第28話 初仕事はイカれた悪条件付きのおつかいだったぜ!

 面接初日に働く事が確定し、面接初日に仕事を任されるなんて夢にも思わない。このシャーリーというグラマーな女性は、きっと頭の中も大爆発が続いているのだろう。ぶっ飛び具合が半端ないのである。しかも酒臭い。


「えええ、そりゃもちろん喜んでしますけど、私何の準備もしていませんよ? 服装だってカジュアルなものですし」


「なーに大丈夫大丈夫! ただ物を運ぶだけなんだから、そんな警戒しないの! もう可愛いわねぇ!」


 シャーリーは奥の部屋に向かい、小包を取り出してきた。何やら高価そうな匂いがプンプンする。


「あのー……これって?」


 ベロア生地に似ているサラサラとした肌触り。ずっしりとした重み。小さな箱の重量とは到底思えない。


「んーさあね。なんか秘密を知ったら死ぬって依頼人に言われたから開けてないよ」


 なんだそれ!! 怖すぎるにも程がある! っていうかなんて物運ばせようとしているんだこのお姉さんは!


 エーフィーが驚愕の表情を見せている中、シャーリーはさらに追い討ちを掛ける情報を口から放ってきた。


「あ、あとそれね、納品期限過ぎちゃったんだよね。はっはっは、ちなみに三日前。すっかり忘れていたよ! 受取人カンカンだろうな〜」


「ええええ!! なんでそんな危ない依頼放ってたんですかー!! しかも押し付けじゃないですかああ!! ううぅ……行きます、行きますよぉ」


 半ベソになりそうである。

 もし悪い人達か何かの物であった場合、すぐにとっ捕まえられ海の藻屑へと消えるだろう。そうなった時は誰がホッシーを解放してやれるというのだ。


「大丈夫だって! 貴方なら出来る! これくらいの困難越せなくてどうするのよ、借金が一杯あるんでしょ?」


 そうだ、自分には返さなくてはいけないお金がある。取り返さないといけない家がある。叶えなきゃいけない願いがある。


 シャーリーから渡された地図。行き先は遠くの町外れ。その中でもさらに外れの裏路地であった。

 明らかにヤバそうな所だ。一応エールの町に区域されている場所ではあるが、治安が心配である。


「あ、あとその区域通り魔が出るって噂だから、明るい内に渡しておいで。真っ直ぐ行って真っ直ぐ返ってくるお使い任務。楽勝じゃないの」


 そりゃあね、側から見ればそう何だけどさ。提示した仕事は悪条件のオンパレードじゃないか、しかも通り魔て。


 箒に跨った空で今一度状況を振り返る。

 コリーには感謝しなければいけないが、自分は本当にここでやっていけるのだろうか不安になる。便利屋って、要は危ない事や面倒な仕事を押し付けられる職種。当然裏の人間や、黒に近いグレーゾーンなどは日常茶飯事だろう。


「いや〜、中々に強烈な人だったよね。性格も、見た目もさ!」


 空の世界では誰も見ていないし、他人の喋り声なんて聞こえないので、ホッシーは自由にしている。ここぞとばかりにツッコミを入れてくるあたり、しっかりとお話しは聞いている様だ。


「強烈どころじゃないよ〜。はぁ、でもあそこで働く意外選択技が無いのも事実。小言ばかり言っても仕方ないよね」


「そうだね〜、いやあ借金があるって大変なんだな〜」


 かなり人ごと気味ではあるが、もしかして気づいてないのかなホッシー。君はもう巻き込まれてしまっているのだよ、この終わらない金融地獄にね。絶対に逃さないんだから。


「おお、エーフィーからどす黒いオーラを感じるね。感情なんて読む必要が無いくらいの。さては悪い事考えてるな!」


 そんなしょうもないやりとりを交わしながら、次第に目的地の場所へと辿り着く。

 辺りは朽ち果てた建物や、酔っ払って路上で寝転んでるおじさんなど、中心都市とは比べ物にならない程の雑多な風景。スラムとまでは行かないが、近い物を感じる。


 そのまま箒で路地裏に入り、目的の建物を見つける。外に看板は無く、ただのボロ屋である。


「うっわぼろっちいね〜本当に人住んでるのかな」


「こら、声出さないの。それに失礼でしょ。黙っておきなさい!」


 バッグから顔を出すホッシーを深く底に押しやる。


 呼吸を整え、玄関のドアに数回拳を当てた。

 すぐさまガチャリと扉は開き、中からもっさりとした髭を携えた、筋肉モリモリのごつい男性が出てきたのであった。ちなみに頭の毛は無い。


「……嬢ちゃん、何か用か」


 もう見た目通りの太く低い声である。威圧している訳では無いだろうが、警戒はしている目つきだ。

 ひぃぃぃ怖いなあ。


「あ、あのー……こここれを届けに来ました!」


 シャーリーから渡された小包を見せると、男性の表情が一変。鬼の形相に変わり果てる。


「遅いんじゃぼけえええええええええ!!!」


「ひいいいいいゴメンなさああああああい!!」


 汽笛がポッポーとなるかの如く、頭の天辺から怒りの蒸気が空へと舞い上がっていく。ちょっと笑いそうになったがグッと堪えるのだ。


「くっそー!! 納品が遅れてるっていうのによ!! おいお前! 中で少し手伝え!! 魔術師なんだろ? 炎くらい出せるよなあ?」


「ひゃっひゃい!」


 無理やり手を引っ張られ、中へと連れ込まれた。下手すれば一巻の終わりであるが、そこには信じられない光景が広がっていたのだ。


 鉄の匂い、圧倒的な熱風、金属を叩く音、水が一気に蒸発する音。

 似た様な格好をした、これまたガタイの良い男性5人が懸命に作業をしているのだ。


「え? え? 何これ? 何してるの?」


「は? なんだお前何も聞いて無いのかよ。くっそシャーリーの野郎、新人なんか寄越しやがって」


 本当に全く何も聞いてない。ていうか知り合いっぽそうなんだけど、だったらそう言えば良いのに。


「俺たちは鍛冶屋だ。残り数日で勇者に献上する剣を作らなきゃいけねえのに、お願いした金属が中々届かねえから鬱憤溜まりまくりよ。その分、他の作業に集中出来たからまだ取り返しは付きそうだが、これから徹夜続きになりそうだぜ」

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