第4話 白雪姫と放課後デート?

 あれからなんやかんやあり、今俺はスノバの新作"スノーストロベリーフラペチーノ"を飲んでいた。

 名前のとおり、雪のように白いバニラクリームがたっぷりと盛られ、その上には真っ赤なストロベリーソースがかけられている。

 それを一口ごくり。

 とても甘い。だが、それがいい。

 甘党の俺のためだけに作られた商品と言っても過言ではない。

 と、まあそれは置いといて。


 念願の新作を飲みにスノバに来たわけだが、俺はここに一人で来たわけじゃない。


「……あ、これ甘くて美味しいです」


 俺の対面に座り、同じフラペチーノを飲み感想をこぼしているのは早見姫雪。

 ストローを口にくわえ、ちびちびと飲んでいる様子も非常にかわいらしい。

 もしこの光景をどんぐりが見たら、「ストローに生まれたかった……」なんて言い出しそう。


 あの後、もともとスノバの新作を飲みに行こうと思ってたと早見に伝え、実は予定があるんだとアピールをするも、その努力も無駄に終わり。

 むしろ、早見は「それならちょうどいいですね。お礼に御馳走させてください」と。

 

 女の子に奢られるのは男としてさすがにどうかとも思ったのだが、お礼を済ませるまで解放してくれない気がしたため、お言葉に甘えているというわけだ。


 ただ、俺が昨日早見に渡したのはせいぜい300円程度。

 それに比べ、この新作フラペチーノのお値段は580円。

 明らかにこっちの方が高いと言ったのだが、お礼なのだから気にするな、とのこと。

「鶴の恩返し」ならぬ「白雪姫の恩返し」。

 書籍化したらさぞ人気が出ることだろう。

 世の男どもは、表紙の美少女を見た瞬間にレジに直行するに違いない。


 そんなつまらないことを考えていると、早見は「あっ」と声を漏らす。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は早見姫雪といいます」


 はい、存じております。

 むしろ、あなたのことを知らない人は学校内にはいないと思いますよ。

 しかし、名乗られたのだからこちらも名乗るというのが礼儀というもの。


「えっと、紫吹冷です」

「紫吹冷さんですね。……はい、覚えました」


 早見はそう言いながらわずかに笑みを浮かべ、

 

「それと、敬語を使わなくてもいいですよ?」

「でも、早見さんも敬語ですよね?」

「私はこれがデフォルトなので、気にしないでください」


 早見が敬語で話していたのでなんとなくそれに合わせていたのだが、誰に対してもその話し方らしい。

 丁寧な口調からは、育ちの良さや彼女の真面目な性格がうかがえる。


「実は、俺もそうなんですよ」

「あ、そうだったんですか……。それは失礼しました……。」

「嘘です」

「……」


 早見の俺をみる目がジト目に変わる。

 どうやら俺のアメリカンなジョークは通じなかったらしい。

 まあ、どこがアメリカンなのかは知らんけど。


「……とにかく、もっと気軽な話し方をしてください」

「りょーかい」


 俺が答えると、早見は一度頷き、さらに言葉を続ける。


「改めて、お礼を言わせてください。昨日は本当に助かりました」

「感謝してくれるのはいいんだけど、少し大げさじゃないか?ただ小銭を少し渡しただけだぞ」


 俺が言うと、早見は首を左右に振り、


「あなたにとってはそれだけかもしれませんが、私にとっては違うんです。あなたに助けてもらわなければ、私はあのままバスから降りることができませんでしたから」


 たしかに、故意ではないにしても、最悪の場合、無賃乗車扱いされてしまっていたかもしれない。

 自分が同じ状況になった時のことを想像してみるだけで、彼女の感情を察することができた。


 しかし、ここまで感謝されると、助けてよかったと素直に思えてくる。


「まあ、お礼はこのとおりちゃんともらったし。気にしないでいいよ」 

「私としては全然足りないと思うのですが……。」

「ほら、これ以上されると逆にこっちが気を使うから」

「……そう言うことなら、一先ずはそういうことにしておきますが……。」


 一先ずじゃなく、ずっとそうしてくれ。

 でも、とりあえずは納得してくれたようで何よりだ。


 それにしても、こんな風に放課後に家族以外の誰かと過ごすのはずいぶん久しぶりだ。それも、高校生になってからははじめてのこと。


 その相手が泣く子も黙る美少女なんだから、おかしな縁もあったものだ。


 まあ、早見からのお礼も受け取ったし、それもこれっきり。きっと、明日からはまた平穏な日常が戻ってくることだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る