◇メッセージ◇ ” 親の心 子の想い ”

──いつの日か……この日記を読むかもしれない3人の息子達へ──


******


この日記を君たちが読むことがあるのかどうか、わたしには、わからない。


ただもしも、読むことがあっても、それがずっと先であることは確かだと思う。

それは、わたしの生死に関わらず。


その頃の君たちは、それぞれ、どんな大人になっているんだろう。

その時を、この目で見届けたいと思ってはいるけれど、こればかりは ” 神のみぞ知る ” だものね。



この日記を読んでその時、君たちはどう思うんだろう。


かなりのヘタレっぷりだし、赤裸々な心情満載なので、呆れたり、ショックを受けたりすることもあるかもしれない。


でも、それでもいいと思っている。

その時の君たちが感じるままに受け取ってくれてかまわない。


ああ、お母さんもこんなにヘタレたり、泣き言書いたり、ダメダメだったんだなぁと思ってくれれば。

そう「親っていっても一人の人間であることに変わりはないんだな」

って感じてもらえたら、きっと、この日記もわたしも嬉しい。



少しだけ……親と子の話をしてもいいかな。


これは……

” わたしと君たち兄弟 ” の親子と、

” お祖父ちゃんとお祖母ちゃんとわたし ” の親子それぞれの話。


わたしはねぇ、一人娘だったので、これでもかなり厳しく束縛されて育ったんだよ。

お祖父ちゃんは家庭、家族第一の人だけど、その思い入れが強い分、自分の ” こうでないといけない ” というやり方で、わたしを育てた。

転ばぬ先の杖だったし、常に管理されていた。

我が子に失敗という傷を負わせたく無かったんだろうね。


お祖母ちゃんは、お祖父ちゃんよりも大らかではあったけど。

それでも、わたしは無邪気というよりも、変に大人びた子供だったと思う。


期待を裏切らないこと、大人の望むいい子でいることが常に頭にあった。

子供同士の付き合いは、そのくせ下手で。

だって、どう接したらいいのか、わからなかったから。


一時はかなりの、” いじめられっ子 ” だったよ。


教室で一人、ぽつんと孤立。

酷いあだ名つけられたり靴とかランドセル隠されたりとか。

先生の対応なんかも、もっと大雑把だった時代で、今なら大問題になるようなことも当たり前のように放置されてたりで。

 

でもそのおかげで、周囲の空気を読むことには自然と長けていった。

過敏なほどにね。


それと……その頃から、しぶとかった?のかな。

苛められる自分の中の要素を無くしてやろうって思ったの。


視力悪いと無意識にモノを見る時に目を細めるでしょ。

それが癖になっていて瞼の筋力が弱くなってたんじゃないかと思う。

他人から見たら、目つきが悪く睨んでるように見えたらしいのね。

だから、目を大きく開く練習を毎日鏡の前で、した。

これは小学生の頃だけど鮮明に覚えてる。

我ながら、その努力の甲斐あってか、瞼に筋力がついて普通の状態でも、しっかり目を見開いていられるようになった。


本格的に変わったのは中学校入学からかな。

新しい環境になったのは、何より大きかったと思う。

目を細めて見る癖も、ほとんど治っていたし。


周りに溶け込む術。自分を守る垣根。

でも、それと周囲には悟らせないように。


目立たなかったけど、普通に友達もできて、もう苛められることはなくなってた。


元々、そんなに人とつるんで何かをしなくても平気な方だったし。

考えたら、う~ん……変に醒めたようなヒネた子だったなぁと思うけど。


でも親とか先生って絶対なものだって刷り込みは強くあった。

言うこと聞いていれば間違いはないんだから、って

これは親に散々言われてきたことでもある。


弊害は自分の行動に対して常にOKを出して

貰わないと安心できなくなってしまったこと。


このことで後々大人になってから随分と苦労したよ。

失敗が怖くて、その手前でリタイアしてしまう。

頑張りすぎて完璧にしようとして、それができないと、もう自分はダメだと思って自滅する。

そして余計自分を信じられなくなる。


今ならわかるけど失敗はできるだけ沢山した方がいいんだ。

失敗して痛い目にあって、そして、それから自力で立ち上がれた時に、それが自信になって、自分を支えてくれる。



君たちも、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんが

人一倍、愛情に溢れた人たちだというのは感じてくれてると思う。


でもこれも今だからわかるけど、失敗やケガをさせないようにすることは、必ずしも子供にとってはいい事じゃない。


型に、はめ込まれすぎてしまうと、子供の方はどんどん息苦しくなるし、子供自身の自分で生きていく為の力が育たない。


少なくとも、わたしはそう実感してる。

未だにその呪縛に苦しめられてる部分があるから尚更。



だから君たちには、とにかく、

” ~でなければいけない ” 的なプレッシャーはかけたくないと思って接してきた。

これが完全な正解だとは思っていないけど、自分がそれで苦しかった分、親になった時に子供に対して、自由に羽ばたける心と生きていく為の精神的な逞しさを持てるようになって欲しいと思った。


