第8話 地獄耳

 外に出ると、昼間猫耳ウェイトレスさんが教えてくれたカイナクチナに向かった。場所はマップで妹が調べてくれていた。


 カイナクチナに着いた、外観は少し古いけど、おしゃれなレストランという感じだった。


 中に入ると、いらっしゃいと少し体格のいい女将さんが声をかけてきた。店内にはちらほらお客さんが入っている。見ると、見慣れた獣人のお姉さんもいた。


「あ、セーカさんだ。」


 妹が猫耳ウェイトレスさんに気付いた。猫耳ウェイトレスさんは今はウェイトレスの姿じゃなくて、私服姿であった。


「あ、章子ちゃんとお兄さん方、こっちの席にどうぞ。」


 セーカさんもこっちに気付いた。僕たちはセーカさんとおなじ机を囲んで座ることにした。


「待ち合わせしてたの?」


 お兄ちゃんが僕に聞いてくる。


「してないよ。」


 していないはずだ。ここで会ったのは、偶然だろう。


「セーカさんも来てたんだね。」

「私はここの常連ニャ。」



 女将さんが席の近くまでやってきた。


「セーカが昨日話してたのこの子たちの事かい?」


「そうニャ。」


「こんなかわいいお嬢ちゃんが迷宮に入っているなんて、確かに危ないねぇ、お嬢ちゃん、うちの店で働かないかい?こういうかわいい看板娘がちょうどほしかったところなんだよね。」


 女将さんは章子の方を見て言った。章子は困惑している。


 僕はどう反応すればいいのか考えてしまった。妹は危険な迷宮に入るより、ここの安全なお店で働いていた方が幸せなのかもしれない。迷宮は僕とお兄ちゃんの二人で頑張ってクリアすればいい。お兄ちゃんを見ると、おそらく僕と同じ考え事をしているのではないかと思う。


「でも、私、お兄ちゃん達となるべく一緒にいたいから、働くのは無理です。」

 妹は言いづらそうに断った。


「お兄ちゃんたちもまとめて面倒見てあげられるけど、何か事情があるんだね。気が変わったらいつでも働かせてあげるから言うんだよ。さて、注文は何にするかい?」


 女将さんは残念そうになった後、明るく切り替えると注文を聞いてきた。


 何がおすすめなのか、猫耳セーカさんに聞こうと思って、セーカさんの方を見るとセーカさんが少し残念そうな表情をしているのが分かった。


「セーカさん、おすすめとかってありますか?」


 僕はあまり気にせず聞く。雰囲気がすこし悪くなったと感じたときは、それに気づかないようにするのが一番いい雰囲気の盛り上げ方なのだ。


「ああ、カイナさん、今日のおすすめ4人分お願いするニャ。」


「はいよ。」


 女将さんは席を離れ、厨房に向かった。


「もしかして、これって、セーカさんが仕組んだこと?」


 章子がセーカさんに向けて言った。


「セーカさんってすごい耳良いんでしょ。獣人って耳が良いって図鑑に書いてあったよ。私達の話聞いてたんだね。」


 そうか、猫耳は飾りじゃなかったか。もしや、ギルドの中での会話はほとんど聞かれてたのではないだろうか。ギルドの中ではどんなこと話したか、細かくは思い出せないが、重要なことも話したような気がする。


「ばれましたかニャ。不自然なほどに世間知らずな三人組が迷宮に入って行くので、心配になってしまったのニャ。お兄さんは私の力を見抜く特殊な力を持っているようですが、あまりに無知すぎニャ。近い将来死ぬ匂いがしますニャ。章子ちゃんはまだ小さいので、助けてあげたかったんですニャ。余計なお世話だったようですが。」


「そうだったんだね、心配してくれてありがとう。」

「ニャハハ。」


「あー、セーカさんの実力を勝手に覗き見るようなことして、すみませんでした。」

 お兄ちゃんが謝罪する。


「そうですニャ、乙女の過去を探ろうとするなんてよくないですニャ。まぁ、謝ってくれればそれでいいです。そういえばお兄さんたちの名前は?」


「俺は和樹です。」

「僕は幹太です。」


「カズキさん、カンタさん、章子ちゃんの事守ってあげてくださいニャ。」

「分かってます。」


 兄は力強い口調で言った。僕は無言で答える。


 僕は分からなかった。どうして、セーカさんが会ったばかりの僕たちの、特に章子の心配をしてくれるのか。不思議だ。


「私そんなに守られてばっかりじゃないよ、ちゃんとお兄ちゃんのこと守ってあげれるから。」


 妹が胸を張って言った。


 そんな会話をしていると料理がたくさん運ばれてきた。料理は刺身中心の料理だった。美味しかった。

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