第11話 最果てからの依頼

 最果ての第3砦が破られてから2ヶ月、死者は28名行方不明者は19名と全土に知らせが入った。500年間なかった砦の崩壊に巡回者たちの間にも不安の色が見えた。

 一度に47名の巡回者が命を落としたことは過去150年なく砦の崩壊と共に大きな話題となった。


  北の果からはローデン・マストレイが亡くなった。 彼が宿を出た日は彼の誕生日だったらしい。


「フィリップさん行って来ます」

「気をつけてな」


 急遽最果てに招集がかかり、人が少なくなったフズヤグは、ここ数ヶ月静かに朝を迎えていた。

 

 最近は巡回と共に、木材や鉱石といった資源を持ち帰るようにと指示が出た。そのため少し大きなソリを巡回者達は引いて歩いている。


 巡回者は星の加護を受けており普通の人間よりも頑丈になる。そのため僕の用な体でも多くの資材を持ち帰る事ができた。


「お疲れさまです」


 拠点の扉が開き持って帰った資材を指定された場所にソリと共に置いておく。不思議な事に次の日の朝にはソリの資材はすべてカラになっている。


「戻りました」

「コル、今朝方お前に本部から手紙届いた」


 赤い封筒をフィリップさんから受け取る。

 本部は誰がどこの巡回を行うのかがわかっているらしい。そのため極稀にこうした依頼が手紙で飛んでくる。



「最果て関係の依頼だろう。なんと書いてある」

「ミスリルの採取です」

「そんなところだろうな。巡回石を確認したか?」

「まだしてません」


 フィリップさんも予想していたのか、受付のカウンターにミスリルのピッケルを取り出す。


「次はリーゾ鉱山かメルロポンティ鉱山の地下だな。これまた遠いな。しばらくここには帰って来れん。コル、部屋の荷物は全部持っていけ。拠点替えだ」


「わかりました。ありがとうございます」


 ピッケルを受け取り部屋に帰った。

 地図を広げて巡回地点を確認する。北の果の人が減ったので休みが少ない。


 第2区画を抜け第1区画に向かうように、浄化地点が続いていた。第1区間に到達するまでには半年かかりそうだ。


 今年は難所を5つ回る事がこの時点で不可能になった。

 第1区画の巡回者達がミスリルを採ってこちらに送ってくれればいいのだが。管轄などあってないようなもので、星に導かれている者が向かうしかない。


 砦の防壁にはミスリルが大量に使われる。不浄石にの攻撃に耐えれる素材はこのミスリルしかない。星命石の近くの鉱石が星の加護を受け変異した物がミスリルだ。


「飯をちゃんと食え、お前の細腕ではミスリルがとれるかどうか心配だ」

「寂しくなるわね。気をつけてね、コルニット」  

「行ってきます」


 翌日の暮れにフズヤグを出発し、新たな拠点となるボルンを目指した。




 コルニットがフズヤグを発つ1月前、フズヤグにて。


「ククリス、指名の依頼が届いた」

「あたしに?」


 赤い封筒を受け取り、ククリスは強引に破り開封する。


「何と書いてある?」


「……ミスリルの採取」

「どうした、やけに嫌そうだな。最果ての招集から漏れたのがそんなに残念だったか?」


 ククリスは不満オーラを発しながら、依頼の書かれた紙をくしゃくしゃに丸めて、受付横の小さな木製のゴミ箱に投げ入れた。


「そんなわけない。あたしは強い。…………ただ。」

「アッシュリアの事か?」

「ボルンに滞在中」


 ククリスのため息をフィリップは心配そうに聞いた。


「そんなに嫌か」

「過保護」

「無関心より悪くない」

「私の師は無関心でない。厳しいだけ」

「お前の師を無関心だと言った覚えはないが」


 ククリスはフィリップを睨む。


「ほれ、採掘用のピッケルだ。坑道をぶち抜くなよ。生き埋めだぞ」

「そんなへましないから」


 ピッケルを受け取り、フィリップの顔も見ずにククリスはたった。


「かわいげが無いのは、誰に似たのやら」


 フィリップはククリスの師のことを思いながら、メガネを拭き始めた。

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