わたしのような、籠の鳥じゃなくてね。 




でも、ここで矛盾かもしれないけど 親になってみてわかった親の気持ちというのもある。


少なくとも母親は大なり小なり、あの激痛(男性ならショック死するとさえいわれる)に耐えて我が子をこの世に産み落としてるわけで。


そんな我が子が失敗したり痛い目にあうのをやっぱりできれば見たくないと思うのもまた親の心。

束縛系の親って確かに方向は違ってしまってるかもしれないけど、それだけ、愛情が深いとも言えるんだよ。


子供って結構残酷で、感情コントロールできなかったりすると、死ね とか平気で口に出しちゃう。

” ウザイ ”とか ” 産まれてこなきゃ良かった ”とか、そりゃもう「あの産みの苦しみ、いっぺん味わってみるか?!」って言いたくなる……よりも、なんていうかもう、がっくりと膝つきたくなるようなこというよね。



全部の親が、そうとは言わない。

そんな、全人類性善説を自信もってぶち上げられるほど、わたしは世界を知らない。


だけど、少なくとも子供から死ねとか、一時の感情から出た言葉でも言われたら、そりゃショックだよ。


親も人間だからね。


たとえば方法間違ってたとしても、子供からしたら見当違いでも、必死で子供の為なら死ねるとか思っちゃってたりするから。



わたしがお祖父ちゃん、お祖母ちゃんと対する時、いくら歳をとっても、わたしは子供。

だからね、子供の気持ちも、わかる。


もう中年って言われる歳なんだよ。

いい加減、呪縛解いてよ~!とか、人間失格みたいな言い方やめてよ、とか思うもんねぇ。

なんで、かたくなにわかってくれないんだろう、今のわたしに逆効果なことばかりしたり言ったりするんだろうとかもね。



でも、今、親として君たちに接する時に、子供の想いを知りつつも、親の、愚かかもしれないけど、愛しさの詰まったその心を思い知るんだ。



子供に感情があるように。


親にも感情がある。



親だって間違いもすれば迷いもする。生身の人間だってこと。


昔の?親っていうのは、そんな自分の弱さみたいなものを見せたくない美学みたいなのがある人が多いように思う。

だから余計に拗れたりしちゃうのかもしれないな。



お母さんね、今なら、お祖父ちゃんは決してスーパーマンでも間違いを全然しないわけでもないこと、わかるよ。


それは反面、とても寂しいような心細いことなんだけどね。



むしろ、歳をとるごとに、わたしは理想の娘像からどんどん離れていってしまった。

誰よりも幸せに、と願ってくれた両親の夢を粉々にしてしまった。

だから、今も、微妙に関係は拗れてる。

この捻じれは、もう戻らないのかなと思うと辛くもある。



でも わたしは、わたしの両親を、やっぱり愛してる。


人生の苦さを両親の育て方の、存在のせいするようなことだけは、したくない。

これは、わたしの問題だから。



理解のないコトバで深く傷つけられても、それに気づいてすら貰えなくても、ずっと最期まで、籠の鳥のままだとしても。




うまくいえないんだけどね。



わたしは親を振り切れなかったけど、それでも、後悔はしてない、いや、ちょっとはしてるか?(笑)



君たちはわたしを振り切ってくれてかまわない。

いや、完全には、ちょっとさすがに寂しいけどさ(笑)



自分の人生は自分のもんだ。自分が選べばいい。


親ってのはね、最後には振り切って踏み越えて往くべきものなんだと思う。

たとえ、ぎゃーぎゃーわーわー喚いててもね。

踏み越えられて、遥か後姿を見せる我が子に毒づきながらでもエールを贈ってるんだよ。



何かあって、助けてと思う瞬間……


無意識にひとが呼ぶのは 

”おとうさん” ”おかあさん” だったりするんだって。




それだけで、充分なのかもしれないね。


親も


子も。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


*この頃のこと*


色々な心の葛藤がありました。

そしてこの思い、今も変わっていません。

だから、これは今でも(読まれなくてもいいから)子供たちに遺しておきたいメッセージです。

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