第23話 きちんと二人と一個分のお菓子を買ってきたよ!

「こんにちはエーフィー。きちんと整理はしていた様で安心したわ。今から鑑定団の方達が来られますから、これでお菓子を買ってきなさい。出来るだけ評判の良いところを頼んだわよ? 食べやすくて手が汚れないのがいいわね」


 来て早々、使いパシリをお願いされるなんて予想していなかったので、慌ててカスタム箒の準備をする。バッグの中にホッシーと砂時計を放り込んで、一気に飛翔するのであった。


「うーんむにゃむにゃ……何だい急に? 目が覚めたらバッグの中だよ、ここはどこ? てか飛んでる?」


「おはようホッシー。あのね、お菓子を買ってこいって言われたの。正直自分で買ってくれば良かったじゃんって思ったけど、色々と親切にしてくれてるから言い返せないのよね」


「ああ、確かエーデル院長だっけ? 昨日話していた」


 昨晩、掃除をしながらどの様に立ち回るかの作戦を考えていたのだ。

 一言でまとめると、なる様になるさ! 作戦。つまりお手上げである。

 冷静に考えてみても、自分が出来ることなど何も無いのだ。


「そそ、まあ家も守ってくれるみたいだし、味方何だけどね」


 どうも昔から苦手な部類の人ではある。

 こう、なんて言うのだろう。音楽教師みたいな厳しさが全身を包んでいるのだ。しかも決めては怒鳴らないときた。下手に怒鳴ってくれた方が感情表現が分かりやすくていいのだが、彼女の傾倒で言ったら、何故ですかを繰り返すタイプである。最終的にしどろもどろになり破滅してしまうのだ! ああ恐ろしい!


 そんなこんなで近くのケーキ屋に寄ってすぐさま帰宅する。鑑定団は四人だそうで、自分と院長とホッシーを入れて合計七つ。だが念には念を、予備の予備、そのまた予備を含めた合計10個のお菓子を抱え、いざ決戦の地へと降り立つ。

 大丈夫だ、問題ない。レディパー……


「けほけほ!! けほけっほぅ!!」


 う、いかんむせた。無闇に変な事を言うもんじゃないね。


「あらエーフィー、お帰りなさい。早かったわね? でもいいタイミングだわ、もういらしてるわよ」


 家の中には年配のおじいさんが四人、熱心に壁に飾られてる絵画に夢中になっていた。やはりそれも貴重なのだろうか? 正直芸術はよく分からない。ただ下手な筆で海が描かれてるだけじゃないみたいだ。


「あ、エーデル院長、これお釣りです」


「あら律儀ね。ん? 結構買い込んだのかしら?」


「ええ! やはり予備は必須ですから。私と院長とほっし……」


 ヤッベー危うくホッシーの名前言いそうになった。シーナみたいに可哀想な目で見られる所だったぜ。ヒュー。


「ん? まぁいいわ。これから私も鑑定団の方達と混ざります。貴方はお茶の用意でもしてくださるかしら?」


「はーい、了解です。それじゃあお願いします」


 お茶の用意なんて口実なのだ。恐らく少しでも高く買い取ってくれる様、説得するのに集中したいのだろう。自分が居ては邪魔になる。


「うーん、暇だなあ。お仕事雑誌でも読むか」


 後日またお城に向かい仕事を探す予定なのだが、とりあえず業種の目星は付けておきたい。下手にお給金が低い所より、少しきつくても高い額が稼げる所を当てなければいけないのだ。


「ふむふむ、雑貨屋さんか。可愛い物が沢山置いてるよね……あ、でも競争率高そうだし、その割にはお給料低いな……」


 冒険者の護衛、農園、配達業、魔導エンジニア、お薬屋さん、お花屋さん、通行調査、警備員、飲食、夜の仕事。数えきれないくらい色々な仕事があるものである。


「一番収入が良いのは夜の仕事だね。でも年齢的にまだ入れないなぁ」


 となると、やはり冒険者の護衛が一番身入りがいい。

 だが魔法ランクの低い身。雇ってくれる所なんて殆ど居ないだろう。あったとしても荷物持ちくらいなもんである。


「はぁ、中々決まらないなぁ。とりあえずやってみるってのもありなのかなぁ。何事も経験と言うし」


「ねぇねぇエーフィー、それならさ、昨日のコリーさんに相談してみると言うのはどうだい? あの人偉い人なんでしょ? 言わば強力なコネがあるって事、上手く利用しない手はないんじゃないかな?」


 おお、それだ! 良い事言った! 確かに盲点だったよ。あの人なら良い仕事先を紹介してくれるかもしれない。自分で探して失敗するのもいいけど、借金が大量にある身分、そんな悠長な事は言ってられないのである。


「ナイスよホッシー! ただの星じゃなかったのね!」


「へへ! こりゃあ今夜のお菓子は豪勢な予感だぜ!」


 いやいやそれはない、あまりにも調子に乗りすぎだ。精々どう頑張っても自分と同等のお菓子である。世の中そんな甘くないのだ。


「あれ? エーフィー、急にそんな冷めた表情してどうしたんだい?」


「んー? 何でもないよ? とにかく暇だね。本でも読んで待っていようかしら……いえ、それよりも魔法の練習ね」


 カーディガンを羽織り庭に出ると、カカシの様な訓練人形が突き刺されている。すぐ足元には焼け焦げた芝生。


「未だ届かないのよね。どうしてかしら?」


 ファイ! と呪文を詠唱し、カカシに火の玉をぶつけようとするも届かず、また真下に落ちてしまった。


「はぁ、どうしてかな。ねえホッシー、何か分からない?」


「……エーフィー、恐らくね、座標がブレブレなのだと思う。固定出来てないから真下に落ちるんだよ」


 座標? ブレる? どう言う事だろう。


「理解できないって顔してるね? えっと、要はどこに打つかってのを意識してないんだよ。ただ単に真っ直ぐに飛べって狙いを定めてるだけなの。すると座標の意味がなくなるのさ。飛ばすんじゃなくて、吸い寄せられるイメージを持ってご覧よ。この火の玉はカカシに吸い寄せられるって感じね」


「ううん……座標ねぇ。吸い寄せられる、か。もっかい放ってみるよ!」


 掌に炎が宿り、魔力の層で丸い球体へと形状を変化させる。衝撃の瞬間に暴発するファイの魔法。当たればただでは済まない。


「はあああああ!!」


 放たれた火の玉はゆっくりとだが前進し、カカシに触れた瞬間に一気に火の手が上がる。


「え? え? やった! やったあああ!!!」

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