為替レートの変動が経常収支に与える影響

 為替レートの変動は、貿易収支の改善もしくは悪化という形で、経常収支に影響を与える。

 まず、前提条件を確認したい。経常収支とは、国際収支における財・サービスの売買、物々交換、贈与のことを指すので、貿易の占める割合が多い。つまり、貿易収支の改善もしくは悪化は、経常収支にダイレクトに影響を与える。また、輸出入は、名目為替レートによってではなく、実質為替レートによって決定される。なお、交易条件は相対価格とほとんど同じものであり、つまり実効為替レートとほとんど同じものであるということができる。

 弾力性アプローチによれば、輸出は、自国通貨である円の切り上げが起こった場合、外国需要曲線は全体がシフトするので、外国に対して新たな価格で供給して、外国需要曲線に合う形で輸出量を維持することになる。一方で輸入は、円の切り上げが起こった場合、輸出と異なり供給は外国によるものなので、自国需要曲線は上方シフトし、日本人の輸入品に対する需要は拡大する。

 だが、貿易収支は輸出収入と輸入支出の合計なので、通貨の切り上げあるいは通貨の切り下げが貿易収支を改善するか悪化させるかは、輸出入全体、つまり貿易全体を考える必要がある。

 マーシャル・ラーナーの安定条件によれば、輸出入の弾力性の和が1を上回れば、交易条件の改善は貿易収支を改善する。自国通貨高は貿易収支悪化につながり、自国通貨安は貿易収支改善につながる。これはなぜだろうか。一般的には、外国為替市場において自国通貨の価値が下がると、自国通貨ベースで見た輸出財価格が相対的に高くなるため、交易条件の改善につながる。しかし、自国通貨安が貿易収支を改善するためには、数量変化が自国通貨安による輸出入価格の変化を上回っていることが必要である。つまり、自国財に対する外国需要の弾力性と外国罪に対する自国需要の弾力性が、十分に大きくなければならないのである。

 そして、マーシャル・ラーナーの安定条件によれば、自国の為替レートが下がった場合、その国の経常収支は改善するはずだが、すぐには改善しない。一時的にはむしろ悪化した後、改善に向かう。この現象を、経常収支を縦軸に、時間を横軸に取ってグラフを書くと、アルファベットのJのような形になるため、Jカーブ効果という。反対に、自国の為替レートが上がると、経常収支は一時的には改善、後に悪化する。Jカーブ効果とは逆の動きをするため、逆Jカーブ効果と言われる。

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