送ってホッとして、こうしてPCの前。


 長い長い一日から色々あったけど、とにかく末っ子は、やっとまた山を一つ越えようとしている。


 多分、兄弟の中では一番、口が重いというか不器用で意地っ張り。

 だから、自分の気持ちが自分でも上手く伝えられなくて整理できなくなると、それが他からみて気にするようなことではなくても、パニックになってしまうんだと思う。


 先生とも、そんなお話をした。

 加えて、わたしの状態も改めてできる限りお伝えした。



 夫が亡くなった時に実家に帰ってきなさいと親からは言われたけれども、子供達の学校と友達関係の事を考えて此処に留まった。

(それでなくともショック続きの中、慣れた環境まで変えるのは、あまりに酷いと思った)

 結果的に、それでやっぱり良かったと思っている。


 前後のことについてや、それからの流れについて、少なくとも継続して学校側は知ってくださっているから。


 ◆


 昨日、心がほどけて口を開いた末っ子は堰を切ったように甘えてきた。


 わたしは敢えて一連のことは言わずに、ただ受け止めた。

 大盤振る舞いでピザを頼んで、一緒に食べて、膝に抱っこしながら、お気に入りのビデオタイム。

 何度も繰り返し、ちゅーして、ぎゅうう。

 挙句はトイレの後、ズボンとパンツ持ってきて「穿かせて~」


 勿論、穿かせましたとも。

 自分でも照れたみたいで「甘えたい年頃なんだもん」って末っ子。


 うん。なんかね……わかる気がした。

 安心したいんだよね。

 大丈夫だって。 そして、だけど、そういうのは、何回確かめても受け止めて貰っても、それで終わりにはならない。

 何回だって確かめたいし、答えて欲しいもんね。

 大好きな相手には特に。


 大人のお母ちゃんだってそうだもの。

 何かの拍子に不安は暴走してパニックになる。

 泣きそうになる。


 子供の心は、とても柔らかくて脆いから尚更。

 だから、思いっきりあまあまな日があってもいいよね。

 何度でも何度でも「大丈夫だよ」って抱きしめてやることって、必要だと思うから。


 でも、それとひたすら溺愛して、ただ何でもいいというのとは別。


 とても難しいと思うし、子育てには明確な正解も不正解も無く、その時々で試行錯誤していくしかないけど、その時にできる自分の全部で向かい合うことだけでも、せめてしていけたら。


 親として、沢山の間違いや失敗はあるだろうけど。

 でも、

 それだけ、

 それだけでも。



 下二人に関しては、まだ気は抜けないし、安定するまでには越えなければならない山は、まだまだあるだろうけど。

(しかし、今、それ考え出すとクラリと眩暈がしそうになるから考えないように)

 とりあえず、一息ついて身を横たえよう。



 明日は総合病院で月一の定期検査の日。

 他の病院もまわって薬を貰ってこなきゃ。



 何とか今回も乗り切ることができた。

 そういいながら次の瞬間に、また大きな波がきて、あっぷあっぷしたりするんだろうけど。


 何とか……何とか……でもね。


 何とかして……ね。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


*この頃のこと*


現実はシビアでして、落ち着いたかなと思ったら、また止まったり後ずさりしたり。

心なんですもんね、機械みたいに割り切れるはずもない。


正しいのか間違ってるのか、甘やかしすぎなのか、厳しく突き放すべきなのか。

色々、周りからも言われました。

そして、わたしにも正解なんてわかりませんでした。

多分、今でもわからないです。

時にはブレもしたし、迷走もしましたし。


ただ、とことん受け止めてやりたいと思いました。

一緒に泣いたり笑ったりして、一人ぼっちじゃないよ、と言ってやりたかった。


10数年は長いようで、あっという間でもありました。


芯の部分に優しさをちゃんと持った大人になってくれたと思います。

長い人生、この母の子供なので、要領よく人生を渡ってはいけないかもしれない。

まだまだ、迷いも回り道もするだろうけど。

大切なものだけ見失わずに、しっかり抱えて生きて行ってくれるなら、何もいうことはありません。


わたしは、ただ灯台守のように、ここで幸あれと祈るのみです。。。

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