第35話 初めて好きな人の話をしました
「弥生ちゃん、さすがにその格好はないと思うの」
中学の創立記念日とかで金土日の三連休になった麗が、何故か尊のアパートではなく弥生のアパートに泊まりにきていた。
地元はギリギリ通えるか通えないかくらいの距離だし、比較的ちょくちょくと麗はこっちに泊まりに来ており、来た際には一日は弥生のとこに泊まるくらいにはなつかれていた。
熊友……と言うべきか、いまだに麗の熊好きは変わらずだったが、最近は小物にワンポイントくらいにおさめており、見た目美少女の麗は、もっさりとした弥生とは別次元の存在にも思われるも、年齢を超えた友情が存在していた。
「駄目……かな? 」
弥生の部屋着は高校の運動着で、化粧っけのない顔に、黒々とした洒落っけのない髪は二つ結びに、ちなみに下着はいまだに熊さんパンツの弥生は、目の前の美少女と自分との違いにさすがに恥ずかしくなる。
手入れの行き届いた黒髪は手の込んだ編み込みのハーフアップに、まだファンデーションも塗ってない素肌はキメ細やかで毛穴も見えずニキビ知らずだ。眉は形良く整えられ、睫毛は長くクルンと上向きにマスカラのみ塗っているらしい。唇はプルンと薄桃色に光っているのは、グロスのみのせているのだろう。部屋着も淡いピンクの上下セットの可愛らしいもので、ハーフパンツから伸びる素足はツルッツルだ。
片や女子力振り切れ200%、片や女子力底辺からマイナス。そりゃ指摘されればいたたまれなくもなろう。
「弥生ちゃん、女子大生ってもっとキラキラしてるもんじゃないの? そんなんじゃ彼氏できないよ」
「彼氏なんて……」
一瞬賢人の顔が頭をよぎり、弥生は僅かに頬を染めて視線をキョドらせる。
そんないつもとは違う弥生の反応に、麗は驚いた表情で弥生に詰め寄った。美少女は匂いまで麗しく、同性とはいえクラクラしそうになる。
「え、嘘ッ! 弥生ちゃん、好きな人できた?! 大学の人? 」
「大学……まぁそうだね」
ほぼ生まれた時からご近所さんで、経歴もほぼ一緒であり、学部は違えど同じ大学なのだから、大学の人で間違ってはいない筈だ。
「どんな感じの人? 見た目は?性格は? 」
前のめりな麗は、恋ばな大好きな女子中学生である。そして恋愛に関しては自覚したばかりで中学生レベル……もしくは小学生レベルの弥生は、初めて自分が好きになった人について話さなければならない状況に、もういっぱいいっぱいで考えただけで顔が真っ赤になっていく。
「見た目は……凄く良いです。背も高いしスタイルも良いし、顔は芸能人にもいないくらい整っています」
「ってか、うちの兄貴よりいい男? 」
尊は高三の時にかなり身長が伸び、骨格もかなり男らしくなった。知り合った時の可愛らしい見た目は女性的で、ボーイッシュな美少女みたいだったが、今では中性的な見た目のかなりなイケメン君だ。まぁ、性格がシスコン全開なので、見た目だけで近寄ってくる女の子はいるものの、話すとドン引きされてしまうらしい。
「うん。タイプは違うけど、今まで見た中で一番かっこいいと思います」
「今まで見た中で? 」
麗は考え込むようにうつむいた。そんな麗の様子にも気づかず、弥生は全身真っ赤にさせ賢人のことを考える。
「勉強もできるし、運動神経もいいと思います。性格は……俺様な感じできついかな。でも、友達は多いから嫌われるタイプではないと思います」
「なんか……そんな人知ってるかも。天上天下唯我独尊みたいな奴」
「あ……あ、うん、それで正しいかも」
尊の妹の麗は、賢人の存在ももちろん知っている。
そして、そのせいで弥生が虐められてきたことも。
「何だってまた? 」
「何で……かな。突然自覚してしまったというか……他の子と手を繋いでるの見て、心臓が痛くなって。でも、私の心臓に不都合なところはなしとお医者様に言われまして」
「医者に行ったの? 」
弥生はこっくりとうなずく。
「だって、本当に心臓が痛くてギュッてなって、病気かと思ったんだもん」
「……何それ可愛い」
麗は口に手を当て、フルフルと震えた。
「だって、あの有栖川君ですよ? できれば近寄りたくなかった有栖川君ですよ? まさか好きになってるとか思う訳がない! 」
「ああ、やっぱりあの男な訳か」
バレているとは思ったが、自分から誤暴してしまったと、弥生は両手で顔面を覆う。
「で、もう付き合ってるの? 」
「ま、まさか! 」
「何で? 弥生ちゃんがあの男にコクれば一発OKじゃん。あの男、弥生ちゃんかそれ以外としか人間を認証してないよね。小学生だった私にも嫉妬してくるくらいだったもん」
麗が何度か弥生の実家の部屋に遊びに行った時、窓のカーテンを開けるといつも賢人に遭遇していた。しかも、小学生に向けるかその視線? というくらい、威圧的で独占欲にまみれた強い目で睨まれ、麗はわざと弥生に抱きついたりして賢人を煽って遊んでいた。
弥生は賢人の気持ちには全く気づいていないようだったが、尊も麗も賢人の気持ちに気づいた上で、弥生にはあえてのスルーを決め込んでいた。
「そ……そんなことないです! 」
「あるでしょ。好きとか言われてない? 」
「……あるかも。でも、あの賢人君だよ? 私なんか遊びにもならないっていうか……」
「遊びにもならないから本気なんでしょ」
弥生はテンパりすぎて首をブンブン振る。
「でも、賢人君の回りには綺麗な女の子がいっぱいいますし、賢人君もそういう子といつも……遊んでいるみたいですし」
中学生の麗に、爛れた賢人の女性関係は暴露できないと、弥生は言葉を濁して言う。
「セフレね。何、あの男、隣の部屋にも女引っ張り込んだりしてんの?! 」
「セ……。麗ちゃん、そんな単語言ったら駄目です。いや、隣には連れてきたことは……彼女っていう一人だけで」
「あの男、弥生ちゃん以外好きになれない癖に、彼女とか作ってんの?! 」
美少女がグワッと怒り心頭な様子で詰め寄ってくる。
「いや、彼女といいますか、有栖川君的には自称彼女らしいんですけど、勘違いするような態度はとったのは本当らしいので……」
「セフレもだけど、そんな面倒な女がいるんなら、全部切れるまで絶対に有栖川賢人と付き合ったら駄目だよ! 」
「もちろんです。それはちゃんと言いました」
弥生がコクコクとうなづくと、麗はやっと表情を和らげて微笑んだ。
「にしてもさ、何で敬語になっちゃうの? なんか、喋り方からしていっぱいいっぱいな感じが半端ないんだけど」
「有栖川君のこと考えると、つい習慣で敬語に……。多分、距離をとりたかったんだと思います」
「ん! じゃああの男にはそれくらいがちょうどいいよ。でも、私にもそんなんだと寂しいな」
麗があざとく上目遣いで弥生の袖をひく姿は、男女関係なく爆裂に可愛くて、弥生はごめんねとしっかりと麗を抱き締めた。
その夜、弥生と麗は遅くまでベッドに潜り込みお喋りし、先に寝入ってしまったのは年上の弥生だった。
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