第31話 目覚めたら服を脱がされそうになってた! 世の中怖いものだ。

「あつつー……もう、なんなんだよ」


 向側に横になってる少女がいる。

 月明かりでも分かるほどに白い肌、長い睫毛に、整った目鼻立ち。近くには箒がある、どうやら魔法使いみたいだ。


「おーい、生きてるかー?」


「ずず……むにゃぁ」


 まさかのぐっすりである。

 飛んでる途中で寝てしまったのだろう。だとすると、さっきの声は一体誰?


「おおい! エーフィー! 起きなよ! こんな所に寝てたら風邪をひいてしまうよ! 全く仕方ないなぁ」


 やはり声がする。

 辺りを見回すも、誰もいない。もしかしてこの子は起きてるのではないだろうか。自分が勇者だと言う事を知ってて、悪戯でもしているのだろうか。

 近くで顔を確認してみる。


「か、可愛いな……」


 お月様が似合う様な、深い顔立ち。

 夜の色が似合いそうだ。


「こら!!! 君!!! はしたないぞ!!!」


 急に耳元で大きな声を上げられ、ついつい背筋を張ってしまう。もう一度辺りを確認するも、どこにも誰もいないのだ。


「おいおいおい!! どこみてやがるんだい! 私の姿が見えないってのか!? こっちだこっち! 下だよ下」


 下も何も、星形の金属が二足歩行で立っているだけでおかしなことは何も……え? 


「いくらエーフィーが可愛らしいからって、相手は無防備な女性。恥ずかしいとは思わないのかね! ぁあん?」


 え? 星が、星が喋ってる?


「今回だけは見逃してやるとも。だが次は無いぞ! いいね? そうと決まれば誰か呼んできて欲しいんだけどさ」


 理解が追いつかない。

 頭を強く打ちすぎたか? 目の前の光景は現実なのか? もしかして……悪魔なんじゃないか? そうだ、そうに違いない! 無機物に憑依し、対象を襲う魔物。戦闘経験は少なくは無いが多少ならある! きっとその手の奴だ!


 腰に据えてある剣を抜き、星形金属に刃を向ける。


「ええい! 何の目的かは知らないが、お前は魔物だな! 少女に取り憑きやがって、ここで成敗してくれる!」


 構え、全身に魔力を溜め込む。

 一閃。魔力を爆発させ、瞬時に相手に懐に飛び込み、剣を振り抜く。単純にして最良の一手。これを防げる者はそうはいない。


「うひいいい!? なんでいきなり剣を抜くんだい! 危ないじゃないか! 納めたまえよ!」


「うるさい! この悪魔め! 少女に取り憑き俺を襲おうとしたな!? なんて卑怯な奴だ!」


「君と言いエーフィーと言い、どうして私を見るなり武器を構えて来るかなぁ。とりあえず、退散だ!」


 そう言って星金属は、なんと少女の服の中に入り込んでしまった。

 なんてずる賢い奴だ。そんな所に入られては迂闊に手が出せない。


「く……だが背に腹は変えられん。この少女を救うには、例えひんしゅくを買っても仕方あるまいな!」


 近くまで寄り、少女を起こし、壁にもたれ掛かるように体制を整える。


「やーいやーい、バーカバーカ! 悔しかったらここまでおーいでー!」


 服の内側からバカにする声が聞こえる。

 許さん、絶対に許さんぞ。勇者とあろうものが、悪魔に馬鹿にされるのだけは我慢ならない。


 とは言うものの、どうしよう。

 少女の服装は、柔らかな素材のカーディガンに、リネンチックなシャツ。一気に引き千切る事もできるが、それでは本人が困ってしまうであろう。服の下から手を突っ込んでと言う案も考えたが、中には星金属がいる。迂闊に手を出すと、指を噛み切られてしまう恐れがあるかもしれない。


「よし、ゆっくり確実にボタンを一つずつ外して行こう。まずはカーディガンだ」


 首元まであるボタンを、第一から順番にゆっくりと外す。

 精密さが問われるこの作業、下手したら婦女暴行で捕まってもおかしくはない。


「よし、これでカーディガンは終了……だ」


 よく見ると、体の割りに胸部は大きく発達しているみたいだ。羽織りものの上では分からなかったが、あの星がすっぽりと入る程の空間を生み出している。


「く……なんと……だがこれしき」


 シャツも上からゆっくりとボタンを外していく。

 情けないことに、シャツの上に鼻血を垂らしてしまった。後で洗濯代は出そう。


 第一、第二、第三。作業は順調に進んでいると見受けられたが、少女が目を冷ましていたのには意識が向かなかった。どの辺りでだろう? 困ったな、終わりかもしれない。今までかなりの訓練を積んできた自分にとって、これくらい楽勝だろと鷹を括っていたのがこのザマだ。


「……いや、これは違うんだ。不可抗力っていうか……ね?」


「……や……」


 少女は静かに両手で両肩を抱き、顔を下に俯かせる。

 そして、その先の地面に水滴を垂らし始めた。


「……や……だ……」


 まずい、これは非常にまずい。完全に怯えてしまってる。


「ああ、待て待て待ってくれ。これには深い訳があって––––」


 すると、背後から人の声が聞こえてきた。


「あれ? エーフィー! エーフィーじゃない! どうしたのこんな所で––––って、なんで服を脱がされてるの? どうして泣いてるの? そこの貴方誰なの? ……エーフィーに、エーフィーに何をしたの!!!!」


「ああ……シーナ……シーナ!!」


 少女はすぐさま知り合いの所に駆け込み、背後に回る。


「……貴方、こんな夜中に彼女を襲うなんて!! 信じられない!!! 誰か!!! 誰かーー!!! 痴漢です!!! 助けてください!!!」


 周りの家の窓から明かりが漏れる。寝ている住民が起きてしまったのだろう。

 まずい、ここは––––!


「全力で逃げるのみだああああああ!!!!」


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